夢のオーダーメイドジュエリーストーリー　第３話

今日は珍しく寒い。

正月と打って変わって冷え込む。

私のアトリエは古い日本家屋の一軒家だ。

訳あって、しばらく空家になっていた祖母の家を使わせてもらっている。

古い家だ。

壁の黄ばみやシミなども目立っていた。

そう言えば祖母は私が子供の頃、

昔の人同様にタバコを吸っていた。

ショートホープだった。

香炉のような形の灰皿を使っており、

子供ながらにその姿は少しかっこよく見えた。

オシャレな人だったと思う。

気づけばいつのまにかタバコを止めていたが、

いつ止めたのだろう？

壁面を塗りなおすのも大変だったので、

友人の画家に絵を描いてもらった。

私にも友人にも縁のある沖縄の風景。

壁の変色をうまく活かした温かみのある絵だ。

ここで私は制作＆彫金教室をしている。

とにかく隙間風が寒い。

その代り、夏はエアコンを使わないくらい涼しい。

ガスストーブをつけ、フリース上着にレッグウォーマー、

めがねの完全防備でパソコンに向かう。

市内は雪が降り積もっているらしいが、

大阪南部の郊外であるこの町はめっきり快晴だ。

雪の気配は全くない。

昨夜遅くに書き上げたデザイン画と見積書を、

花純さんにメールで送った。

煎れたての熱いインスタントコーヒーをすすりながら、

返事を待つ。

私のフルオーダーはデザイン料込で最低50,000円~である。
もちろん地金で大きく変わる。
素材、石、デザイン性と作業量で変動する。
あとはお客様との予算に応じて、可能な限り対応する。
花純さんの予算は100,000円。
ありがたい。
それだけあれば、比較的自由にデザイン案が出せる。

まず3パターンのデザイン案を送る。
そこから一回で決定する場合もあるし、
大抵はベースになるデザインを決めてもらってから、
そのデザインベースで修正案を3案提出する。
ここでもう一度ご希望をヒアリングする。
大体はこの流れのやりとりを２、３回繰り返して
デザインは決定する。
ベースデザイン提出が3回以上、
つまり9パターン出しても決まらない場合は、
追加のデザイン料を頂く。

あまりに希望が揺らぐ場合は、
申し訳ないがこちらから制作をお断りする場合もある。

デザイン案の提出の段階から、
お客様にも本気でオーダーメイドに向き合って頂くためだ。
何を形にしたいのか、
お客様自身にも明確にしていただき、
その言葉から、私はイメージを拾う。

お客様と私の感覚が上手く共鳴し合ったときの感動は、
体験した人にしか分からない。
夢が形になる旅のスタートだ。

イラストで話ができるのは私の強みである。
その日のやり取りで、デザインが決まった。

Good artists copy, Great artists steal.
by パブロ・ピカソ

良い芸術家は模倣し、優れた芸術家は盗む。
または
凡人は真似、天才は盗む。
とも訳される。

言葉を身につけたい。

おもしろい依頼だと思った。

私も大好きな言葉だ。

新しいスタートを切ろうとしている彼女の、
力強い後押しになることを願う。

デザインが決まり、ホッと一息ついた。
後は造るのみ。
制作のことは草稿の段階で全く考えない。
造りやすいものを考えてしまうからだ。

さぁ問題は、このイラストをどうやって形にするか…
いつもこうして、自分で自分の首を締めるのであった。

続く→　第４話はこちら

※この物語はフィクションです。

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