巷では新型インフルエンザが大流行の兆しらしい。
そもそもインフルエンザウィルスは毎年のように
形態を少しづつ変え、亜種、新種として、
われわれ人類に戦いを挑んでくる。
新種に対するわれわれは実に脆い。
これは、ウィルスや病の類のみならず、
仕事においても言えることだ。
「新たな試み」と称される案件は
とかく様々な反論・批判を呼び、実現が難しい。
新しいものなのに、実績を数字でもってこいと
よくいわれがちだ。
無理だつうの。新しいんだから。
とまぁ仕事の愚痴はおいておいてだ。
これまで長年に渡り、俺は神々の手先と闘ってきた。
彼らの手口はこうだ。
深夜、眠りにつくかつかないか位の時に、
ふゎ~~~~~ん っという不快な音と共に近づき、
あざ笑うかのようなヒット&アウェイを繰り返す。
毎度毎度のパターンにも関わらず、
時として、ちょっとしたうっかりから、
敗北を喫することもあった。
今年の夏は、
緑の渦巻き作戦が功を奏し、
これまでの歴史の中でも、
非常に良い勝率を収めていた。
静かな夜が続いていた。
しかし…
神々は準備していたのだ。
着々と。
最近の俺は、寝しなにチャットで寝言を言ってから、
意識朦朧のまま、ベッドに潜り込むか、
あるいは、眠気を催させるため、
ベッドに潜り込んでから、DSで数独を行う。
昨夜は後者だった。
夏とは思えぬ肌寒さとはいえ、俺の格好は、
Tシャツにオパンティエール将軍という、
ライト、かつOLちっくな寝装束。
スポンジボブの肌掛け布団は、
隣で眠るハニーが占有していたため、
俺は肌を晒した状態でベッドに横たわり、
数独に夢中になる。
時間は午前4時、近隣の鶏がたまに鳴くほかは、
遠くからひぐらしの声が聞こえる程度、
実に静かな夜だった。
ぱっくり開いた両太もも内側にかゆみを感じる。
あれ?
近年、さらに逞しさが増している左上腕部にかゆみを感じる。
あれ?
わけもわからず枕元に置いてあるムヒをぬっていると、
隣で寝ていたハニーが突然起き、
かっゆーーーーーい!と叫ぶ。
どうやら、もっともかゆいランキング上位に常に鎮座している
指先あたりをやられたらしい。
あれ?
何かがおかしい…。
俺は数独に夢中になっていたとはいえ、
完全に覚醒状態にあった。
視覚も聴覚も正常、あるいは、
夜の闇に照らされて、むしろ、敏感になっていたはずだ。
にもかかわらず、俺のレーダーに、
やつらは引っかからなかった。
例えていうなら、いきなり
ステルスに爆撃を受けたような状態だ。
一体なにが起きたのだ?
俺とハニーは寝室の電気をつけ、壁、天井、床に目をやる。
いない。
いた!
ハニーは一匹の神々の手先をみつけ、
両手でぱちこーーんとする。
捕らえられた奴の遺体からは、
われわれの血液は検出されたなかった。
つまり、犯人ではないということだ。
あれ?
さらに探索したものの、
ついに犯人を捕らえることはできなかった。
!
突然のひらめき。
押し殺そうとした結論に
俺は猛烈な恐怖感を味わうことになる。
まさか…
神々はついに、
新種の手先を手に入れたのだ。
特有の不快音を発さず、
姿すら晒さず、
黙々とターゲットに近づき、
任務をこなす。
戦国時代の素っ破、乱破、忍びのように、
現代のステルスのように、
そんな新種の開発についに成功し、
連戦連勝に慢心していた俺相手に、
実験を始めたのだ。
俺は、神々が放った新種の強敵に
「サイレント・キラー」と名付け、
今夜から厳戒態勢を布くことにした。
夏の終わりのはーもにーなこの時期に、
新たなる敵「サイレント・キラー」との
予測不能な闘いが幕を開けた。