「七年後あなたは何歳になっていますか?」というお話です。
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面白い会話が行われていた。
十八歳の少女と、経験豊かな老人との対話である。
老人は少女の人生の方向、特にどんな分野の職業を目指しているかについて尋ねた。
少女は答えた。
「そうですね、私は心理学者になりたいんですけど、そのためには長いこと勉強をしなければなりませんから、なったところで年を取りすぎているんじゃないかと心配なんです」
賢明なる老人はしばらく黙って座っていた。
それから微笑んで、こう聞いた。
「お嬢さん、心理学者になるには何年かかるのですか?」
「七年くらいです」と少女。
「七年経つとあなたは何歳になっていますか?」
「二十五歳です」
それから老人はこう尋ねた。
「心理学者にならなかったら、七年後あなたは何歳になっていますか?」
当然ながら、少女の答えは同じだった。
「二十五歳ですけど」
デニス・キンブロ 著
ナポレオン・ヒル 著
田中 孝顕 訳
きこ書房
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何かを成しえるのも、何者かになるのも、時間がかかるものです。
しかし、何もしなくても時間は経過するということを忘れがちです。
5年経てば、5歳年をとる。
大切なのは、5年分成長しているかどうか。
5年経過するリスクはよく理解できるけど、
5年間成長しないというリスクは、意外と見えていなかったりします。
仕事でも勉強でもスポーツでも恋愛でも言えることでしょう。
あのときさじを投げてしまったリスク、
あのとき頑張らなかったリスク、
あのとき告白しなかったリスク、
人は、自分が選んだ決断を、良くも悪くも納得させようとします。
「ある大工の話」というお話をご紹介して終わります。
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引退しようとしているある高齢の大工の話を紹介しよう。
この話が私は好きだ。
とても大切なことを語っているからだ。
その大工は、もうそろそろ家を建てる仕事をやめて、妻と一緒にのんびり暮らそうと思った。
雇い主は、個人的な願いとして「もう一軒だけ建ててくれないか」と頼んだ。
大工は承知したが、真剣に仕事をする気はなかった。
粗悪な材料を使い、手を抜いた。
キャリアを積んだ優秀な職人の幕引きにしては、残念な仕事だった。
家は完成した。
点検にやって来た雇い主は、玄関のカギを大工に渡していった。
「この家はあなたの家です。
私からのプレゼントです」
大工は、大ショックを受けた。
ひどく恥ずかしかった。
自分の家を建てているとわかっていたら…たぶんもっと頑張っただろう。
私たちもこの大工と同じだ。
毎日毎日、人生という家を建てている。
だが、建てていることに全力を尽くしていないことが多い。
そしてずっと後になって、自分がつくりあげた人生(建てた家)に一生住みつづけなくてはならないことを知ってショックを受ける。
もう一度、やり直すことができたら、まったくちがうことをするだろう。
だが、その時はもう、後戻りはできないのだ。
あなたに後悔してほしくない。
あなたも私も、大工のことを笑えない。
私たちは人生という一生住みつづける家をつくっているが、果たして最善を尽くしているか…
「ベストを尽くせ」という言葉は耳にタコができるほど聞かされた言葉かもしれない。
それから「あと、ひと頑張りだ」という言葉も。
でも、もう一度いおう。
いま、取り組んでいることに全力を尽くすと、思いがけないところから幸運がもたらされることが多い。
もうダメだとか、おしまいだとか思っても、もうひと頑張りすることが何より大切である。
それをどうか忘れないでほしい。
あと、ひと頑張りだ!
もう一歩だ!