介護職の男性が、紙袋を抱えて事務室に入ってきた。
そこには施設長と相談員と栄養士と私がいた。

袋の中には五つの箱入りマスクがあった。
あやしい露天のようなところで手に入れたらしい。
「これで二万円したんですよ!」
介護職には施設から使い捨てのマスクや国から配られたマスクがあるが、彼は奥さんが都内へ通っていて、高校生の子供もいて大量にマスクが必要になるらしい。
「また、騙されたんですか?」
思わず口に出してしまった。
ネットで手に入れた透けるような水色の薄っぺらなマスクをつかまされたと見せてくれたのがつい二週間前。

「そういうのを買う人がいなければ薬局に正規の料金で売りに出るのにね。」
と、施設長。
箱を開けたら、明らかに粗悪品ぽい。

それにしてもみんな明るい。

笑いに飢えてるから、この職員さんが提供してくれる話題に食いついてしまう。

「厚労省のブリーフマスクどうしたんですか」と聞いてみた。
真っ白で変だから、染めてみたんだそうだ。
濃い灰色を目指して。
ますます使いにくくなったことだろう。

「染めて口に当てて安全なの?」
と、栄養士が突っ込む。



マスク一つで
盛り上がるひととき。

相談室には、国から配られるマスクが届かないという電話相談が入る。

マスクに振り回された時があったね。
いつか笑い話で思い出す日が来る。