● 武術に筋肉は必要か 

 

 今回の記事は、格闘技や武術論を語る時に必ず出てくる「筋肉は必要か?」という話に関しての答えをお伝えしたいと思います。 

 

 この話題、格闘技や武術をやらないが見るのが好きな人の間で論争が良く起こったりもしますが、実際に格闘技や武術をやっていても迷いが生じる事はあると思いますので、一つ正しい概念を持っておくと不要な惑いを避ける事が出来る筈です。 

 

 まず最初に結論から言うと格闘技や武術に「筋肉」は必要です。 

 

 しかし「筋トレ」が必要かというと微妙な話になってきます。 

 

 「筋肉は必要だが筋トレは微妙」一見すると何を言っているか分からなくなるような話ですが、言葉の意味や、格闘技や武術に関してのイメージの解像度を上げると理解しやすくなります。 

  

 まず初めに見落としがちなのが「筋肉がある」≒「筋トレをしている」では無いという事です。 

 

 これはよく考えれば分かる事なのですが、言葉しか見ていないと意外と見落としがちなポイントです。 

 

 山村で暮らしよく歩く人は普段歩かない都会の人よりも足腰が強いというようなそんなレベルの話です。 

 

 文字で読むだけだとあまりに簡単ですが、実際の所社会生活で必要とされる筋肉はここ数十年で確実に減っています。 

 

 移動の為に必要な交通機関は発達している、労働も肉体を使わないものが増えてきている、肉体労働ですら便利な道具は次々考案され負荷が減りつつある等々筋肉が必要とされる場面が減っています。 

 

 格闘技は種類にもよるでしょうが、およそ古武術と言われるようなものが成立するような時代とは日常レベルの運動強度が全く違うのです。 

 

 結構ここの運動強度の違いは甘く見ない方が良さそうですね。 

 

 古武術で「力が必要ない」と言っている場合は特に下地に「日常生活で既に鍛えられている身体」があるという事を理解しなくてはいけません。 

 

 余談ですが、私の所属する空手の師範の師匠にあたる方は80歳代後半ですが、自分の家族周辺で完結する範囲ではあるものの日々農作業をしています。 

 

 空手の鍛錬の効果も勿論ありますが、身体を動かす時間の割合は農作業の方が多く、その肉体は年齢を感じさせないほど力強く、並みの若者よりも力があります。 

 

 このような武術に前提とされる筋肉量を考えた時、確かに現代社会人は筋トレをして筋肉量を増やす必要があるレベルの人の方が多いでしょう。 

 

 ここで問題になってくるのが「筋トレはそれ自体が目的化しやすい」という事です。 

 

 現代社会人の筋肉量が減っているという事は、筋トレの習慣を付けるだけで上がる効果も多いという事になります。 

 

 そして○○kg持ち上げられるようになったという数字で分かり易い成果、ボディメイクで見た目にも劇的に変化するというような要素があり、それだけでも十分魅力的なのです。 

 

 実際筋肉量の増加や見た目づくり目的とするのならそれを追求するのは良い事ですが、格闘技や武術を構成する要素としてみた時に筋肉量はあくまで一つの要素でしか無いのです。 

 

 正しい身体の動かし方、五感を鋭敏に働かせて相手の動きを察知する事、戦いの戦略等々数多ある要素の一つに筋肉量があるというだけの話なのです。 

 

 またまた余談ですが、コーチングで有名な苫米地英人博士は家伝として古武術を修めているそうなのですが、筋トレに関して「筋トレは必要ないが毎朝起き抜けに50回腕立てをして疲れない程度の身体が普通」という風に述べていたそうです。 

 

 実際ちゃんとした腕立てをやると50回は相当きついです。 

 

 しかし、武術家のいう「筋トレは必要ない」と一般人が思う「筋トレは必要ない」のレベルの隔たりはこれくらいあると思うと納得出来ると思います。 

 

 格闘技をやる人で筋トレを不要という人はあまりいないと思いますが、武道、武術に関しては筋トレ不要論は良く聞くと思います。 

 

 そういった言葉に惑わされそうになった時はまずは「自分は現代人である」という事を思い出しましょう。 

 

 困ったらまずは腕立て50回から始めましょう。