サンタナ

 ベータのビデオテープに録画したものをDVD初期のカートリッジ式のディスクにコピーしておいたサンタナの、真夏の横浜球場でのライブ演奏の映像が私の手許に有ります。更にカートリッジを分解し、新しく買ったDVDレコーダーでディスクを再生出来るようにした物です。これを再生して見ました。

 サンタナバンドのメンバーは舞台の上で前列と後列に位置を取り、後列は1段高くなっています。メンバーは先ず、舞台に向かって前列右側にリード・ギターのカルロス・サンタナ、サンタナは白いランニング・シャツ姿で野球帽を被りサングラスを掛けています。サンタナの左横にヴォーカル兼リズム・ギターの青年、金髪がかった白人ですが歯並びが悪い。Tシャツ姿です。その左横にはベース・ギター、痩せた男です。後列の右側、サンタナの後あたりにキーボードの青年が2人、その左横には一般に言うドラムスの青年。そしてその左横にはパーカッションが3人、右にマッチョぶりを見せるかのようなランニング・シャツの青年、大きな縦長の太鼓4つを担当。その左にはマーチング・バンドを思わせるような簡易なドラム・セット担当のおじさん、髪はオールバックで、これはスティックを使います。おじさんの左横には野球帽の爺さん、大きな太鼓2つと小さな太鼓2つを担当。ノリの良い爺さんです。ですから舞台の前列はサンタナとヴォーカルとベース・ギター、後列はキーボードとドラムスとパーカッションと言う位置取りです。

 演奏は「キリマンジャロの伝説」から始まりました。サンタナの代表作「ブラック・マジック・ウーマン」と良く似た曲調で、サンタナは主旋律を1回だけサラッと演奏してそのまま次の「ブラック・マジック・ウーマン」に入ります。「ブラック・マジック・ウーマン」はヴォーカルもサンタナのギターもきっちりやります。サンタナは顎(あご)を天に向けて突き上げて恍惚の様子。

 曲が終盤に入った頃にハプニング発生。ベース・ギターの、ギターを肩に掛けて吊るす肩紐の留め具が壊れたらしく、肩紐がギターのお尻部分から外れてしまいました。すぐにヴォーカルが手伝いに入り、肩紐をギターに取り付けようとしますが、駄目です。ベース・ギターの痩せた男はギターのネックを掴む左手と右腕の肘でギターを身体に押し付けてギターが落ちないようにして演奏を続行します。まだ始まって2曲目なのに大丈夫でしょうか、この緊張感は堪りません。痩せた男はギターを身体に押しつけたり右脚の太股に乗せたりしてこの舞台の最後まで演奏を続けました。たいしたものです。

 「ブラック・マジック・ウーマン」の次はミディアムテンポの「センシティブ・ウーマン」です。ヴォーカルとサンタナのギターが交互に入る「ブラック・マジック・ウーマン」のスタイルですが、ヴォーカルが良い。ヴォーカルなので歯並びの悪さが一際目立つのですが、ちょっと声が枯れて、優しく、そしてデスパレートな音声は聴いていて大変に心地が良い。このヴォーカルは「ブラック・マジック・ウーマン」より「センシティブ・ウーマン」の方が出来が良かったようです。最後のファルセット、高い声も良かった。サンタナも顎(あご)を天に突き上げた恍惚の様子でサンタナ節を炸裂させて、ラテン・ロックは良いですね。思わず体がリズムを取ってしまいます。

 そして最後の曲は「アメリカン・ジプシー」。印象深い主旋律を1度弾くとサンタナはいきなりインプロヴィゼーション(即興演奏)に入ります。サンタナについてはインプロヴィゼーション(即興演奏)よりもポップス風のはっきりしたメロディーの方が私は好きです。サンタナのインプロヴィゼーション(即興演奏)が一巡しますと、丁度モダンジャズのように、各楽器にインプロヴィゼーション(即興演奏)のパートが移ります。サンタナの次はキーボード、そしてもう1度サンタナに戻ったあとにパーカッション。3人のパーカッションは激しく、大変に熱を帯びます。

 バンドが最高に盛り上がった所で曲調がガラッと変わってヴォーカルが入り、「アマレ、アマレ アンマレ アマレ、アマレ」を繰り返します。サンタナはやはりこう言うはっきりしたメロディーとリズムが良いなあ。サンタナのライブ演奏は4曲で終わりました。

 このライブ演奏はサンタナの初期を思わせるラテン・ロックのノリが生き生きとして心地良いので、随分前に私はCDショップで探し当てました。「ジーバップ」と言うアルバムに「ブラック・マジック・ウーマン」を除く3曲が入っていました。そして今回、私はこのCDとライブ演奏を聴き比べてみました。

 「キリマンジャロの伝説」はCDの方が演奏時間は長いけれども、ライブ演奏の方がすっきりしていて私は好きです。

 次の「センシティブ・ウーマン」はCDとライブと甲乙つけ難いけれども、ライブの熱気が勝り、やはりライブ演奏の勝ち。

 最後の「アメリカン・ジプシー」、CDでは主旋律の演奏無しにいきなりインプロヴィゼーション(即興演奏)から始まります。主旋律が無いので、CDとライブが別の曲に聞こえてしまいました。曲が平板に進んだあとにヴォーカルの「アマレ、アマレ ・・・」に入るのですが、これが全然盛り上がらない。スタジオとライブの違いですね。

 結局、3曲ともにスタジオ録音のCDよりもライブ演奏の方が上でした。ラテン・ロックはやはりライブの方がノリが良いのでしょう。また、ラテン・ロックは映像の力も大きいようです。

 さて、アルバム「ジーバップ」は1981年5月の発売と書いてありますので、日本でのライブ演奏は恐らく翌年の1982年あたりだったのでしょう。カルロス・サンタナさんは今もお元気なのでしょうか。