プレミアリーグ第1節。リヴァプールとチェルシーの一戦を講評する。

 

 TODAY'S
 
イプスウィッチ vs リヴァプール

 

<Referee Topics>
無難に終わらせたロビンソン。
見事に見極めたメレディス。

 

    

Referee:

ティム・ロビンソン


Assistant referees:

ティモシー・ウッド
スティーヴ・メレディス

 

4th Official:

キース・ストロウド


Video Assistant:

スチュアート・アットウェル
ハリー・レナード

 

4分、裏に抜け出したバーンズにロバートソンが絡んで転倒するもノーファウル。肩に手がかかったようには見えたが、そこまで強い力がかかったわけではないので、ノーファウルという判断は受け入れられる。

 

6分、イプスウィッチのファウルが何度か続いた中で、裏に抜けようとしたジョタを引き倒したウールフェンデンに警告。体を預けられ、裏抜けされそうになったところなので、SPA(チャンス阻止)の典型的な例だ。

 

13分、フラーフェンベルフに対してハッチンソンのスライディングがファウルで警告に。鋭い出足でありボールを刈り取ったようには見えたが、フラーフェンベルフがボールを囲うために置いた足に接触してしまい、接触の強さ(勢い)や足裏がやや上がっていたことも考慮すると、イエローカードもやむなし…か。

 

24分、マクアリスターに遅れてチャージしたバーンズに警告。遅れてチャレンジし、僅かに足を踏んでしまったように見えたので、こちらもラフプレーでのイエローカードは致し方ない。

 

このシーンに限らず、イプスウィッチは全体的に球際に激しくきており、遅れ気味に相手に接触する場面も多くなっていた。このあたりは選手とのコミュニケーションで自制を促したいところだったが、特に前半は収まる気配がなく、結果的にファウルがかなり多くなってしまった。

 

40分、フラーフェンベルフのファウルはかなり微妙。後方からのチャレンジではあったが、先にボールに触っているようにも見えるので、ノーファウルにも思えた。

 

53分、エリア内でデラップとファン・ダイクが交錯して転倒。接触だけ見れば、エリア内で斜めに走り込んだデラップに対し、ファン・ダイクが遅れて肩に手をかけており、ファウル濃厚のプレーに見える。が、その前のデイビスの立ち位置がオフサイドであり、VARでもメレディス副審のラインジャッジが正しいことが確認されたので、「PKか否かの前にオフサイド」ということで不問となった。

 

55分、ディアスのシュート後にウォルトンが「衝突」したが、ノーファウル。ディアスがシュートではなくソフトタッチでかわそうとしていた場合にはドリブルでの前進阻止ということでファウルもありえたが、シュートを打ち切っている以上はノーファウル判定でよかろう。

 

そのあとはイプスウィッチ側のインテンシティの低下もあってファウルは少なめに。後半アディショナルタイム、ハッチンソンのドリブルを阻止したガクポに対して警告を提示して試合を締めた。

 

難しい判定を求められる場面はほとんどなく、前半はややファウルが多くなったものの「荒れた」というほどではない。ロビンソン主審の評価としては「無難に試合を終わらせた」であり、ラインジャッジという点ではA2のメレディス副審が際どい見極めを見事に決めており、高評価に値するだろう。

 

 TODAY'S
 
試合の講評

 

スロット初陣は勝利。
修正力と質的優位で押し切った。

 

 アンカー不在で2ボランチ。スロットは中盤にボールスキルを求める。

 

選手補強がほぼ進まない中でスロット新監督の初陣を迎えたリヴァプール。注目のスタメンは中盤センターはショボスライ・マクアリスター・フラーフェンベルフの3枚。移籍が噂されたサラーとディアスが両翼で先発となり、中央はジョタとなった。

 

メンツだけ見れば昨季と大きく変わらないが、中盤はいわゆる「アンカー」を置かず、4-2-3-1気味で攻撃的な選手を並べる形となった。このあたりはボールポゼッションにも重きを置くスロット監督の「色」と言えそうだ。

