第7・8・9景
バートリーの番だ・・・
モーリアはそう言うと、二人にエーモンを呼んできて自分の棺桶を作るように言います。
息子達が行ってしまい、自分もそう長くないだろう事をつぶやき
息子や、愛する夫がいた頃を思い出します。
スティーブンとショーンが行方不明になり、後に黄金湾のグレゴリー入り江でみつかった・・・
ほかの二人が、同じ板に乗せられて、ドアから入ってきた・・・
モーリアが一瞬話をとぎったその時
キャスリーンとノーラはドアの向こうから何か聞こえたかのように、ぎくりとします。
二人は顔を見合わせて、北東の方で何か聞こえなかったかと、ひそひそと話しています。
モーリアは、そんな二人のやりとりが何も聞こえなかったように続ける。
シェーマスと、父さんと、そのまた父さんは暗い夜に行方不明になり
その後、形見の品は棒切れ一本もみつからなかった・・・
パッチは、ボートがひっくり返って海に投げ出された・・・
バートリーがまだ赤ん坊だった頃、膝に乗せて座っていると
女達が、次々と家に入ってきて何も言わずに胸に十字を切った。
外を見ると、女達に続いて男達が、
船の帆の赤い布切れに“何か”をくるんで運んできた・・・
その“何か”からは、水がぽたぽた滴って・・・
その滴った水の後が、ずっとドアのところまで続いていた・・・
モーリアは再び話をとぎり、手をドアのほうへ差し伸べると
そこから、女達が列をなして家の中に入ってきました。
敷居のところで十字を切り、ひざまずいている。
モーリアはキャスリーンに向かって、半ば夢うつつに
あれは、パッチかい?マイケルかい?それとも他の誰かかい?
と問いかけます。
キャスリーンはそんな母に、マイケルの衣服を母に見せ
マイケルは北の海でみつかり、着ていたものも北のほうから届いたんだと言い聞かせます。
その時、ノーラが男達が何かを運んで来るのに気づきます。
その“何か”からは水が滴り、その跡が大岩の方まで続いているのを・・・
キャスリーンが、家の中にいる女達に、
あれはバートリーなのかと問うと、
一人の女が、
神様のお恵みを・・・
と祈りをささげます。
どうやって溺れたのかと、キャスリーンがその女に問いかけます。
灰色のポニーに蹴落とされ海に落ち、いつも強い波しぶきを立てている白岩に打ち上げられた・・・
男達が、家の真ん中の板にバートリーを安置します。
モーリアはバートリーの頭のほうにひざまずき、女達は嘆きの声を上げ、
キャスリーンとノーラもその場にひざまずきます。
モーリアは、周りの人が目に入らないかのように嘆きます。
みんないなくなった・・・
海もこれ以上、私にむごい事はできないだろう。
東からも西からも高い波が打ち寄せ、すさまじい音を立てる度に
思わず起き上がり、泣きながらお祈りをする事も・・・
サヴィンの冬祭りの後、聖なる井戸まで降りて水を汲む事も・・・
女達が嘆きの歌を歌っているとき海の荒れ具合を気にする事も・・・
もうそんなことは気にしなくてよくなったんだ・・・
バートリーに聖水をふりかけ、続けます。
お前の為に、神様にお祈りをしなかったわけじゃないんだ・・・
だけど、これでゆっくり休める・・・
モーリアは、息をひそめ祈りを唱えます。
神様、バートリーの魂に、マイケルの魂に
それから、シェーマス、パッチ、スティーブン、ショーンの魂に、どうぞお恵みを・・・
また、私の魂に、生き残った全ての魂にお恵みを・・・
人間誰だっていつかは死ぬ。
私達もそれを諦めなければならない・・・
モーリアはそう言うと、静かに眠りにつきます・・・
遠くからは、女達の声と、海の音がいつまでも続いています・・・
これが、海へ騎りゆく者たちの全てです。
全てが終わった・・・
そう思っていても、同じことが繰り返されていく。
海の流れに終わりがないように、人間の営みも繰り返されていくのです。
死んでしまっても、その先を信じて生きる美しさ。
《輪廻転生》
確かに暗い内容ですが、その中に純粋な美しさを感じます。