ひとときの片想い

ひとときの片想い

　私は大学生時代にＨＩという同じクラブで同期の女の子に短期間、恋をしました。彼女はクラブ活動にはあまり熱心ではなく、いわば準幽霊会員だったのですが、学園祭の前日の徹夜でやるクラブ活動の展示の準備や、夏休み期間のクラブ行事のキャンプストアには参加していました。

　私がどうして彼女を好きになったのか、よく覚えていませんが、ＨＩはとりわけての美人という訳でもないのに、おとなしい印象で、またその両目の焦点が合っておらずに、どこか宙を見ているような不思議な魅力がありました。

　クラブでは夏休みの間、千葉の勝山海岸に喫茶店を立ち上げて、１週間ずつ当番が泊り込んで営業を続けるキャンプストアという行事があって、クラブの中にはキャンプストア目当てに入会する学生達も多くいました。そのキャンプストアでＨＩと私は同じ週の当番になり、また食事当番も一緒にやりました。暑い夏の日差しの中、八百屋で買ったじゃがいもを２人で合宿所へ運んだのを覚えています。

　あるとき私はＨＩを誘い、２人で上野動物園に行きました。動物園では２人で一緒にトドに水をぶっかけられ、おおいに盛り上がりました。山手線の中では上野駅と御徒町駅の間が１番距離が短いのだとＨＩは私に教えてくれました。「私が東京のことを教えてあげるわ」と彼女に言われて、私は有頂天でした。

　ＨＩには不思議なところがあって、あるとき私に言いました、「おばあちゃんが亡くなったとき、おじいちゃんはすぐに葬式を出さず、1週間程亡くなったおばあちゃんに添い寝をしていたのよ、おかしいでしょ」。まるで彼女にはおじいちゃんの狂気の血が混じっているので、彼女とは付き合わない方がいいとでも言いたげなのです。私は「別にいいじゃん」とは言ったものの、当惑していました。

　彼女についての良くないニュースが入ってきました。私の友達のＭＳがクラブの後輩達から仕入れたものです。ＨＩがサラリーマン風の男と抱き合ってキスをしていた。ＨＩは左手の薬指に指輪をしている。私は「そんなことは信じられない」と言う自信もなく、そういうこともあるのだろうかと、その良くないニュースを半ば受け入れていました。

　程なくして、ＨＩは私に「あなたのような人は私嫌いだわ」と言い、私はＨＩに振られてしまいました。ＨＩに振られて落ち込んでいる私に、友達のＭＳは「ＨＩだってウンチはするしオナラもするんだよ」と訳の分からない慰めを言いました。それから３ヶ月ほど経って私は立ち直りました。

　私がどうしてＨＩに恋をしてしまったのか、今でも分かりません。彼女が発していたフェロモンに私が当たってしまったのでしょうか。いやいやきっとそうに違いありません。