真空管アンプ作ってみた 2 説明編 | Analog of Magic もみじとクラフトマンのblog

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GND分離ポータブルヘッドホンアンプ【Zwei Flugel】【Eins Flugel】など各種アンプなどを販売中

平成最後の真空管・トランジスタハイブリッドのディスクリートポータブルヘッドホンアンプです。

 

 

 

 

 

前回も書きましたが設計目標は以下の6点です。

・真空管(サブミニチュア管6418)を使うこと

・音に真空管アンプらしさを残すこと

・電源はできるだけシンプルに

・入出力が同相であること

・出力は最低でも2Vp-pくらいは振れること

・音質は同種のアンプ以上を目指す

 

入力範囲があまり大きくとれないことや素子の性能が高くないことはわかっていますので、半導体を用いた高性能アンプと同じ方向は目指していません。そちらにいくのであれば私は半導体を使った方が良いですし。

ただし、まったく使えないものを作っても仕方がありませんので入出力は同相であるのは絶対条件とします。

 

 

他のアンプと比較したりベンチマークを用意して開発しても良いものは作れないと考えていますが、他の利点と欠点を知っておいて損はありません。まずはどんなものが主流か少し確認してみましょう。

 

サブミニアチュア管を用いたアンプは真空管が1本とオペアンプを組み合わせたものが多いです。電圧を増幅する部分に位置する真空管はカソードを接地し、プレートに抵抗を入れて使うことが一般的でしょう。トランジスタと違いgmが低いので電流帰還バイアスはなくても動きます。比較的gmが高い傾向がある五極管を使ったアンプでも三極管接続しているものをよく見かけます。これは6418のように直熱管が多いことが理由のひとつだと考えられます。

オーディオでは三極管のほうが音が良いと言われることが多いですが、こういったアンプで6418のような五極管を三極管接続するものが多い理由は音質ではなさそうです。直熱管はカソードを接地して使う方が簡単なのです。また三極管の音質が良いと言われるのはgmが低いためです。五極管でも適切な設計をしフィードバックをかける等して使えば、五極管のデメリットはないと思います。そもそも電池駆動のアンプでは三極管でも特性が悪いものも結構あるようです。

 

プレート抵抗は真空管にもよりますが100kΩ~300kΩ程度を用いますから、この回路の出力インピーダンスは高くなります。そのためオペアンプのボルテージフォロワのような入力インピーダンスが高い回路で受けるのは絶妙な妥協点だと思います。ただし、プレート抵抗の電圧降下の変化を出力として取り出すこの形のアンプは出力が反転してしまいます。その点だけが気がかりです。

 

もう少し部品が増えると、プレートの電圧変化をJFETのソースフォロワで受けてからオペアンプやバイポーラトランジスタのバッファに受け渡している作例も見かけます。しかしトランジスタアンプに詳しい皆様はここでも歪みが発生することがわかると思います。真空管アンプは歪率が悪いのだから気にしなくていい…ような気もしますが、それを言い出してしまうと真空管が必要なくなってしまいます。真空管の歪みを楽しむという点では、オペアンプで受ける方が好ましいのかもしれません。ただしこの場合はJFETバッファで出力インピーダンスが下がっていますので、入力インピーダンスが低めになる反転アンプで受けることができます。そうすれば入出力は同相になりますね。でも、なぜかJFETバッファが入っているのにそうしていないアンプが売っているのも見かけもったいないと思いました。

 

 

 

今回真空管とトランジスタのハイブリッドアンプを製作するに当たり、一番最初に私が試したのはフィラメントの定電流駆動です。今回電源とする006P乾電池は電圧が変動しますから、ヒーターと抵抗を直列にしたものでは値が変わりすぎます。

2本の真空管のフィラメント電源のために単四電池や単三電池を1本用意しているアンプも結構見かけます。しかし、フィラメント電源はメイン電源と共通にしておいたほうが電池交換が楽ですし、もしフィラメント電源のために別途電池を用意するのであればフローティング電源にしたいです。(今回のアンプはフローティング電源になりました。)

 

バッファは、楽でそこそこ特性が出てZweiやFierとの比較ができるという点で同じICを使いたかったのですが、ディスクリートバッファが良いと熱烈な要望がありました。プッシュプルのトランジスタバッファは無帰還で使うとあまり特性が良いものではありませんから、ディスクリートで設計するならわずかでも回路全体に負帰還をかけたい。しかし直熱管でカソード側に帰還をかけるにはヒーター電源が悩ましい。ここで負帰還をかけることを優先し、先述の実験結果はお蔵入りしてヒーター電源が左右別で電池1本ずつのフローティングにしました。

ところでよく見かけるハイブリッドアンプでは、帰還をかける場合はコントロールグリッドにかけています。入出力が反転しているからそこにかけるしかないのですが、この形だと信号と直列に大きな抵抗が入る場合が多く、雑音や音質的に不利になる傾向がありますね。非反転アンプだとカソード側にかけられますので信号と直列に入る大きな抵抗を減らせます。

 

 

以上の要素をうまく考えながら制作した今回のアンプは、5極管が電圧制御電流源であることに着目して設計しています。電圧を電流に変換し、その電流の向きを変えることで電圧増幅を1ステージで完結しています。珍しいものを作ろうとしたわけではありません。目標を達成するために設計したらこの形になったのです。

真空管アンプらしさを残すための構成にしているため電源電圧は昇圧していません。昇圧型SW電源を使うとそのノイズが出力として出てきてしまい、SNRが悪くなりますからね。この構造でも比較的大きな最大出力がとれるようにしていますので、音量不足で音が割れるということはほぼないと思います。