ルクセンブルグの夜
ルクセンブルグは、国というよりは、町でした。そしてとにかく汚い。歩道には紙くずが散乱し、街角では少年達がタバコを吸っています。私は嫌な気分でホテルへの道を急いでいました。
3年前に会社の営業部員向けのヨーロッパ・ワインスタディツアーに参加した私は、今度はお得意様の参加されるワインツアーの添乗員として再びヨーロッパに来ていました。ドイツの有名醸造所を多数訪問した後、ブルゴーニュへ向かうためにルクセンブルグで1泊することになっていました。
私がホテルの部屋でお風呂を使っていると、「なんだ、この部屋は汚いなあ」などと言いながら5~6名のお得意様が私の部屋に入ってきてくつろぎ始めます。「私は逃げも隠れもしませんから、ロビーで待っていてください。お風呂を出て着替えたら下へ降りて行きますから」と言って私はお得意様方には部屋を出てもらいました。ドイツで勉強ばかりが続いたので、お得意様の中にはそろそろ欲求不満の高まってきた方も出てきたようです。私がカタコトの英語を話すので、ルクセンブルグの夜を私に案内させようという魂胆ですね。今回は旅行社の添乗員もいますが、彼はそこまでは面倒を見ません。
5~6人のお得意様とルクセンブルグの街へ出てぶらぶらと歩いていますと、それらしい女性が私達に近寄ってきます。「どう、遊ばない?私達、パリ風のサービスをするわよ」。「ふーん、パリ風ねえ」と、この鬱屈した街らしい表現を味わいながら私は彼女と値段の交渉をします。1人当たり2万円だと彼女は言います。「みなさん、1人2万円だと言ってますがどうしますか?」、皆さん、異存はありません。皆で彼女について行くと、ビルの中の広い部屋に連れて行かれました。
交渉が成立するとシャンパンを開ける習慣があるらしく、私達はシャンパンで乾杯をしました。お得意様方にお相手の女性を選んでもらい、私には残りくじの女性がお相手です。広い部屋の中のあちこちでカップル達が運動会を始めます。お得意様方の気合が入ってきた頃、私のお相手が私の目を覗き込みながら切り出します。「ねえ、もう1回シャンパンを開けましょうよ」。「それってあと2万円ずつってこと?」、「そうよ」。
私はその場に立ち上がり、大声で言います。「皆さん、ズボンを上げてベルトを締めてください」。私は皆さんに事の次第を説明し、途中で話が変わるようでは信用できないからここを出ましょうと主張します。お得意様の中には「あと2万円出してもいいのに」と、余裕の人もいます。結局お得意様方は私の主張を是として、皆でその部屋を引き揚げました。後味の悪いルクセンブルグの夜でしたが、数日後にパリで皆さんの欲求不満解消のお手伝いは出来ました。やれやれ。
ブルゴーニュのワイン街道を南下してリヨンで1泊した後パリへ飛び、パリで1泊した翌日はボルドーの有名シャトー見学をしました。そしてボルドーで1泊です。
旅行社の添乗員は「ボルドーは港町で大変危険ですから、街へは絶対に行かないでください」と言います。私はタクシーを呼んで、3年前の思い出の「ル・アーブル」というお店に行きました。私がお店の娘に「何々ちゃんはいる?」と聞くと「彼女は随分前に辞めたわ」と言った後、お店の女主人(マダム)に「この人、何々ちゃんのことを覚えているのよ!」と興奮気味に言います。
そうか、港町の娼婦の名前など3日もすれば忘れられるんだなと、あの時の彼女のアンニュイを再び思い出しました。「あなたは通りすがりの旅の人だからそんなことが言えるのよ。こんな街、ほんとにつまらない街だわ」。
ルクセンブルグは、国というよりは、町でした。そしてとにかく汚い。歩道には紙くずが散乱し、街角では少年達がタバコを吸っています。私は嫌な気分でホテルへの道を急いでいました。
3年前に会社の営業部員向けのヨーロッパ・ワインスタディツアーに参加した私は、今度はお得意様の参加されるワインツアーの添乗員として再びヨーロッパに来ていました。ドイツの有名醸造所を多数訪問した後、ブルゴーニュへ向かうためにルクセンブルグで1泊することになっていました。
私がホテルの部屋でお風呂を使っていると、「なんだ、この部屋は汚いなあ」などと言いながら5~6名のお得意様が私の部屋に入ってきてくつろぎ始めます。「私は逃げも隠れもしませんから、ロビーで待っていてください。お風呂を出て着替えたら下へ降りて行きますから」と言って私はお得意様方には部屋を出てもらいました。ドイツで勉強ばかりが続いたので、お得意様の中にはそろそろ欲求不満の高まってきた方も出てきたようです。私がカタコトの英語を話すので、ルクセンブルグの夜を私に案内させようという魂胆ですね。今回は旅行社の添乗員もいますが、彼はそこまでは面倒を見ません。
5~6人のお得意様とルクセンブルグの街へ出てぶらぶらと歩いていますと、それらしい女性が私達に近寄ってきます。「どう、遊ばない?私達、パリ風のサービスをするわよ」。「ふーん、パリ風ねえ」と、この鬱屈した街らしい表現を味わいながら私は彼女と値段の交渉をします。1人当たり2万円だと彼女は言います。「みなさん、1人2万円だと言ってますがどうしますか?」、皆さん、異存はありません。皆で彼女について行くと、ビルの中の広い部屋に連れて行かれました。
交渉が成立するとシャンパンを開ける習慣があるらしく、私達はシャンパンで乾杯をしました。お得意様方にお相手の女性を選んでもらい、私には残りくじの女性がお相手です。広い部屋の中のあちこちでカップル達が運動会を始めます。お得意様方の気合が入ってきた頃、私のお相手が私の目を覗き込みながら切り出します。「ねえ、もう1回シャンパンを開けましょうよ」。「それってあと2万円ずつってこと?」、「そうよ」。
私はその場に立ち上がり、大声で言います。「皆さん、ズボンを上げてベルトを締めてください」。私は皆さんに事の次第を説明し、途中で話が変わるようでは信用できないからここを出ましょうと主張します。お得意様の中には「あと2万円出してもいいのに」と、余裕の人もいます。結局お得意様方は私の主張を是として、皆でその部屋を引き揚げました。後味の悪いルクセンブルグの夜でしたが、数日後にパリで皆さんの欲求不満解消のお手伝いは出来ました。やれやれ。
ブルゴーニュのワイン街道を南下してリヨンで1泊した後パリへ飛び、パリで1泊した翌日はボルドーの有名シャトー見学をしました。そしてボルドーで1泊です。
旅行社の添乗員は「ボルドーは港町で大変危険ですから、街へは絶対に行かないでください」と言います。私はタクシーを呼んで、3年前の思い出の「ル・アーブル」というお店に行きました。私がお店の娘に「何々ちゃんはいる?」と聞くと「彼女は随分前に辞めたわ」と言った後、お店の女主人(マダム)に「この人、何々ちゃんのことを覚えているのよ!」と興奮気味に言います。
そうか、港町の娼婦の名前など3日もすれば忘れられるんだなと、あの時の彼女のアンニュイを再び思い出しました。「あなたは通りすがりの旅の人だからそんなことが言えるのよ。こんな街、ほんとにつまらない街だわ」。