美羽達との一試合を終えた翔太は、水を飲みに体育館外の水道へと向かって居た、喉を潤し頭から水を被り火照りを冷ましながら体育館へと向かうと、ふと、体育館の脇の人影が目に入った。
(誰だろう?女の子かな?)
(!!?)
(な、泣いてる〜〜〜!?)
その人影の正体は一人の女の子だった、だが、その少女は一人体育館の隅で涙を流して居た、翔太が理由も分からず戸惑って居るとその娘は、涙を拭い静かに体育館へと入って行った、そして徐ろにラケットを取り出し、一人サーブ練習を始めたのだった。
明るく元気な美羽と対照的に、物静かな雰囲気を纏って居るその少女から翔太は目を離せないで居た。
(さっきの子だ、一人なのかな?)
(さっきは何で泣いてたんだろう?)
(どうしよう?なんて声を掛ける!?)
(分からない〜!でも…)
(でもバドミントンなら…!)
「…ねぇ?一緒にゲームしない?」
(なんで泣いてたのか解らない)
「あ!ごめん!急に話し掛けて!」
(どうしてそんな悲しそうに打つのか解らない)
「でも!ほら!誰かと打つ方が練習になるし!」
(だけど、バドミントンなら)
「…楽しいから!やろう!!」
「ラブ・オール・プレーだよ!」
この瞬間翔太の人生が大きく動き出すのだった。
二人の試合は静かに始まった、二人の立つコートに声は無く、唯、ラケットの風切り音と、シャトルの弾かれる小気味良い音が木霊する。
だが、ラリーが続く内次第に翔太の表情が変わって行く
(なんだろう?この子ちょっと)
(いや!かなり上手い!!!?)
「アレ?翔太?」
(翔太が女の子と打ってる?誰なの?あの娘…?)
(それに、なんなのあの子、私より上手いんじゃ……?)
【パシンッ!】
「あっ!」
【トンッ…!コロン…】
「……………」
「あぁ〜……うぅぅぅぅ………!!」
「………!?………;」
「君、すっごく上手だね!!!!」
「!!」
「凄いよ!!僕こんなに上手い人と戦った事無いよ!!」
「………;」
翔太のキラキラした圧に圧倒され、少女は何も言えず唯戸惑って居る、いや、何かがおかしい。
「君名前なんて言うの!?」
「……;……;」
(?……!)
(もしかしてこの子……口が…!?)
そう、その少女は言葉が話せない様だった、だが、どうやら此方の声は聴こえて居るらしい。
「ごめんね!でも!本当に凄いよ君!!」
彼女の障害に気付いても、何一つ変わらない翔太の態度と圧力を前に遂に
「……プッ……!(笑)」
体育館の隅で一人泣いていた、無表情の女の子は笑顔を魅せてしまっていた。
(か、可愛い…!この子笑うとこんなに可愛いんだ……!?)
そして、艶めく程美しい黒髪のショートヘアーがその少女の柔らかな表情を更に引き立たせて居る様だった、その笑顔は一人の少年を初恋に堕とすのに、そして、一人の少女の初恋を奪うのには容易いモノだった。
勿論、クソ鈍感天然主人公の翔太が、その気持ちが恋心だとハッキリ自覚するのはもう少し先のお話しである。
(ザワッ……)
「…ねぇ?翔太?その子知り合い?」
(ザワザワッ……)
「あ、美羽!ううん!この子とはさっき会ったばっかりなんだ!」
「え…?そうなの…?」
(じゃあ…なんでその子とゲームしてるの?なんでその子と楽しそうにしてるの?なんで…そんな嬉しそうな顔……)
「ねぇ?アナタ、さっき見てたけど」
「そうなんだよ!この子すっごく強くてさ!」
(うるさい…!)
「フォームもすっごく綺麗で…」
(やめてよ…!)
(他の女の子の事、楽しそうに話さないで…!)
「美羽とどっちが強いと思う!?」
「…うん、そうだね、ねぇ?私ともちょっと試合しない…?」
(私に決まってるじゃない……バドだって、貴方への気持ちだって…私の方が……だから、良く解らないアナタなんかが翔太に近付かないで…!)
その美羽の内心に気付いたのかは定かでは無いが、その男の子とは全く別の圧力を自分に向けて来る美羽と呼ばれる少女を前に、彼女は身動ぎ、逃げ出す様に体育館から姿を消してしまった。
「あ!待って!君の名前!!」
自分を笑顔にしてくれた男の子に、自分の名前も伝える事が出来ないまま。
ーーー
(さっきの男の子、翔太君……あ、私、名前伝えられなかったな……)
彼女の名前は【鬼頭 優飛ーきとう ゆうひー】今作のメインヒロインであり、そして、彼女もまたこの日一人の主人公として、翔太と共に未来への歩みを進み始める事に成るのであった。