ANACHROVER -9ページ目

『ハーフパンツとココナッツジュース』


 実沙樹は庭のヤシの木にぶら下がるハンモックに身を沈め、砂利道のずっと先のほうから届く潮の香りを吸い込む。
 鼻の穴が1の字になるほど大きく吸い込んで、身体全体が潮のベトつきで侵されるイメージをする。
 もう一度吸い込んで、目を瞑り、昼下がりの生温い海に浮かぶ自分をイメージしたりもする。
 それをゆっくり吐き出すとき、次にイメージしたいものをイメージする。
 良いイメージに出会えなければ、ココナッツジュースを口いっぱいに吸い込んで、その出会いの時を待つ。
 吸い込む度に、何かをイメージする。
 そうしているうちに忘れられそうな気がする。
 頭の中も体内も他の何かでいっぱいにするためのこの動作を繰り返し、実沙樹はこうして何時間もハンモックに揺られている。
 それなのに記憶はますます確かなものになる。
 忘れるどころか湧き水みたいに溢れて出てくる。
 (仕方ない……消せないならいっそのこと全部引き出してしまおう)
 実沙樹は忘れることを諦めて、一昨日までの雄二との思い出に意識を沈めることにする。

 「実沙樹のこと大好きなんだけど…でも実沙樹はいつか俺の知らないところに消えちゃいそうな気がするんだ。実沙樹はいつか俺の傍から離れるって、そう思うんだ。そうやってハラハラするのは俺には向いてないと思う」
 3年分の記憶を辿ったその先に、雄二が言った最後の言葉が待ち構える。
 目頭がじわっと熱くなる。
 ココナッツの器の側面を、熱を持った涙が伝う。

 (大好きなのに、どうしてサヨナラなんだろう…)

 アロハ柄のハーフパンツに白いパーカーを着た宿のオーナーが、3杯目のココナッツジュースを運んでくる。
 2杯目のココナッツジュースの時に名前を尋ねたら、みんなマークって呼ぶかなって微笑んだ。
 そして2杯目の時と同じようになみなみに果汁の入っ たココナッツの器を置いて、ストローの向きを私のほうへと合わせてくれる。
 私の涙のことには一切触れずに…
 マークはまた宿のエントランスに戻り、パソコンの前に座って楽器を操るような滑らかさでキーボードを打ち始める。
 実沙樹以外の宿泊客はきっとみんな海や市場に出ているんだろう。
 まるで実沙樹のためだけに存在していますというように、マークは決まってジュースを運んでくれる。

 (どうしてこの島を選んだのか自分でも解んないけど、でもここにして良かった…)

 実沙樹はマークの履くアロハパンツの柄を指で空に描きながら、うとうとと眠りについてしまう。
 この宿にはココナッツジュースなど本当は置いていないことなど知らずに、穏やかなリズムで寝息を立てて、夢の中へと落ちていく。
 


 ARISA

$ANACHROVER

明日の空模様

$ANACHROVER



隣の部屋ではジッパーシャツを着たリカルドという長髪の男が、大木に彫刻刀を入れたり抜いたり、指でその切り口を確かめたりしている。
この大木の行く末は、女の裸体か。それとも地球以外の生物か。リカルドに聞いたら「明日の空模様次第で決めるよ」って、ウィンクと一緒に返された。
 (ANACHROVER STORY of 2012 SPRING & SUMMER………)



 明日の空模様次第で決めるよ…
 今日決めなくても良いことがある。決めないほうが良いことも。
 

 これは何処に繋がる道だろう?
 後戻りしてしまうかもしれない。見ず知らずの場所で迷子になるかもしれない。
 よくよく知っている別のほうの道を選ぶべきだって、擦れ違いざまに囁かれた。安全だって…
 そういうのはどうしても響かない。響いてくれればラクなのに。
 その子は考えるのをやめて、半分残ったコカコーラを飲み干してから歩き出すことにする。
 



