さて、前々回は天界からイエスキリストとブッダがバカンスに来ている日々を描いた聖☆おにいさんの紹介、前回は地獄で働く鬼等の獄卒の日常を描く鬼灯の冷徹を紹介したわけですが、分かる人には流れで察しがついたかと思いますが、またクロスオーバーのお話です。 

 

 

 

 片や人間界と天界がメインのお話、もう片方はあの世(主に地獄と少し天界)と人間界のお話で、ざっくり言えばどちらも彼岸側の存在を扱っているのですが、実は良い感じに扱う範囲がズレていて、それほど矛盾した描写が無いので混ぜやすいんですよね。 

 

 これはある種ほぼ共通と言える題材であるが故だと思います。 

 

 宗教や神話というバックボーンがある事でキャラクターが活きるという側面もある為、自然と根っこが近い感じになるのです。 

 

 それぞれの作品の舞台は違うものの、それが大きな一つの世界観の別の場所をクローズアップしている感じになっているんですね。 

 

 とはいえ今度はいい感じに舞台が被らないが故にどうクロスオーバーするのか、という話にもなりますが、そこでちょっと面白いつながりがあるんですよね。 

 

 それは前回の記事でも少し触れた十王信仰に纏わるポイントです。 

 

 この十王信仰はあの世での罪の審判は閻魔大王をはじめとする十人の王によって行われるというものです。 

 

 そして、この十王はそれぞれあの世の裁判官という側面の他に、仏法の守護者や仏の側面も持っているというお話があります。

 

 社会が得意な人なら本地垂迹説で通じるでしょうか? 

 

 今30代前後くらいの方なら、かつてトリビアの泉で紹介されていた閻魔様とお地蔵様 は同じ人というトリビアで知っているかもしれませんね。 

 

 この解釈としては、同じ人が別々の役で現れるという風にも出来ますが、鬼灯の冷徹においては閻魔大王とお地蔵さまが別人格で描かれています。 

 

  その他にもお稲荷さんは宇迦之御魂荼枳尼天が二柱で一つの神格の二面性を担当しているというようになっています。 

 

 これはある種本地垂迹説そのものというよりは、その説が生まれる経緯に則していると捉えられるでしょう。 

 

 ちょっと話が逸れましたが何を言いたかったかというと、十王信仰におけるあの世の裁判の二審目を担当する初江王のもう一つの姿とされるのが釈迦如来=ブッダなのです。 

 

 この距離感が非常に丁度よい(笑) 

 

 鬼灯の冷徹の世界観の根幹に深く関わりつつも、そのもう一つの側面にまでは触れられない立ち位置の存在と聖☆おにいさんの主人公が繋がってるわけですね。 

 

 しかも、聖☆おにいさんのブッダは物凄く動物に好かれる存在であり、鬼灯の冷徹の初江王も初江庁を動物王国にする等、動物関連の描写も近しいものがあります。 

 

 個人的な見方ですが、鬼灯の冷徹で初江王を見ていると「相方(?)はバカンス中かあ」と何かほっこりするのです。 

 

 「彼岸の領域の存在が中心のお話」「初江王=釈迦如来」世界観をゆるく繋げるだけならこれくらいの抽象化でも十分かなと思います。 

 

 とはいえ根底が一緒の物を扱っていると同名の存在が違った描かれ方をする事もあります。 

 

 両作品に登場したのは現時点でサタン(ルシファー)、ベルゼブブ、お地蔵様くらいです。 

 

 この辺りはどう考えるか色々あると思いますが、私は信仰の種類の数だけ神や悪魔等は存在するという方向で考えています。 

 

 前回の記事にも書いたEU地獄があるなら同じキリスト教圏のアメリカは?というような話にも繋がるのですが、信仰が変質する時に元の存在が分岐するというような考え方です。 

 

 サタンが悪魔そのものを指したり、ルシファーが堕天した存在を指したりするのは、その通り二つの存在があるという考え方です。 

 

 ベルゼブブに関しても、近世ヨーロッパでサタンに次ぐ地位の悪魔という位置づけが生まれましたが、それ以前は同一視されたりもしていたようです。 

 

 そういった違いも、考えようによってはどの伝承が正しいというよりも、その文化圏ごとに違う存在を見たと考えた方が自然というか、ある種様々な神話や信仰が共存した世界として描かれている両作品の設定にあっていると思います。 

 

 お地蔵様に関しては、聖☆おにいさんに登場したのは立川競輪場の前のお地蔵様という、やたら狭い範囲のお地蔵様なので笠地蔵の如く一体一体に個別の神格が宿る方向で考えても良さそうです。 

 

 こういった複数の同名存在という考え方は、実在の人物がベースにあるイエスキリストやブッダ(釈迦如来)ではやりにくいんですが、上手い事両作品ではそこのキャラクターは被っていないのでスルー出来ます。 

 

 以上が今回の作品のクロスオーバーで矛盾の少ない考え方です。 

 

 これまでのクロスオーバー設定を考えるシリーズと違って、登場人物同士ががっつりと絡むような感じではありませんが、二つの世界観を、重なった大きい世界観を感じる事でより作品を楽しめるのではないかと思います。 

 

 楽しみ方は二作品で二倍以上になる!…と思います 

 

お試しあれ