図説 ハタ・ヨーガ・プラディーピカー

 アマゾンで予約しておいた新刊書が届きました。株式会社めるくまーる発売、伊藤武著の「図説 ハタ・ヨーガ・プラディーピカー」です。556ページもある煉瓦のような厚さの本で、値段は何と8800円。

 ハタ・ヨーガ・プラディーピカーは佐保田鶴治さんの「ヨーガ根本教典」にヨーガ・スートラと共に掲載解説してありましたが、ヨーガ・スートラには大変に感銘し大きな影響を受けましたものの、ハタ・ヨーガ・プラディピカーには思想的な記述も無く、ただただハタ・ヨーガの技法の展覧会のような内容で、しかも1つひとつのハタ・ヨーガの技法は簡潔に表現してあるので理解が難しく、これを読んでヨガの練習をするのは危険、やはりグル(先生)の直接の指導を受けるに越した事は無いと、1度読んだだけで放置していたものです。

 伊藤武さんはこの経典をどのように解説するのだろうかとの興味で読んでみました。先ずは本編に入る前のハタ・ヨーガの成り立ちについての1.ハタ・ヨーガの始まりと2.ハタ・ヨーガの広まりが面白い。マッツェンドラがシヴァ神から学び、それを受け継いだゴーラクシャがハタ・ヨーガとして完成させ、その技法を後(のち)にスワートマーラーマが編集して書き上げたのがハタ・ヨーガ・プラディーピカー、これが定説のようですが、実はこれよりも前にハタ・ヨーガという記述が有ったと言うのです。

 2015~2020年にかけて英国の東洋アフリカ研究学院がインド・欧米のインド学者を結集して実施したハタ・ヨーガ・プロジェクトによる綿蜜な研究の結果、「ハタ・ヨーガ」という表現はタントラ仏教に始まっていたのだそうです。「ハタ・ヨーガ」はタントラ仏教によって始まったのだが、インドへのイスラムの侵入によって(思想としてで無く、社会的組織としての)仏教が崩壊したあとにナータ派のヨガ行者達がこれを受け継いでハタ・ヨーガを完成させたと言う事でした。ヨーガ・スートラの古典ヨガが西暦5世紀、日本では古墳、飛鳥時代。そしてハタ・ヨーガの成立が12~16世紀、日本では鎌倉~室町、戦国時代と言う事になりますね。

 ここでひとつ押さえておく必要が有ります。それはハタ・ヨーガには2つの側面が有ると言う事、ひとつはヨーガ・スートラ(古典ヨガ)のヨガの8段階を行うハタ・ヨーガ、そしてもう1つはタントラとしてのハタ・ヨーガ、この、全く異なる2つのアプローチがハタ・ヨーガには有る事です。心の働きの支滅を追及する古典ヨガとイマジネーションの羽の働きを生かすタントラ・ヨガ、この2つのアプローチがそれぞれにサマーディ(解脱)を目指します。それを踏まえたうえで。

 「図説 ハタ・ヨーガ・プラディーピカー」はハタ・ヨーガの成り立ちの記述に続いて本編の解説に入ります。佐保田鶴治さんの解説では2、3行で書かれていた1つひとつの誦(じゅ)、これを伊藤武さんは数ページを掛けて説明しています。第一章アーサナの規則、第二章プラーナーヤーマ(クンバカ)の規則、第三章ムドラーの規則。これはひと通り読んでおけば良いと思います。解説は大変に詳しいのですが、これを元にヨガの練習をするのはお勧め出来ない。と言うより大変に危険です。まあ、知識として知っておけば良いでしょう。

 次に第四章三昧の特徴、ここは丁寧に読み返すのが良いです。ヨーガ・スートラとは異なるタントラのアプローチ、ここで書かれているラージャ・ヨーガとはヨーガ・スートラ(古典ヨガ)のヨガの8段階の事では無く、8段階の最後に当たるサマーディ(解脱)の事だそうです。

 以上、「図説 ハタ・ヨーガ・プラディーピカー」大変な力作でした。この本にはヨガの専門用語がどんどん出て来ますので、ある程度の予習は必要なようです。そして私は本編前の1.ハタ・ヨーガの始まりと2.ハタ・ヨーガの広まり、そして第四章三昧の特徴を面白いと思いました。

 私の経験

 私は30才から42才まではヨーガ・スートラのヨガの8段階を旨にハタ・ヨーガの練習をしました。そして68才から75才まではタントラとしてのハタ・ヨーガの練習をしました。タントラはイマジネーションの羽を羽ばたかせますので大変に面白く、また練習が終わったあとには脳内に快楽物質が分泌されたかのような多幸感が数時間続きましたが、この練習ではサマーディ(解脱)には至りませんでした。私にはタントラとしてのハタ・ヨーガよりもヨーガ・スートラ(古典ヨガ)のヨガの8段階としてのハタ・ヨーガが向いていたようです。そしてアーサナにしてもプラーナーヤーマ(クンバカ)にしてもムドラーにしてもグル(先生)の直接の指導による初歩的なもので充分です。