 ARISA
 

 


ペティのボンテージパンツ


$ANACHROVER


 「お前、変わってねぇよなぁ、くだらねぇーことでムキになる性格」
 ペティはパイル素材のガウンに零してしまった炭酸水を甲で叩きながらそう言って、呆れたとも微笑ましいとも取れる曖昧な表情を見せた。
「おいおい馬鹿言うな。くだらなくはないさ。これも立派な教育の一環だろ」
「教育してやんのは坊主の前にあのサーファー夫婦だろうが。ゴミも捨てずに散らかし放題で出て行っちまったじゃねぇか」
 ペティは親子3人が座っていたテーブルを顎で指し、ボンテージパンツのポケットからライターを取り出す。
「ペティも変わってないな。尖った身なりしてるくせに、礼儀には厳しい」
「人を見た目で判断する奴も、礼儀がなってねぇ」

 ………

 久しぶりに再会した二人。
 まるで昨日も一昨日もずっと一緒だったかのような会話のリズムが刻まれる。
 こんな風に大切な人と繋がっていられれば、人生とても豊かですね。
 たとえ遠く離れていても。
 もう一度会えるか会えないか分からなくても。



 ARISA



 


ざっくり編まれた紅茶色のセーター

ANACHROVER


 こっそりランドセルに忍ばせた給食のコッペパンを取り出す。
 「今日は黒糖味だぞ。贅沢だろ?」
 太一は今日も寄り道をして、ポチのところにやって来た。
 放課後の遊び場にしている神社の裏手の細い路地で、十日ほど前に太一はポチを見つけた。
 <名前“ポチ” 0歳8ヶ月 あまり鳴かない良い子です どなたかもらってやってください>
 日に日に薄汚くなっていく貼紙に書かれた丸文字を目でなぞる。
 良い子にしていても捨てられちまうことがあるのか…
 太一の心の中で、矛盾した事実が行ったり来たりする。
 飼い主のあらゆる事情を想っては、どれを取っても腑に落ちず、胸がいっぱいになる。
 幼い太一には、胸をいっぱいにしてくるそのモノをどう言えば良いのかさえ分からない。
 「うちの母さん、動物は飼いたくないんだってさ。死んじゃったとき悲しいからって…。ポチはどう思う?もし今日僕が死んじゃったら、ポチは悲しむ?」
 ポチは太一が細かくちぎって差し出すコッペパンに勢いよくかぶりつく。
 それ以外には、何もしないし何も言わない。鳴くことさえしない。
 太一はもっと胸が重たくなるのを感じる。
 「そりゃぁ悲しむさ。君が死んだらポチは悲しむに決まってる」
 太い毛糸でざっくりと編まれた紅茶色のセーターを着た男の人がそう言って、太一の目線までしゃがみこむ。
 その人は口をへの字に歪ませて、左手に持っていた文庫本を脇に挟んで両の掌を息で温める。
 警戒した太一はポチを抱きかかえようとするけれど、ポチは前足をバタバタ振ってすぐに地面に下りてしまう。
 「僕も君も、いつかは死ぬよね。もちろん、ポチも。死んだらもう二度と、この世界には戻れない。君が生きているっていうのは、普通のことじゃないんだ。それって、すごいことなんだと思う。まぁ、あくまでもこれは僕の意見ね」
 太一は何か言おうとするんだけれど、言葉が喉の辺りで逆流する。こんなにも物腰柔らかな話ぶりをする大人に出会ったのは初めてで、太一はただただ戸惑ってしまう。
 「どう思う?もし君が良いって言ってくれるのなら、僕がポチの面倒をみようかな。もちろん、ポチか僕が死ぬまでずっと」

 
 20年前のそんな日の光景が頭に浮かぶ。
 ざっくり編まれた紅茶色のセーターを手に、試着室からレジへと向かう。
 「太一、もう決めたの?こっちのセーターのほうが良いんじゃない?」
 別のセーターを持った愛里が近づいてくる。
 「うん、これに決めた。死ぬまで大事に、これを着るんだ」
 「何それ?」


