シルクロードの旅を始めるにあたって、西安のこの場所は是非訪ねておきたかった。
ここ大雁塔は、天竺から帰還した三蔵法師が、持ち帰った仏典の翻訳をしたといわれる場所である。
これから僕も西域に向かいます。
と挨拶をしておくのである。
僕にとっての三蔵法師とはすなわち、夏目雅子でありいかりや長介であったのだが。
幼少の頃ブラウン管の中で繰り広げられていた大冒険が、24歳といういささかぱっとしない年齢に達して現実とシンクロし始めたのである。
これが興奮せずにいられようか?
玄奘は果たしていかなる心境で未知なる西の国天竺へと向かったのだろう。
当時世界文明の先端を走っていた大国唐の国力をバックにしていたとはいえ、やはり命がけの旅であった事は間違いあるまい。
仏弟子としての純粋な求道心か?
高僧として不朽の栄誉を欲しいままにするためか?
そして今、僕もまたその道をゆこうとしているのである。
さて、三蔵法師はともかくとして、僕は一体何を求めてこの道をゆくのだろう?
20世紀も末の文明の時代とはいえ、僕には超大国のバックアップも、孫悟空らの供もない。
求道心もなく、不朽の栄誉も得られそうにはない。
頼りはおなかに巻いたマネーベルトの中のパスポートと、全財産に等しいトラベラーズチェックのみ。
あはは! まあいいやそんなこと。
少なくとも今の方が、試験勉強で何日も徹夜を重ね分厚い医学書と格闘していたこの間までより物事が単純でわかりやすい。
僕は この道を 西へと突き進む。