気がつくと、3時だった。
はっきりとした頭で、どんな夢を見ようか、考えていた。
昨日あったことを思い出してみた。
しかし、浮かぶのは、さっきの夢の続き、いかにもあやしいエステの回数券を買わされるところだった。
なんで、いつもそんな嫌な気分の夢のあとは、どうしようもなくて、
目が覚める。
そして、嫌悪に陥り、また夢の世界へ逃げる。
いつものように、逃げたかった。
夢の世界は、なんでも叶えてくれる。望んだものをすべてくれる。
過去の嫌な思い出、出来なかったこと、今よりもっといい世界を見せてくれる。
そして時々、とんでもなく現実みたいな、現実より最悪な世界も見せてくる。
それはたぶん私の不安から来る。
夢の世界は私はいままで見たもので、それを、期待や不安が大きく小さく変化させ、
夢として私に見せてくれるんだと思う。
自分がどれだけ期待しているのか、不安に思っているのか、
私はいつも解っていない。
現実に目に見えているものを私はちゃんと見ようとしていないのだ。
いつも、音楽を聴いて、下を向いて、誰とも目を合わせず、話もせず、気配を消して、
自分の世界に閉じこもっている。
4時になった。
暗闇は、どこもかしこも暗くて、怖かった。
楽しみにしていたさっき見たドラマを思い出そうとしたけど、やっぱり出てこなかった。
出てきたのは、友達んちのベッドだった。
自分のベッドに戻ってきたのに、寝れないなんて。
私は、なんでここにいるんだろうと、また考えていた。
大切なものを全部捨てて、なんでこんなところで、うだうだしてるんだろう。
誰も、解らない。
だって私にも解っていないもの。
ふと、出てきたのは「居場所」という言葉だった。
あそこには私の居場所があった。
実家には、私の居場所はない。だから、簡単には行けない。
でも、それを作るというか、見つけるために、来たのだ。
なんで、あの時、家を出た?
なんで、それから帰らなかった?
もちろん、行きたくなかったからだけど。
それで、いいのか?といつも問いは消えなかった。
いまじゃ、母は思っていたより、弱くなっていたし、丸くなっていた。
感情的に嫌味をいう時もあるけど、年をとっていた。
父も昔より母を庇護していた。
あそこに帰ることは、いまの私には、きっと希望だろう。
でも、ここに残りあそこのようになることも、希望だろう。
なかったものを作るために、来たんだと、胸を張ろう。
できなかったことをするために、来たんだと、上を向こう。
5時になって、薄明かりを感じた頃、眠気はやってきた。
室外機の音が変わる。
そして、部屋中本だらけの書斎で、とても狭い出入り口に入ろうとして、
兄に助けてもらう夢をみた。
耳から聞こえてくる歌は私のためだけに、歌ってくれる。
私は、夢の中で、誰かに歌うことを想像していたが、
歌は、私のためだった。
具体的な誰かに助けを求めれば、きっと助けてくれるだろう。
なんでそれが、できない?
また死にたくなった。
できないことが小さすぎて、嫌になる。
誰とも比べなくていい?
ちゃんと自分を愛して?
そんなの我慢しなくていい?
見えないものを信じて?
考えれば考えるほど、希望から遠ざかる。
一番最悪な不安を選んでしまう。
「どうでもいい」
「面倒くさい」
現実の私がよく使う言葉。
そしてこの言葉は、現実も夢もすべてを破滅させる。
言うことはたやすい。
でも、言ってしまうと、世界は変わる。
色がなくなり、感触も匂いも音もなくなる。
この言葉は私を孤独にさせる。
なにがってそれに気づいていないこと。
いつも後で、気づくんだ。
でも時間は過ぎるから、後悔してるひまもなく、振り返ることも、できず、
また同じことを繰り返し、もう何回も何回も何十回も繰り返して、
いまどこにいるのかも、わからなくなって、
また同じことを繰り返すんだ。
夜の間のことは、朝になると、忘れてしまうだろうなと
思っていたけど、本当に忘れるものね。
生まれ変わるんじゃなくて、そのままだから。
大丈夫。
後悔も、希望も、期待も、孤独も、不安も、
全部どうせ、このままだから、大丈夫。
私は私になるから、大丈夫。
過去も未来も。
ここには、私の手の届くこの世界には、なんでもある。
私には可能性がある。
無駄なものはない。
いつもそう思っている。
でも、風が揺らすカーテンを見ていると、死にたくなる。
そしては、私を生かす力だったりする。
「何回も、何回も、痛い目にあっても、
私には、必要だから。
何回失敗しても、繰り返してしまっても、
私には、必要なことだから。」
風に吹かれたカーテンは、そう言って、ふわふわ揺れる。