 




 ARISA
 

展示会と商談と。。

この日は、アナクローバーnew faceの奥とTokyoへ。

ゴロゴロと大きな荷物と共に、アメリカンラグシーさんやナノユニバースさんと商談を♬

そして、そして。

アナクローバーの次なる展示会場所を点々と下見。

イメージとの葛藤。日程などの調整を再検討。

今回はプエルタデルソルさんとロエンさんの展示会に御邪魔させて頂きました。

魂のこもった作品ばかりで、心打たれました。

ノベルティも可愛いし♬

さて、こちらも負けずに頑張ります!!

HIRO$ANACHROVER
$ANACHROVER

週末のぶらり旅ww−後編

大分、書き込みに時間がww

で、翌日。

大阪の日曜の朝。

アナクローバーの取り扱い店、心斎橋のローグさんに♬

連絡無しに突撃訪問ww

atoやWJK、AGやアレキサンダーマックイーンなどセレクトされているお店です。

開店早々、御客様がご来店でお忙しそう。。

御客様のお子様と戯れるスタッフの方。

優しい笑顔が素敵な接客を観させて頂きました。

こういう接客でアナクローバーも販売して頂けていると思うと

凄く嬉しくなりました。

いつも有り難うございます。と一礼して梅田へ移動。

こちらへは、いつもお世話になっているドラマーのTOSHIさんに会いに。

この日は、前日GLAYのライブで参加した田中廉くんも一緒でした。

リハーサルを終えて一緒にランチをして、少しだけクリニックに参加させて頂きました。

未来のドラマー達が目をキラキラさせながら真剣に参加している姿。

凄くいいエネルギーを感じさせて頂きました。

本当にいつも感謝です。

感動の空間に後ろ髪を引かれつつ、名古屋へ。

そう。

そう、そう!!

A'イベントin NAGOYA!!

こちらも凄過ぎ!!!!

凄い人だらけでパンパンな状態で息苦しいww

大阪に引き続き、大先輩の方達のチャリティーイベント♬

主催者のex.BY-SEXUALのNAOさん

roarの濱中さん

PUERTA DEL SOLの平野さん

RISKのヒゴさん

FPMの田中さん

スタイリスト坂崎タケシさん

INORAN(LUNA SEA)

またまた豪華なDJ陣♬

みんな笑顔が絶えない夜でした♬

打ち上げも最高に盛り上がって、楽し過ぎたな~ww

TOKYOも楽しみ♬

HIRO
$ANACHROVER

週末のぶらり旅ww−前編

18日の土曜日から西へお出かけしてました。

最初に、ANACHROVERの卸先で大阪のblessさんへ。

新幹線でビューン。

電車の乗り換えもスムーズにいき、すんなり着きました。

本当に雰囲気のあるお店で、シェラックさん、roarさん、バックラッシュさんなども取り扱っている。

オーナーの藤原さんもめっちゃいい人♬

ブランドに対する姿勢や御客様に対する思いやり。

スタッフの方も交えて、楽しくお話をさせて頂きました。

凄く全ての共存を考えてくれているお店。

アナクローバー取り扱って頂けている事、本当に感謝です。

人との繋がりを感じた時間でした。

シュークリームごちそうさまでした!!




雪の中、帰りの駅まで見送って頂き、いざ京都へ。

その日は、京都会館でGLAYのライブ♬

ライブって場所によって全然違うんだなと感じました。

全てがプラスのオーラで包まれた空間。

毎回、新たな刺激と幾つもの勉強をさせて頂いております。

ライブを一緒に観ていた、いつもお世話になっている先輩のはじめさんとA'大阪のイベントに行こうと思っていたが、、、、

急遽仕事が入ったとの事となり、

お先に。。。

一人、大阪に戻りいざA'大阪へ!!