 

 イプスウィッチのハイプレスに苦労するも、選手の立ち位置の工夫で徐々に適応。

 

リヴァプールは4バック+2ボランチで組み立てを試みたが、イプスウィッチが2トップ+中盤4枚をマンマーク気味に付けて前進を阻止。数的同数で網にハマってしまい、特に前半の序盤は自陣からの脱出に苦労する場面が目立った。

 

ただ、時間が経つにつれてリヴァプール側のボールの動かし方や選手の立ち位置にも工夫が見られ、徐々に状況は改善。フラーフェンベルフとマクアリスターがサイドに流れたり縦関係になったりすることでギャップを生み出し、ショボスライを含めた3枚でボールを引き出して前進できるようになった。

 

また、昨季にも見せていたアレキサンダー・アーノルドが中央寄りにプレーしボランチの横でボールを持つ場面も散見された。とはいえ、昨季に露呈したように、この形はボールロストの際にサイドががら空きになる潜在的な守備リスクを抱えているので、あまりにも多用するのはリスキーだ。

 

 アーノルドとショボスライの立ち位置調整、機動力のあるコナテ投入。リヴァプールの妥当な戦術変更。

 

前半は自陣からの脱出にすら苦労し、枠内シュートゼロに終わったリヴァプール。後半はアレキサンダー・アーノルドを中央寄りの位置に置く場面が目立った。これにより中央で起点になれる選手を増やすとともに、ショボスライが右サイドに張りだすことで迂回路にもなっていた。

 

イプスウィッチはフルコートマンツーマンに近い形を採っていたので、トップ下のショボスライのマークはセンターバックのうちの1枚(もしくはボランチの1枚が引いてくる)という形になる。いずれにしても右サイドに流れたショボスライに食いつくと中央のスペースを空けてしまうので、タイトなマークには付きづらい立ち位置となる。

 

この策は前述のように守備時のリスク(右サイドががら空きになる)を抱えているものの、機動力に優れたコナテを後半から投入したことで多少のリスクヘッジはできていた。何よりも前半に苦労したビルドアップの局面の即効薬になっていたので、スロット監督の柔軟な戦術変更は妥当なものであったといえよう。

 

 敵陣では縦に速い仕掛けでアタッカー陣が躍動。

 

後半に入って攻勢を強めたリヴァプールにとって待望の先制点は60分。後半になってから縦志向を強め、裏への抜け出しが多くみられていた中で、アレキサンダー・アーノルドのミドルパスにサラーが抜け出し、最後はジョタが決め切った。

 

イプスウィッチのハイプレス・ハイラインに前半は苦労したが、立ち位置の変更でビルドアップの課題を解決。すると敵陣では数的同数に近い形なので、ハイラインの裏を活用しながら、スピードに優れたアタッカー陣が質的優位を発揮できる状況に。合理的な打ち手により事態を好転させた。

 

 力負けだが選手個々は好印象。イプスウィッチに広がる可能性。

 

イプスウィッチとしては、特に前半は狙い通りの形であり、リヴァプールを文字通り「封殺」していた。後半はリヴァプールの戦術変更により選手個々のクオリティ勝負に持ち込まれてしまい失点が重なった。戦術のレパートリーや柔軟性という点はチームとして発展途上の部分だろう。

 

一方で闇雲にロングボールを蹴ることなく、ボランチを使いながら丁寧にビルドアップしていくスタイルはリヴァプールのハイプレス相手にも十分に機能していた。最終ラインやボランチの選手が怖がらずボールを受ける姿勢は素晴らしく、チャンピオンシップでマッケンナ監督が積み上げてきた結果と言える。

 

前線においてはパワーとスピードを併せ持つデラップはプレミアリーグでも十分に戦えそうで、ハッチンソンなど有望株が揃う2列目、積極性が際立つ左サイドバックのデイビスなども期待感がある。結果は伴わなかったが、今後に向けて希望に溢れた開幕戦であった。