音質良し使い勝手良しのZwei Flugelと同じサイズで、違う部分に重点を置いたアンプを作ってみました。上位機種でも下位機種でもありません。別の解釈をしたモデルです。そのため音の傾向は似ています。空間表現や細かいニュアンスが少々異なります。
Zweiは電源電圧4.8Vを標準とし、それを上回っても安全に、下回ってもしばらくは粘る構造にしています。しかしそのために選んだ部品では雑音は少し大きめになってしまいました。また電源電圧も低いため、いくら電源レールまで振れる構造としていても最大出力は小さめです。
PHPAとしては十分な出力を有していると思いますが、音量の大小の差が大きい音源を600Ωで能率も低いヘッドホンを使って爆音で楽しみたいときはちょっと心もとない場合があります。基板上に比較的スペースがあったので配線などは詰めやすく、空間表現などはZweiのほうが有利です。(この比較は同じ技術レベルの人が設計した場合の話です。)
そこで動作電圧の引き上げ(電池4本→6本)と低雑音化を重点に置いたEins Flugelを設計しました。今回は思想の差により部品と定数が違う2種類を製作しています。
設計・試作時の考え方を説明するため一部具体的な部品名を挙げていますが、部品で音や特性が決まるわけではありません。すべては使い方次第ですので、部品は音の参考にもならないです。ご注意ください。(適切な設計ができていない場合はその限りではありません。)
大きな構造の差(ICかディスクリートか)も特性や理論を無視して論じる場合は参考にすらなりません。どちらもやってきた人が適材適所で必要な性能を出せる設計したものが好ましい結果が得られるでしょう。長らく双方やってきたのでそう思います。
どちらも回路の後ろ半分は共通。電源ぎりぎりまで振れる出力も、大きな電流が流れても電圧降下を最小限に抑える高性能電源SWも同じです。電池が増えたことで使用できる基板面積が減り配線が窮屈になりましたが、Zweiと同様に音は高いクオリティでまとまっています。
・Eins Flugel(B)
より低雑音・低歪み。
入力インピーダンス変換部でTIの最新世代オペアンプを試すのに設計したもの。
低利得の回路を設計するには少々大きすぎるGB積、2次補償のようなゲイン・位相図に若干の
不安を持ちつつも試作しましたが、ボリューム最大では100kHz矩形波応答はとても良いですし(図1)、THD+Nも極めて良好です。一般的な定数で設計するとノイズはもっと大きくなります。
ただし、ボリューム後の出力インピーダンスが大きくなるボリューム位置(15時方向)にし、入力信号を調整し特定の出力振幅にしたところ若干のリンギングが確認できました(図2)。
10kHz矩形波では生じませんからオーディオ機器としては大きな問題ないのかもしれませんが、
個人的にはあまり気持ち良いものではありません。これよりひどいアンプたくさん見てきましたけどね。。。
図1
図2
電源電圧約6.8V時・利得約3倍のTHD+Nは以下のグラフ(図3)のようになりました。このデータをとった際の電圧はちょっと下がりすぎているので、通常動作時の7.2V以上ならば33Ω負荷で最大200mW弱は出ます。
出力電流には余裕があるため負荷インピーダンスが下がれば最大出力はより大きくなります。
図3
(B)で使用したこのオペアンプは重たい負荷でも高域の歪みが悪化しにくかったので、小出力なら直接イヤホンも鳴らせるようです。出力電流が大きくても歪むオペアンプも多い中で優秀でした。
・Eins Flugel(C)
(B)の気になった部分を解消したもの。ボリュームのどの位置でも100kHz矩形波応答は良いです(図4・図5)。トレードオフで雑音は増えましたが入力換算値はZweiより小さくなっています。ただしゲインが違うので出力では同じくらいになっています。
図4
図5
こちらは大きすぎないGB積、素直なゲイン・位相特性、過去によく測定していて使い勝手がわかるものの中からMUSES8920を選択。(B)と同じ定数だと特に高い周波数の歪みが悪化するので(実測しても悪化します。)、当然ですがICにあわせて定数も調整しています。
電源電圧約6.8V時・利得約3.2倍のTHD+Nは以下のグラフ(図6)のようになりました。こちらのほうが少しだけゲインが大きいです。このデータをとった際の電圧はちょっと下がりすぎてICの動作下限を割ってしまいました…。通常動作時の7.2V以上ならば33Ω負荷で最大200mW弱は出ます。
出力電流には余裕があるため負荷インピーダンスが下がれば最大出力はより大きくなります。
図6
(C)で使用したMUSES8920は重たい負荷だと高域の歪みが増えるので、単体でヘッドホンドライバのような用途には向かないです。特に動作電圧ぎりぎりではかなり苦しいです。
またTexas InstrumentsやAnalog Devicesのオペアンプと比べると入力オフセット電圧がデータシート上でも実測でも少し大きいように感じます。MUSESシリーズはいくつか販売されていますが、個人的には使いやすくそこそこ特性の良いMUSES8920以外を積極的に選ぶ理由は見当たりませんね。
音の基本的な部分はどちらも同じでニュートラル。ニュートラルな音を実現するには、ドライバをしっかり駆動する出力の応答の良さが必要です。それを実現するためには電流がとれればいいわけではありませんし、抵抗負荷でのスルーレートが大きければ有利というわけでもありません。ここはノウハウ…思い込みやただ試したことではなく理論的に裏打ちされた経験が重要な部分です。
(B)と(C)は細部のニュアンスは少々違います。音は主観になってしまいますが、(B)は流行りの音に近く少し元気で音がストレートにくる感じ。(C)は爽やか、雰囲気の良い空気感があります。空間表現はどちらもほぼ同じで滲みは少ないですが、Zweiほどの位置の正確さはないかもしれません。打ち込み音源で塊感を感じたい場合は特にハマります。
特性はどちらも
・約2.2MHz(-3dB)
・電池のもちはアイドリングなら20時間以上(指定の電池による)
・実用域での歪みは0.001%以下(1kHz・80kHz LPF)
と十分な値になっています。
どちらも難聴予備軍もにっこりの音量まで上げても音が崩れませんから出力面の使い勝手は良いと思います。能率の悪い平面駆動ヘッドホンでも音量がとれるのははもちろん、音のキレや表現力も出ています。
電源が単四電池6本(エネループ指定)なので電源の使い勝手はいまいちかもしれません。
電源面での使い勝手と空間表現はZweiのほうがいいですね。Zweiもたくさん出たら改良しましょうー。