北野恒安(Wキャスト)/崇徳上皇

「ぼくはもう5さいなんだよ!」
楽屋で窪寺の子供と遊んでいたらそう教えてくれた。
そう言えば5年前。
『美しの水』の公演の客席で窪寺を見掛けた。
窪寺はハンチング帽を目深に被りサングラスをしていた。
「窪寺」って僕は声を掛けたんだ。
けど、窪寺は気まずそうに小さく会釈して直ぐどっかに行ってしまった。
終演後も楽屋には顔を出さず直ぐに帰ってしまったようだ。
その態度が頭に来て悲しくなった。
“何だよ、アイツ。仲間だと思ってたのにアンドレ退団したら芸能人気どりかよ!”
って思った。
けど、暫くして思ったんだ。
本当はそうじゃなかったんじゃないか、と。
あの時の窪寺には空元気で平気な顔を装える余裕もなかったんじゃないか、と。
だから劇場で知り合いにあったり声を掛けられたりするのが何よりもイヤだったんじゃないか、と。
窪寺にとってアンドレはそれほどに大切な場所だったし大切な時間だったんじゃないか、と。
“空元気で平気な顔も装えないなんてホント不器用だよな。窪寺は役者失格だな。
それになんなんだ!あのハンチング帽とサングラスは。目立たないつもりかもしれないけど、全くの逆効果だ”
って思った。
そんな風に思って窪寺昭が愛おしくなった。
あれから5年が過ぎた。
紆余曲折あって窪寺はアンドレに復帰したようだ。
5年前と大きく違うのは楽屋で見掛ける子供の数だろうか。
僕らの大切な場所はもっと素晴らしい場所になった。
僕らの大切な時間はもっと深い時間になった。
全てのお客様に伝えたいのは「出会ってくれてありがとう」ってことだ。
お客様がいてくれるから大切な場所は素晴らしい場所であり続けることができる。
お客様がいてくれるから大切な時間は更に深い時間になり得る。
僕らはそんな大切な場所と時間をより多くのお客様と共有していきたいんだ。
…客演なのにまるで劇団員のような挨拶になっちゃったね。
でもさ、そんなのきっと関係ないよな。
だってさ。
僕らは仲間なのだから。