今回は情報的にどんどん便利になる世の中の実感と、便利さとの向き合い方のお話です。 

 

 私はYouTubeで色々とコントラバスの演奏動画を見漁る事がよくあります。これは最近始まった事ではなく、管弦楽部に所属してコントラバスを弾くようになった高校生の頃には既にやっていた記憶があります。 

 

 自分自身では気付いていませんでしたが、この段階で相当に恵まれているなという事には相当後になってから気付きました。 

 

 どれくらい昔に遡るかにもよりますが、YouTubeを基準にすると、そのサービス開始が2005年頃で日本では2006年には日本の利用者が200万人を超えていたそうなので2006年頃より以前を考えてみましょう。 

 

 特にクラシック音楽の演奏等を鑑賞する媒体は音声だけならCDやMD、映像を見るならDVDやVHSが必要だったわけですね。再生用の機器も必要になりますし、今よりも気軽に見れるという物では無かったわけです。 

 

 もっと古くなれば映像は不可能で音声のみレコードでという事になりますし、それすらなく生のコンサートしか鑑賞する手段が無い時代も当然ありました。 

 

 正直な話、その時代に私が生きていてここまで楽器を続けることが出来たかは甚だ疑問です。それどころか楽器を始めてすらいなかったかもしれません。 

 

 YouTubeの発展によって演奏の動画を見て「こういう音を鳴らしたい」や「こんな弾き方をしたい」という事を比較的はっきりとイメージできたからこそ、目標をもって練習に取り組めた所は多分にあります。 

 

 勿論鑑賞においては特にクラシック音楽においては生の演奏を聴く以上の物は無いですし、練習においても本来はちゃんとした師につくのがベストなのは間違いないです 

 

 しかし、それが出来ない状態の次善の策としてのYouTubeによる研究はかなりの効果があるのではないかと思います。 

 

 実際に10年位前には公式でベルリンフィル等海外の一流オーケストラのマスタークラスの動画がアップされるという事もあり、学びの裾野は相当に広がった印象があります。 

 

 中でも個人的に衝撃的だったのは、公式の動画ではないようですが、昨年ツェパリッツ氏のマスタークラスの動画が上がった事です。 

 

 ライナー・ツェパリッツ氏は世界最高峰のオーケストラの一つであるベルリンフィルの黄金期を支えたコントラバス奏者です。

 

 指導者としても多大なる実績を持ち彼の弟子で現在活躍されている方も多く居ますし、来日時のマスタークラスは希望者が殺到したという話を聞いたことがあります。

 

 私自身は正直な所世代では無いのですが、私が師事していた先生もツェパリッツ氏の影響を受け、参加できなかった時のマスタークラスのビデオも何度も見返していたとのことでした。

 

 そんな代物が、一部分しか無いとは言え確かに観ることが出来るようになったのです。すごい時代になった物だと思いました。

 

 ただ、この情報的に豊かになっていく時代も必ずしも全てが上手くいくとは限りません。以前プロのコントラバス奏者の方がSNS上で「すぐに答えらしき物に飛びつけてしまう現代のほうが不幸かもしれない」という発言をなさっていました。

 

 また別の事例では作曲家が新作の演奏を依頼したピアノ奏者に参考音源を求められたという話で議論が巻き起こったこともあります。

 

 確かに即物的な答えを求めてしまうという危険性は大いに有り得ると思います。なにせ演奏の動画はかつてより簡単に手に入ります。

 

 かつて、大学の部活の合宿でプロのチェロ奏者の方とお話できた際には、「昔は写真に映っている偉大な奏者の姿をいくつも集めて分析した」という話をなさっていました。

 

 限られた情報の中で想像力を働かせて正解を探るというプロセスを経る事で、より自らに落とし込みやすい形で学びが得られるということは確かにあります。

 

 ただ、思うことは実はこれらの情報が少なかった時代、多くなった時代も大切なのは情報との向き合い方、思考を止めないことだと私は考えています。

 

 かつては情報を見つける事に割かれたエネルギーが今度は取捨選択に割かれるかの違いです。何が大切なのかを決めるのは自分自身です。

 

 情報に恵まれた時代だからこそ常に本質を見続けましょう。