マントラの効用

 私の父は兵隊には行かず九州北部の大牟田の工場で事務を執っていました。そうしますとそこは軍事工場ですから米軍のB29の爆撃を受ける事になります。焼夷弾はあちこちに落ちて、焼夷弾の油の火が父のゲートルに燃え移ったそうで、相当危険な目に会っていました。父の話では米軍の激しい爆撃の最中、父の近くでしゃがみこんだおばさんが手を合わせながら「ナンマイダ ナンマイダ ナンマイダ ナンマイダ!」と呻(うめ)いていたそうです。それは分かりますね。今にも爆弾で体を吹き飛ばされそうな時に南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)とか南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)等と悠長な念仏(マントラ)は唱えていられませんで、念仏(マントラ)は短い方が集中出来、そうやって自然と気が狂うのや気を失うのを避けていたのでしょうね。これは人生の中でも滅多に無い非常時のマントラです。

 それでは平常時のマントラにはどんな効用が有るのでしょうか。Bing に「マントラの効用は?」と質問して見ましたら次のような答えが出て来ました。「マントラは瞑想やヨガの中で重要な役割を果たしています。特定の言葉やフレーズを繰り返す事で心を静め、集中力を高める効果が有ります。また、マントラを唱える事でストレスの軽減やリラックス効果も得られると言われています」。うーむ、それはそうなのでしょうが、何だか当たり障りの無い表現ですね。

 インドではマントラを唱える時には数珠を使い、マントラを唱える度にひとつひとつ数珠の珠をくりながら数え、あらかじめ決めて置いた回数のマントラを唱えるのだそうです。それではそのマントラの効用とは?

 私はマントラを唱える時に数珠は使わず、またインドのヨギ(ヨガ行者)のように何十回も唱える事はせず、毎朝祭壇に向かって2度唱えるようにしています。私のマントラは先生からいただいたもので秘密ですが、ポピュラーなマントラとしてはオーム マニ パドメ フーンやオーム ナマ シヴァ ヤー等が有りますね。そしてマントラを唱えますと先程のBing に有りましたように集中力が出来たりリラックスしたりの効果が有りますけれども、一番は神様への親しみを覚える事でしょう。神様への親しみを覚え、神様を身近に感じるのは大切な事です。そして日本とは違ってインドでは、与えられた神では無く、自分の好きな神様を持てば良いと言い、私もそうしています。

 また時折、自家製のマントラも私は使います。マントラには集中力をつけたりリラックスしたり神様に親しみを覚える効用がありますけれども、マントラを唱えている間は他の想念が起こるのを阻止する働きも有ります。私達は日頃、気が散ってばかりいますが、ここは集中!と言う時には集中集中と念じるよりも受け身の態度になる方がより集中出来るようで、そう言う事は宮本武蔵の五輪の書にも書いて有りますね。相手が上から来ると思えば下が手薄になる、右から来ると思えば左が手薄になる、左から来ると思えば右が手薄になる。ところで五輪の書の五輪とはサーンキヤ哲学に出て来る地水火風空の5元素、そして5つのチャクラ(輪)の事ですね。それは地(筋肉の働き)水(生殖器官の働き)火(消化器官の働き)風(呼吸器官、循環器官の働き)空(発声器官の働き)を示します。

 そこで私は時折、宮本武蔵のように、集中が必要で気が散らないようにしたい時には「受け身、受け身、受け身」と心の中で唱えるようにしています。