#35 太原 | かふぇ・あんちょび

かふぇ・あんちょび

このカフェ、未だ現世には存在しません。

現在自家焙煎珈琲工房(ただの家の納屋ですけど…)を営む元バックパッカーが、

その実現化に向け、愛するネコの想い出と共に奔走中です。

 手持ちの中国元が底を尽いたので、太原の町に到着後、ザックを担いだまますぐに中国銀行を探した。
洛陽で両替を済ませておくはずだったのだが、あそこの銀行は昼休みが異様に長く、しかも窓口に表示してある午後2:30の業務再開時間を過ぎても人々が仕事に戻って来なかったのであった。

 この町は洛陽に較べても近代的で都会のように思えた。
実は中国の地方都市の印象はどれも似たり寄ったりで、記憶がごちゃまぜになっていてよく思い出せないのではあるが。

 銀行の窓口のお姉さんは、バックパックを担いで入ってきた僕が珍しいらしく、トラベラーズチェックを別の係に回した後で、

 何処から来たの? 何歳? 結婚してるの? 私ベトナム人かと思っちゃった!

 と、矢継ぎ早に英語で質問攻めにしてくる。

 早く両替してくれないかなあ と思いつつ彼女に折鶴を折ったりして遊んでいると、奥から日本で言うと課長みたいな感じのメガネのおっさんが出てきた。

 彼もそれなりの英語を話したが、その内容はまるでスパイへの詰問であった。

 Q: お前は日本人か?

 A: はい。提出したパスポートの通り日本人です。

 Q: 何の用でここ山西省に来たのだ?

 A: いや、特に用はありません。

 Q: 何処から来た?

 A: 洛陽から今朝到着しました。

 Q: 何処へ向かうのだ?

 A: 次は北京に行こうと思っています。

 Q: 洛陽から直接北京に行けばいいではないか! 太原にきた本当の目的は何なのだ?

 …ここまで来て、自分でもよく分からなくなってきた。
本当の目的? 大体からして、僕にはこの旅自体の目的すら分かっていないのに。
太原行きのバスがあったから乗っただけの話である。

若かった僕の忍耐力の方もどうやら限界であった。。

 A: とにかく金がないんだよ!お望みどおり北京に行ってやるから、早く両替しやがれ。

 今思えばあの課長さんはただ単に部下たちに英会話を披露したかったか、あるいは僕の折鶴が欲しいけど恥ずかしかったのかもしれない。
だけどあんなに威張って詰問しないでいいじゃないか…。

 こうして僕はすっかり腹を立て、両替を済ますとバスターミナルへと戻りその日の夕刻に出る北京行きのチケットを手に入れた。
結局この町の滞在期間はわずか数時間ということである。
何日か滞在すればそれなりに面白い出来事に出くわしたであろうに、勿体無い事をしたものである。

 回想してみると、全然腹をたてる必要などない会話のように思えてくる。

 …いや、実は思い当たるフシがある。
僕は現在でも、なんで? とか、 Why? という質問に極端に弱い。
普段から論理的に行動していないので、自分でも解らなくなってしまうのかもしれない。

 今この時に生きようとしながらも、「僕は、これでいいのか?」 という自信のなさが常にココロの奥底に潜んでいる為に違いない。

 ・・・きっと、今でも。