が、道に迷いに迷ったww

会場を見つけ中に入ったら、、、、、。

人!!!人!!!人!!!!!

凄いパンパンな状態。

大先輩の方達のチャリティーイベント♬

主催者のex.BY-SEXUALのNAOさん

roarの濱中さん

PUERTA DEL SOLの平野さん

RISKのヒゴさん

FPMの田中さん

スタイリスト坂崎タケシさん

HAKUEIさん(PENICILLIN)

シークレットでGLAYのHISASHIさん

この豪華なDJ陣♬

みんなが楽しんで、その使ったお金がチャリティーに繋がる。。。素敵すぎる夜。

打ち上げも最高に楽しい夜でした♬

よし、ホテルに帰ろう。。。4時ww

HIRO


唯一の写真。。。。鴨ww
$ANACHROVER

To be continued…


ANACHROVER Story of Spring & Summer 2012 ~The land of dreams~


突然、右斜め前方からプラスチックの小さなボールが吹っ飛んできて、俺の額を直撃する。
真っ黒に肌を焦がしたサーファー風の両親に挟まれてお子様専用チェアーに座り、自分の顔よりデカいハンバーガーにがっつく幼い坊主が、悪戯な笑みを俺に向ける。

どうやって食えばそんなふうに仕上がるんだ?
鼻のてっぺんにはホワイトソースを、両頬にはトマトソース、何故か眉毛の下やこめかみのあたりにまで茶色いソースをべっとりつけて、「俺の球、すげぇだろ」とでも言いたげだ。

俺はテーブルの下に転がるボールを拾って口の中に放り込み、ゴクリと呑み込む真似をする。
ガキンチョ相手に必死になんなって?関係無いだろ。俺の負けず嫌いに火がついたらもう自分でも止めらんない。
坊主からよく見える角度まで顎を上げ、喉仏を大袈裟に上下させる。
ボールは上がったり下がったり何かに引っ掛かったりしながら狭い食道を抜けていく、真似をする。
3色のソースで顔面装飾された間抜けな怪獣は驚いて、目も口も鼻の穴も大きくぽっかり開けたまま凍りついた。
おしゃべりに夢中だったパパとママは坊主の異変に気が付いて、坊主の視線の先を追う。
俺は何も知らないただの客を装って、フィッシュバーガーにかぶりつく。
(怪獣くん、残念ながら俺様の勝ちだな)


ここはROCK VILLAGEから5,000kmほど離れた常夏の島「カヴァーズ アイランド」
かつての海賊仲間、ペティに偶然再会したのは、ちょうど半年前のことだった。
航海の最中、暇さえあればギターやベースの弦を弾いて唄っていたペティは、俺が海を離れてすぐに同じく海賊を卒業し、取り憑かれたようにROCKに明け暮れた。そしてもともと才能があった彼は世界で5本の指に入るベーシストにまで上り詰め、地球最高級のROCK FESに出場していたというわけだ。

「お前、変わってねぇよなぁ、くだらねぇーことでムキになる性格」ペティはパイル素材のガウンに零してしまった炭酸水を甲で叩きながらそう言って、呆れたとも微笑ましいとも取れる曖昧な表情を見せた。
「おいおい馬鹿言うな。くだらなくはないさ。これも立派な教育の一環だろ」
「教育してやんのは坊主の前にあのサーファー夫婦だろうが。ゴミも捨てずに散らかし放題で出て行っちまったじゃねぇか」ペティは親子3人が座っていたテーブルを顎で指し、ボンテージパンツのポケットからライターを取り出す。
「ペティも変わってないな。尖った身なりしてるくせに、礼儀には厳しい」
「人を見た目で判断する奴も、礼儀がなってねぇ」ペティは煙草に火をつけて、窓ガラスの向こうに視線をやった。

小さい怪獣は両親の後を追って、砂浜のほうへと消えていく。
俺の中に淋しさが込み上げる。
(あいつ、可愛かったな…またどっかで会おうぜ)

