本書は歴史小説家としての著者の名前を高らしめた長編物語のうちの一つだ。何故ヴェネチアの人々が干潟に都市を作り上げ、共和国を建国し、その体制を維持しながら1千年もの間栄えることができたかという歴史を、独特の視点から、冷徹に描きあげた作品だ。ローマ帝国末期、蛮族による略奪から身を守るために海へと逃れたヴェネチアの人々は、やがて”海よお前と結婚する!”という宣言とともに、海洋通商国家を創設する。そして、勃興するフランク帝国、ビザンチン帝国、トルコ帝国といったヨーッロッパ、アジアの大国の狭間を巧みな外交、経済政策によって国家を運営し千年の間共和国として栄えて行く。最新技術を駆使した船舶を多数保有して、最強の海軍力を擁し、海路の安全保障を確保して、自ら作り上げた海の高速道路により、東西通商の交流を盛んにして巨万の富が落ちるシステムを作り上げてた様子を詳細に記述している。歴史的な事実をその原本から読み解いて、小説家としての想像力を逞しくして書き上げていく手法と文体はその後の大作、ローマ人の物語に通じている。栄華を誇ったヴェネチア共和国もやがてその最期を迎える...共和国という国家体制を堅持し続けた国家も協力なリーダーによる専制君主を期待するようになり、国の根源の力そのものが失われていくようになる。それを描いた著者の一文
”アンティ・ヒーローの国が、ヒーローをもてはやしはじめては終わりである。なぜなら、英雄待望論は、報われることなど期待できない犠牲を払う覚悟とは無縁な人々が、自己陶酔にひたるのに役立つだけだからである”
これこそ、著者が歴史小説を書くモティベーションの根源なのではないかと思う。ローマ人の物語も カエサルを描きたいから描き始めたというのが対談での公式見解だが、作品のところどころに見られる、歴史上の名もない人々の細かな描写は、歴史を通してさまざまな人間の生き様を描きたいというのが著者の本当の目的なのではないかと思わせる....という勝手な妄想は良いとして、これはお勧め!☆☆☆☆☆で!まさに気の合う友人と話ているような安心感があります。

















