イングランドプレミアリーグ第26節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

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Referee topics

 

ルイス・スケリーのファウルは
明らかにDOGSO。

 

 アーセナル vs ウェストハム
(Referee: クレイグ・ポーソン Assistants: サイモン・ベネット, ダン・ロバサン 4th: アンドリュー・キッチェン VAR: ピーター・バンクス)

 

71分、ハーフウェーライン付近でボールを奪われたルイス・スケリーがドリブルで前進を試みたクドゥスを倒してファウル。当初、ポーソン主審はイエローカードを提示したが、VARが介入しOFRの末にレッドカードに判定変更となった。

 

ファウルであることは明らかであり、あとは状況(シチュエーション)をどう捉えるか。DOGSO(決定機阻止)かSPA(チャンス阻止)かという判断になる。

 

守備側のカバーがいないのは明白だ。ゴールとの距離は遠いものの、アーセナルはかなり前掛かりになっており、ファウルがなければゴールまで一直線。クドゥスはラストタッチで内側に切り込んでおり、プレーの方向とボールコントロールも問題ないので、DOGSO成立。VARとしては介入間違いなしの場面だ。

 

イエローカード提示については、ポーソン主審およびA1のサイモン・ベネット副審(あるいはアンドリュー・キッチェン第4審)の総合的な判断だったと思われるが、ラストタッチのボールコントロールが長くなったと捉えたか。あるいはサリバの位置を「カバーができた」と捉えたか。いずれにせよ映像を見る限りは「明らかにDOGSO」なので、VAR介入は当然の判断だ。

 

 エヴァートン vs マンチェスター・ユナイテッド
(Referee: アンディ・マドレー VAR: マット・ドノヒュー)

 

終了間際の90+3分、ゲイエのシュートのこぼれ球に反応したアシュリー・ヤングが倒れ、マドレー主審はPK判定。しかしVARが介入し、OFR(オン・フィールド・レビュー)の末にノーファウルでPK取り消しとなった。

 

リプレイ映像で見ると、こぼれ球への反応が遅れたデリフトがヤングのユニフォームを引っ張っているのは間違いない。そのまま倒れれば明らかにファウルだったが、デリフトが手を離した後にヤングが「跳ぶ」ようにして倒れたのは印象が良くない。マグワイアと最終的に交錯してはいるものの、ヤングの倒れ方は自然なものではなく、自ら倒れに行ったと捉えるのが妥当だろう。

 

PK判定を「明白な間違い」とするかどうかは正直微妙であり、ユニフォームに手をかけたデリフトの行為を重く見てファウルを採る選択肢もあった。ただ、観る側としては映像を見て主審が最終ジャッジを下した今回のプロセスのほうが納得感は高く、結果的には丸く収まった感はある。VARの運用ルールにがんじがらめになる必要はないと感じる一戦だった。

 

 ボーンマス vs ウォルヴァーハンプトン
(Referee: マイケル・サリスバリー VAR: スチュアート・アットウェル)

 

31分、アイ・ヌーリに対するザバルニーのスライディングは当初イエローカード判定。しかし、VARが介入し、OFRの末にレッドカードとなった。高く上がった足裏が脛のあたりにヒットしており、非常に危険なプレーだ。勢いもあったのでレッドカードは妥当な判定だろう。

 

ボールに対するチャレンジではあったが、相手に対して足裏を向け、かつ足が高く上がるという安全への配慮が欠けたプレーになってしまった。サリスバリー主審としては、ウルブスの前進を予測して前目にポジションをとったものの、結果的に串刺しになってしまい、ザバルニーの接触の程度を見極めきれなかったようには見えた。

 

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各試合の講評

 

基本的な守備ができない
ユナイテッド。
守備再建のコーチ招聘が鍵?

 

 エヴァートン vs マンチェスター・ユナイテッド

 
監督交代からV字回復となったエヴァートンに対し、アモリム体制でも苦戦が続くユナイテッド。気づけば順位は逆転し、ユナイテッドがチャレンジャーと挑む一戦となった。
 
前半はチーム状況がそのまま現れる内容となり、エヴァートンの圧力と出足の良さが際立つ展開に。もはや「恒例」となりつつあるセットプレー絡みでエヴァートンに先制を許すと、緩いプレッシングでカウンターを食らい、最後はこぼれ球でドゥクレに先を越されて2点目。テン・ハーグ時代からの課題であるセットプレーと中盤での守備という課題は改善の兆しが見えない。
 
後半はエヴァートン側がややペースダウンしたこともあり攻勢を取り戻し、結果的にはセットプレー絡みの2ゴールで同点に。ガルナチョやドルグの仕掛けが増えたことがエヴァートン側のファウルを誘発し、セットプレーではブルーノ・フェルナンデスとウガルテの技術力の高さが発揮された。とはいえ、戦術的な崩しというよりは個々のクオリティを活かした仕掛けが目立っていた印象だ。
 
終盤に与えたPKはヤングのオーバーリアクションのおかげで取り消されたものの、こぼれ球に対して後手を踏んだ状況自体は前半の失点と何ら変わらず。クロスやシュートに対する寄せの甘さ、中央でのマークのずれという基本的な守備の課題は歴然としている。
 
アモリム監督としても途中就任でチーム戦術を落とし込む時間がない事情はあるので、今季は残留できればOK&選手の見定め期間として割り切るくらいの覚悟が必要か。
 
そもそも守備構築というよりは攻撃を軸にしたメカニズムを持ち味とする指揮官なので、近年のユナイテッドの足を引っ張っている守備の課題克服のためには最適解ではないかもしれない。もちろん攻守が一体となるべきことは認識しつつも、例えば守備整備のスペシャリストをコーチとして加える…などは状況打開の一手かもしれない。