「ところでペティ、さっきの話の続きだけどさ。この島の半分はお前が所有してるってわけか?」俺は話を巻き戻してから、奥歯と奥歯の間に挟んだままのボールを吐き出す。
「まぁ、金を出したのは俺なんだけど。そういうの抜きにして、島も海も全部、地球は地球だな。俺ら人間は自然界からちょっとお借りするだけ。自然のあらゆるサイクルの邪魔をしねぇように、礼儀正しくな」
こういうところも変わらない。ペティは尖った身なりをしてるくせに、時折、ブルッと身震いするほど格好良くて真面目なことを言う。


水平線間際の空が橙から淡紫へと変わる時分、俺はペティに連れられて、「オルエリア」と呼ばれる練習場にやってきた。
練習場とはいえ、この島の半分をカバーするわけだから、一周歩けば3、40分はかかる。
ペティは2年ほど前にこの島の半分を自分のものにし、世界中から有能なミュージシャンを集めて育て始めた。そして今ではミュージシャンにとどまらず、ペティの感性を敬う多くの芸術系アーティストまでもが集うようになったんだそうだ。

オルエリアにはログハウス調の建物がいくつも点在し、ヤシの木やクロトンやポトスなどの植物が、その一つ一つを囲うように生い茂る。

「よぉ、シャルル。俺の大事な奴を連れてきたぜ」
最も海に近いハウスでペティが最初に声をかけたのは、シャルルというスプレーアーティストの青年だった。
シャルルは色とりどりの顔料で汚れたアロハシャツの裾で手を拭ってから、俺に握手を求めた。無論、俺の右手は昼間に出会った怪獣くんのように装飾される。

シャルルが描く、巨大なイラストボードの中の世界。
葉巻を食わえたシマウマが、満月の上で不思議なポーズをとる。そのすぐ近くに浮かぶ雲に乗った兎と金髪の少女は手を繋ぎ、空に向かってジャンプしようとする。月明かりの下、赤と黄のハイビスカスが咲き乱れ、そのうちの一輪を目指して虹色の雨が一筋降りる。

定位置に戻ったシャルルは、ハイビスカスの絨毯の上にピンクオレンジの顔料を吹きつける。何の迷いも無く、何かに指示されるでもなく。

隣の部屋では刺繍入りのジッパーシャツを着たリカルドという長髪の男が、大木に彫刻刀を入れたり抜いたり、指でその切り口を確かめたりしている。
この大木の行く末は、女の裸体か。それとも地球以外の生物か。リカルドに聞いたら、「明日の空模様次第で決めるよ」って、ウィンクと一緒に返された。
その横で、東南の国から来たというウンジュが、シルクの布地でドレスを縫っている。まだ十代に思しき彼女は、「いろんな果実や草木から染料を作ってみたの」と嬉しそうにドレスの胸元に縫い付けられたレースを持ち上げて見せた。

ワーグナーのレッスンがあるからとハウスを出るペティを追って、そこから100mほど離れた別のハウスに向かった。
広くて天井が高い部屋の端っこに3台のドラムセットが構え、その真ん中でベースを抱えたワーグナーと俺と同じ歳くらいの黒人ギタリストが華麗なテクニックで音を操っている。
ペティと俺に気が付いたワーグナーは弦の上を踊る手を止めて、丁寧にお辞儀をする。
ワーグナーはさっきまでの弾けた表情を引き締めて、緊張した面持ちでパッチワークシャツの袖を捲る。
ペティが頷くと、ワーグナーが演奏を始める。

しばらく聴き入っていた俺はテラスのベンチに腰をかけ、自分が今どの時代に生きているのか分からなくなっていることを想う。
眼前に広がる海に学ぼうとするけれど、そんなに簡単なことではないのだろう。

