カモカは自分の握りこぶしに視線を落とし、小さな声でたずねた。
「彼女はどうしたの?」
カモカの問いに、空になったコップを静かにテーブルに置き、ロウは空っぽな笑顔を見せる。
「彼女…ルインは死んだよ、魔物に心臓を食われてな」
「…魔物は憎い?」
ロウはカモカのあまりにも直線的な質問に、驚きながらも頭を横に振った。
再びうつむくカモカ。
なぜか、今まで張りつめていたカモカの緊張が解けたように見えた。
そんなカモカにロウは静かに語りかける。
「俺は魔物を殺す傭兵だけどな、別に魔物がみんな悪いとは思ってはない、憎しみなんかとっくの昔に通り過ぎて、今は後悔しか無いよ」
「…後悔?」
カモカは顔をあげた。
その頬には一筋、涙が零れて光っている。
「あの日、俺とルインは結婚する予定だったんだ…結婚の儀式を行うために村外れにある滝で待ち合わせていたんだ、でもいつまでたってもルインは来なかった」
「村で魔物に殺されてた…」
「ああ、果敢に戦いに行った村の男達は返り討ちにあい、最終的に逃げ遅れたルインだけ殺された…あの時、俺が一緒にいればこんなことにならなかったはずなのに」
今度はロウがうつむいて、握りこぶしを作っている。
奥の厨房からのジュージューと油が踊る音だけが賑やかだ。
「…ずっとこの事ばかり考えているんだ、馬鹿だよ俺は」
きつく握った手をほどき、ロウはカモカを撫でる。
カモカの両方の目からポタポタと涙が流れおちていた。
「悪かった、湿っぽい話してしまって」
ぐすんとカモカは鼻をすする。
どうやったら泣きやませられるのかと、ロウが困惑していると重量感のある足音が近づいてきた。
「あ、兄ちゃんめ、こんな可愛い子泣かせてる、いけないなあ」
「あ、謝ったよ、謝ったけど…」
ラッシュはカモカの頭をよしよしと撫でながら、もう一本の手で料理をテーブルに並べる。
皿からはみ出るくらい大きい魚が、切れ目を入れてカラッと揚げられていた。
「ほら嬢ちゃん、僕の特製、季節の魚の丸揚げを食べちゃいなよ!」
えっへんと自信満々な店主は毛で覆われた胸をはるが、カモカはぐすぐすと鼻をすすって泣きやむ気配がない。
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