EURO2024も終盤へ。準々決勝の試合のプレビューをおこなう。
イングランド vs. スイス
打ち消し合う個性が低調の原因。
システムと組み合わせの再整備を。
開幕前の下馬評が一気に萎んだイングランド。
大会前は下馬評ナンバーワンの優勝候補筆頭だったはずのイングランド。しかし、グループステージから内容の乏しい試合が続き、サウスゲイト監督への風当たりは日に日に強くなっている。
4試合で2失点と守備の堅さはあるものの、攻撃面では4試合で4ゴール。いわゆる「格下」相手が多かった中で、ボールを持っても攻めあぐねたり、もはやボールを支配されて押し込まれたりと、試合運びに課題があるのは間違いない。
ベリンガムとフォーデンのプレーエリアは被っている。
課題の原因はいくつもありそうだが、結局は豊富なタレントの最適解が見つかっておらず、むしろ個性を消し合っているように見えるのが最も大きな問題だろう。
例えれば2列目に注目してみると、最も多い組み合わせはフォーデン・ベリンガム・サカの並びだが、右サイドのライン際を主戦場とするサカはともかく、フォーデンとベリンガムが中央で渋滞する場面は目立つ。
ベリンガムはサイドに流れるよりも中央で勝負するほうが活きるはずだが、フォーデンも純粋なウィンガーというよりは、ハーフスペースやバイタルエリアで輝くタイプ。プレーエリアが被っているので、お互いに窮屈そうな印象もある。
サイドは空っぽ、中央は過密。フォーデンが右往左往している左サイド。
フォーデンに関しては、左サイド起用の場合はインサイドに入ることが多いので、本来であればサイドに空いたスペースを左サイドバックに活用してほしいところだ。しかし、左サイドバックを務めるのはトリッピアーで、走力よりは技術力に長けたタイプであるうえに、本職は右。右利きであることも影響し、むしろトリッピアーのほうがインサイドに位置することもある。
また、左のボランチを務めることが多いライスもタッチライン際でサポートするよりは、インサイドにポジションをとることが多い。つまり、フォーデンが使いたいエリアをベリンガムを含めて3人が使っているうえに、サイドのスペースは誰も活用しない…という有機性皆無の状況が左サイドでは生じている。
右サイドはサカの単独突破に頼りきっている状態。
では右サイドがうまくいっているか…と言われると、そうとも言えない。サカが幅をとることで相手が押し広がるので、右サイドはハーフスペース(ポケット)が空きやすい。それであれば、そこを中盤や右サイドバックが使いたいところだが、ウォーカーは逆サイドのトリッピアーが高い位置をとるため攻め上がりは自嘲気味。
右サイドバックならこのスペースを使えるアレキサンダー・アーノルドだが、ボランチとしてはバランスを気にしすぎなのか、ボールよりも後ろで捌き役に徹することがほとんどだ。結果的に、せっかく空けたスペースを使う者は現れず、サカの単独突破に頼る形の攻撃が繰り返されている。
攻撃の圧力を強めつつバランスをとるなら3-5-2。
では、どうすればよいのか。大会期間中に劇的な変化が起こる可能性は低いが、理想論を含めて持論を述べるなら、以下の3点になってくる。
- システムを3-5-2に変更
- ライスはアンカーに固定しバランサーに専念
- ケインをトップ下気味に配置しつつ、ベリンガムはゴール前で勝負
メンバーとしては、GKピックフォードで、3バックはショー、ストーンズ、ウォーカー。中盤はライスをアンカーに、インサイドハーフはギャラガーとフォーデン。両サイドにアレキサンダー・アーノルド(またはトリッピアー、攻撃重視の場合はサカ)とゴードンを配置し、2トップはケインとベリンガム…という形が理想的だと考える。
ケインは司令塔、ライスはアンカー。役割を絞ることも、ときには必要。
必要なのは役割の整理と相性の考慮だ。
例えばライスは今季のアーセナルで攻撃の才能を大きく伸ばしたが、現チームの陣容を考えれば「攻撃的なタレントを支えるアンカー」として起用するのが最も効果的だろう。もちろんライスの攻撃力は捨てがたいが、チーム戦術全体を考えるなら守備力のほうが現チームでは有用性がある。
また、ケインはフィニッシュから組み立てまでマルチな能力を持ったプレーヤーだが、現チームは絶対的な司令塔が不在の状況なので、ケインに最も求めたいのは攻撃陣を繋ぐハブとしての役割だ。そうなると1トップよりは2トップだし、どちらかと言えば相棒よりも引き気味のポジションで組み立て~崩しにも積極的に関わるのがよいのではないか。
ベリンガムは最前線へ。ゴードン×フォーデン×ルーク・ショーは有機的な崩しが期待できる。
次に、「相性」という点では、フォーデンとベリンガムの棲み分けが必要だ。ベリンガムは長身でフィニッシュに絡める点が最も大きいので、最前線にポジションを上げてフィニッシュへの関与を強めさせる。一方で、フォーデンはサイドに流れつつも中央の左寄りという一番得意なエリアに置き、崩しの局面やミドルシュートなどのストロングを出してほしい。
また、フォーデンとの相性を考えると、左サイドはトリッピアーよりもゴードンだろう。典型的なウィンガーでありながら、インサイドでのプレーも可能であり、フォーデンとポジションチェンジをおこない相手を揺さぶることが期待できる。実は守備意識が高く、献身性とポジショニングセンスを持っているので、日本代表での三笘のように、ウィングバックとして十分戦えるはずだ。
世界屈指のクロッサーが揃う右サイド。ベリンガムへのアシストに期待。
逆に右サイドに関しては、トリッピアー、アレキサンダー・アーノルド、サカを状況に応じて使い分けるとよいだろう。一方的に攻め込む展開ならサカで十分だし、攻守のバランスを考えるならトリッピアーという選択肢もある。最前線起用でベリンガムのフィニッシュを狙うなら、アレキサンダー・アーノルドのピンポイントクロスも魅力的だ。
最終ラインは右のウォーカー以外は誰でもよいが、左はルーク・ショーが起用できると理想的だ。左利きなので外回りでの左サイド展開がスムーズにできるはずで、ウィングバックを追い越すオーバーラップも魅力的。もちろん怪我からの回復度合いによるが、左利きのディフェンダーとして価値が非常に高い存在と言える。
システムを含めた大掛かりな変更になるので実現する可能性は高くないが、重要なのは「調子がよい選手、能力が高い選手を並べる」ではなく、「相性を把握してバランスよく組み立てる」ことである。タレント集団だからこその悩みではあるが、ここで割り切りを見せない限り、イングランド悲願の戴冠はなしえない。