遠くて近い場所で、夕陽が地球の裏側へと姿を隠し、それを追うようにオキゴンドウクジラの群れがゆっくりゆっくり西に向かって泳いでいく。

こうして、植物と動物が息吹くこと。誰かに出会うこと。生きること。幸福を知ること。そんな当たり前のことが、この島では特別に映る。

ワーグナーのレッスンを終えたペティが俺の隣に座る。
俺は答えを知っているくせに、あえて質問をする。
「なぁペティ。どうして島なんだ?それも太平洋の真ん中にポツンと浮かんだ不便な島を半分買ってまでさ」
「スターを育てるのなら、都会でもできるだろって?」ペティは穏やかにそう言った。
「ミュージシャンもアーティストもさ、自然界のことを理解してなけりゃ、くだらねぇだろ。そいつも作品も。自然の力を借りなきゃな。だから俺はここで教える。音楽や芸術のことよりも、生命の一員として最も大切なことを。海賊野郎のときに自然から学んだことをみんなに伝えたくてな」
ペティは、尖った身なりをしているくせに……

ペティは赤いTeeシャツの衿もとからシルバーのネックレスを抜き出す。航海の途中に病気で亡くなったドールマンが付けていたものだ。

「ROCK VILLAGEでお前に再会して、一緒に海を渡ったお前ならこの島のことを気に入るはずだって、そう思ったんだ」
ペティはネックレスを握り締め、昔と変わらない笑顔を見せる。


~To be continued~

$ANACHROVER



こうして、ANACHROVER STORYの主人公は、これからも歩き続けて止まないようです。

ARISA


ペティとドールマン


 
$ANACHROVER


 ペティがこの赤いTシャツの衿もとから取り出したシルバーネックレスは、病気で亡くなった海賊仲間のドールマンがずっと大切にしていたもの。

 ペティとドールマンは喧嘩ばかりしていたけれど、実はとても信頼し合っていた。
 人に弱みを見せないペティが、自分の心を丸裸にできた唯一の人、ドールマン。
 彼が突然目の前から居なくなってしまったとき、ペティは一ヶ月以上もの間、誰とも口をきかなかった。


 「なぁドールマン……、一つ、聞いても良いか?」
 「どうせ嫌っつっても聞くんだから。決まってる」
 「怖くないか?」
 「怖い?お前が珍しく真剣な顔をしてっから、それが何より怖いさ」
 「今この時が楽しければ楽しいほど、不安になるんだ。怖いんだよ。いつかは失うだろ?永遠なんて無いんだから、いつかは失う。だから、怖いんだ…」
 水面に反射した月明かりが二人を照らす。
 ドールマンはペティの顔を覗きこんで、優しく微笑む。
 「なぁに。心配すんなって。たとえ全部失っても、形が消えるだけ。目に見える光景が変わるってだけ。全部お前の中には存在するんだからさ。たいしたことはないさ。目に見えるものなんて、たいして重要じゃないだろ」


 ドールマンがこの世を去ってから、もう3年以上が経つ。
 ペティは日に日にドールマンの存在を近くに感じている。
 居なくなる前よりずっと。今のほうがずっと、傍にいる。


 「たいしたことはないさ。目に見えるものなんて、たいして重要じゃないだろ」

 

 ARISA
 



シャルルのパッチワークシャツ


$ANACHROVER

 物語の中で、スプレーアーティストのシャルルが着ていたパッチワークシャツ。

 シャルルのように豊かな発想が、この世界を温める。
 そんな気がするんです。


 「シャルルが描く、巨大なイラストボードの中の世界。
 葉巻を食わえたシマウマが、満月の上で不思議なポーズをとる。そのすぐ近くに浮かぶ雲に乗った兎と金髪の少女は手を繋ぎ、空に向かってジャンプしようとする。月明かりの下、赤と黄のハイビスカスが咲き乱れ、そのうちの一輪を目指して虹色の雨が一筋降りる……」


 きっと…、大切なことなんです。

 ARISA