#18 長江渡河 | かふぇ・あんちょび

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このカフェ、未だ現世には存在しません。

現在自家焙煎珈琲工房(ただの家の納屋ですけど…)を営む元バックパッカーが、

その実現化に向け、愛するネコの想い出と共に奔走中です。

 上海からの小旅行の最初の目的地に選んだのは、長江の北岸に位置する揚州という古都であった。

10年後の現在、最初の目的地がなぜに揚州なのか自分でも解らない。
当時の僕のバイブルであった『地球の歩き方』にもほとんど記事が載っていないような町だったのである。
まだ仏教にもまるで関心を持っていなかったから、日本に渡来した高僧鑑真和尚ゆかりの地が訪れたかったからとも考えにくい。
バリバリの初心者バックパッカーのくせに、早くも持ち前のへそ曲がりを発揮したのだろうか?
日記を読み返してみても、バスの切符売り場のカオスのすさまじさが延々と描写されているだけである。
…今となっては謎だ。

 ともかく、僕は苦労してバスの切符を手に入れ、翌日の早朝、バスターミナル前の屋台で「揚げパンと変な味のミルク」(今思えば油条と豆乳という中国の典型的朝食メニューである。)で腹ごしらえをし、無事バスへと乗り込んだ。

 中国大陸の旅の始まりである。

 バスの中では、振動で筆跡をグシャグシャにしながら、乗客の皆さんと筆談をした。
もう少し後の僕ならば、大人しくまともな乗客としてバスの旅を楽しんだであろう。
しかしまだ全ての出来事が新鮮で面白く、たった一人の外国人に興味津々の乗客たちの中にあって、何もチョッカイを出さずに黙っていることなど思いもよらなかったのだ。

 早朝に上海を出発し、昼前に長江を渡河。
どうやって渡るかというと、でかい上陸用舟艇みたいなボロ船に乗り、のろのろとはるかかすんで見える対岸を目指すのである。

この間に、ピーナツやひまわりの種、新聞・雑誌などを手に、売り子のおねーさん達がバスに乗り込んできた。
僕は面白がって、”戌年のあなたの運勢”と思われる冊子を購入。
 適当に意味を想像しながら熟読するが、もちろんほとんど解らない。
暇を持て余している乗客のみんなもかわるがわる覗き込み、それぞれの解釈を筆談ノートに次々に書き込んでくれた。

どうやら、95年の僕の運気は、非常に安定しているらしかった。
皆も親指を立て、好!と請合ってくれた。

…大学を辞め、有り金全部持って大陸に渡り、期間も行き先も解らない旅をしているこの年を安定と呼ぶのなら、これからの僕の人生はさぞかし波乱万丈に違いない と日記の中の僕は笑っている…。

 だが今では、あの占いはあながち出鱈目でもなかったと思う。

あの年は間違いなく素晴らしい年であったし、現在に至るまでのあれ以降の僕と比較すると、安定していたとさえ言ってもよいと思えるのである。

 船は30分近くかけて対岸へと着いた。
川を渡るのに30分である。
そして上海出発から8時間後、揚州の町に到着。