精神への錬金術

 タントラとはサーンキヤ哲学を土台にした心と体の生理学であると分かりました。そしてそれはまた物質を精神に変換する錬金術でもあるらしい。

 株式会社新潮社発行、アジット・ムケルジー著、松長有慶訳の「タントラ 東洋の知恵」を読んでの事です。34才の時に読んで感激もせず私の本棚に眠っていた本ですが読み返して見ますとこれが大変面白い。分厚い本でも無いのに中身が濃過ぎてとてもとても要約など出来ませんが、次のようなストーリーが読み取れました。

 サーンキヤ哲学は二元論で、大元にプルシャ(精神原理、真我)とプラクリティ(物質原理、現象世界)を立てます。そしてプルシャをヨガの神様のシヴァ神に、プラクリティをシヴァ神の妃(カーリー、ドゥルガー、パールヴァティー)に見立てる事が出来ます。シヴァ神の妃をシャクティとも呼びますが、シャクティとは女性の性的なパワーを神格化させたものです。そしてこのシャクティが個人の体内に有る状態をクンダリニーと呼びます。改めましてクンダリニーは物質原理、そしてシヴァ神は精神原理です。

 クンダリニーは人間の胴体の最下部のチャクラに眠っていますが目を覚ましますと脊柱の中央を走るスシュムナー・ナーディーを通って上昇を始め、6つのチャクラを通過したあと最後に頭のてっぺんに位置するチャクラにたどり着いてそこに座しているシヴァ神と合体し、そして肉体は解脱します。

 このサーンキヤ哲学から始まって肉体の解脱に至るストーリーは説明が無いと難解ですので4つのキーワード、つまり①サーンキヤ哲学、②クンダリニー、③ナーディー、④チャクラについて「タントラ 東洋の知恵」から書き抜いて見ましょう。

 ①サーンキヤ哲学

 タントラによれば、この世に顕れるものは、すべてプルシャという男性原理と、プラクリティもしくはシャクティという女性原理からなる二元論にもとづいている。そこでは、男女の交合がシヴァ神とシャクティとの創造的な結合にまで昂められるという思想のもとに説かれている。ありとあらゆるものに宿るこのシヴァとシャクティは、火のような激しい抱擁の結果、最高の非二元性、つまり解脱という無二の悦楽のなかで、いわばただ一つの原理になってしまうのである。

 ②クンダリニー

 タントラによれば、人体は宇宙の縮図とされる。人間を取り囲む宏大な宇宙にあるものは、小宇宙としての人間自身のなかにもある。クンダリニーとは、人体にひそむとされる宇宙エネルギーで、三巻半とぐろを巻いた、力強い宇宙の女性エネルギーを表す蛇の姿で描かれる。クンダリニー・シャクティすなわちエネルギーは、休止の状態から目覚め、種々の意識の段階をへて、人体内を上昇していく。

 われわれ人間がめざすのは、積極的に瞑想することによって、個人と宇宙とか、男と女という二つの極が完全に合体した全き世界を悟ることなのである。タントラ的にいえば、そうした悟りが成就することによって、人は一つに結合したシヴァ=シャクティになる。この状態を経験すると、人間の言葉では言い尽くせないような恍惚たる歓びアーナンダを感じるのである。

 この二元性は、ヒンドゥー・タントラでも仏教タントラでも認めているが、ヒンドゥー教と仏教との根本的な違いは、仏教では男性原理であるウパーヤ(方便)を動的なものとし、女性原理であるプラジュニャー(般若)を静的なものとして示している点である。

 ③ナーディー

 この目に見えぬもう一つの肉体には、数多くのエーテル回路があって、それは運動や振動を意味するサンスクリット語のnadを語源とするナーディーとして知られている。そのなかでも最も重要なのは、月のナーディー(回路)とされるイダー、太陽のナーディー(回路)であるピンガラー、そして中心の微細なナーディー(回路)スシュムナーである。

 目に見えぬ肉体の左右両側にあるイダー(月)とピンガラー(太陽)という二つの気道は、二元論を表したものといえる。行者がこの二つの気道を止めると、中心気道のスシュムナー(慈しみ)回路を通って、クンダリニーが上昇する。そして、白色の月のイダー回路、および赤い太陽のピンガラー回路という二つの主要気道のなかを、二つの力が霊魂エネルギーとして、脊柱の基底にある会陰部から身体上部へと流れていく。つまり二つの力は、火のような色をしたスシュムナー回路の両側をそれぞれ逆方向に走り、一方スシュムナー回路は、脊柱の中心を空洞状に通って、眉間のところでイダーとピンガラー回路に出会う。

 そしてついには、サハスラーラ・チャクラの座である最高の頂点ブラフマランドラにおいて、純粋な意識であるシヴァと結びつく。これがクンダリニー・ヨーガのねらいであり、目的なのである。

 ④チャクラ

 クンダリニーは六つのチャクラを回る旅を終える。そしてその瞬間、この中心で次元の壁が破られ、輪廻を超えた逆説的な超越が時間を離れて完成する。

 クンダリニー・ヨーガは、物質が精神化されるプロセスであり、一切を超越した経験を理解するための内面へのトリップ(旅)なのである。

 7つのチャクラ(ここからは私の考えを加えます)

ムーラーダーラ・チャクラ:会陰部(私の感覚では尾てい骨のあたり)。筋肉器官。対応元素は地。嗅覚、アパーナの気と関連。ブラフマー神の領域。

スヴァーディスターナ・チャクラ:生殖器のあたり。生殖器官。対応元素は水。味覚、プラーナの気と関連。ヴィシュヌ神の領域。

マニプーラ・チャクラ:臍(へそ)のあたり。消化器官。対応元素は火。視覚、サマーナの気と関連。ルドラ神の領域。

アナーハタ・チャクラ:心臓のあたり。呼吸器官・循環器官。対応元素は風。触覚、プラーナの気と関連。三つ目のイーシャ神の領域。

ヴィシュッダ・チャクラ:喉(のど)のあたり。発声器官。対応元素は空。聴覚、ウダーナの気と関連。半分男で半分女のサダーシヴァ神の領域。

アージニャー・チャクラ:眉間のあたり。精神集中。この地点ではじめて二元性が現れる。パラマー・シヴァ神の領域。

サハスラーラ・チャクラ:頭頂部(又はその上、数cmのあたり)。ブラフマランドラと呼ばれクンダリニー・シャクティと純粋意識シヴァとが合体する場所。

 以上が4つのキーワードの説明です。

 私のヨガの練習は2時間程掛かりますが、そうしますと深くて長い呼吸法の際に呼吸をカウントしますのにどうしてもビジュアルなシンボルが欲しくなる、と言いますか、自然にビジュアルなシンボルが現れます。息を吸う時には尾てい骨のあたりから頭頂までずんずん上がって行きますが、息を吐く時には頭頂部のサハスラーラ・チャクラから体の基底部のムーラーダーラ・チャクラまで7つのチャクラに5カウントずつ滞在しながら上から下へ降りて行きます。

 私のヨガはハタ・ヨガですが、ハタ・ヨガにはタントラの色彩が濃厚なようです。