EURO2024。ポルトガル vs フランスの一戦を講評する。

 

 TODAY'S
 
ポルトガル vs フランス

 

<Referee Topics>
大きなミスなく裁ききった。
難しい場面もさほどなく。

 

    

Referee:

Michael Oliver ENG


Assistant referees:

Stuart Burt ENG

Dan Cook ENG


Video Assistant:

Pol van Boekel NED

 

序盤はそこまでタフな場面はなく、必要なファウルを粛々と採っていく形に。ロースコアの試合展開が予想される中で、重要性が高まりそうなセットプレーに関しては、事前の声掛けを含めファウル(特にホールディングやブロック)が横行しないよう、マネジメントを図っていく。

 

24分、ペペのカマヴィンガへのチャージがファウル判定に。ショルダーチャージにも見えたが、若干、背中側から接触したのでファウルを採った。このあたりは激しさと正当性のバランスで見ていく形だ。

 

前半は穏やかに終わり、49分にはヌーノ・メンデスが襟内で転倒するもノーファウル。一見してダイブ気味であり、映像で見ても接触はほぼなかった。

 

55分には、ドリブルをするグリーズマンにジョアン・パリーニャの手がかかりボールを失うもノーファウル。縦に速い展開で、若干置いていかれる形になっており、位置関係的に腕のかかり具合が見えにくかったかもしれない。個人的にはファウルを採るべきシーンだと感じた。

 

79分、ジョアン・パリーニャに警告。ボールを刈り取ったものの、その勢いで足首も持っていく形となった。足裏が向いていたわけではないので警告はやや厳しいようには感じた。

 

84分、ハーフスペースに走り込んだコンセイソンを腕を広げて止めたサリバに警告。まごうことなきSPAだ。そこまでのもろもろの接触は今日の基準であればすべてノーファウルだろう。

 

延長終了間際にはカウンターの応酬が起こるも、フルスプリントで展開についていき、ゴール前で接触の有無を見極めた。

 

なお、バート・クックの両副審は、際どいオフサイドを抜かりなく見極めるなど、職務を全う。ライン際のファウルサポートでもオリヴァー主審を大いに助けた。

 

 TODAY'S
 
試合の講評

 

左ウィングが攻撃の軸。
似た者同士の死闘。

 

 得点力不足に悩むフランス。結果を出したコロ・ムアニを先発起用。

 

両チームのスタメンはおおむね想定通り。フランスは累積警告で出場停止のラビオに代わって同タイプのカマヴィンガが起用されたほか、ラウンド16で決勝点を決めたコロ・ムアニが前線で先発。得点力不足が最大の課題になる中、決定力を見せた選手を起用するのは正攻法だ。

 

一方のポルトガルは、予想通りの11人。中盤のチョイスは引き続きヴィティーニャで、大ベテランのぺぺも引き続き先発。ジョタやコンセイソンは引き続きジョーカーとしての役割を担う。

 

 左ウィングを軸とした左右非対称のシステム

 

前半はまさしく「一進一退」の攻防に。立ち上がりはフランスがボールを保持するも、15分ほどでポルトガルの保持の時間帯に。ロナウド、エムバペという両エースが守備の負担をかなり免除されている以上、両チームともにハイプレスという選択肢はほぼないので、直前までおこなわれていたスペインvsドイツに比べると、「ゆったり」した展開となった。

 

両チームともにエムバペとラファエル・レオンという左サイドに位置するウィンガーを軸にしつつ、グリーズマンとブルーノ・フェルナンデスが中央からハーフスペースに走り込んでチャンスを演出。システムは4-4-2と4-3-3で若干異なるものの、左ウィングを軸とした左右非対称のシステムという点で、特に攻撃面の仕組みは共通項が多く見られた。

 

これまでの試合との違いとしては、エムバペのポジションが明らかに左サイド寄りになっていたことが挙げられる。グループステージでは右サイドや中央でのプレーが目立ったが、この試合では明らかに意識して左サイドに立っていた。対峙するのが守備対応に難があるカンセロというのが最大の要因だろうが、結果として得意の形でドリブルを仕掛けることができ、高い確率で突破に持ち込んでいた。

 

 速攻は左から、遅攻は右から。個性を活かすポルトガルの両サイドの使い分け。

 

一方のポルトガルは、右ウィングのベルナルド・シウヴァはサイドに留まらず幅広く動き、ときには中央寄りでプレーすることも。代わりにヴィティーニャとパリーニャの両インサイドハーフがハーフスペースやサイドに出て行く形になっており、戦術的な機能性は非常に高かった。

 

右サイドが有機的な連動を軸とし、主に遅攻で持ち味を発揮するのに対し、左サイドはその逆の特徴を持つ。ラファエル・レオンの突破力、ヌーノ・メンデスの縦への推進力が最大限に活きるのはカウンターの場面。ポルトガルとしては、ボール奪取後まずは左から攻めようと試み、時間がかかった場合には右サイドを軸に…というパターンが多かった。

 

 両チーム中盤の献身性。悪童ぺぺの成熟した対応。

 

両チームともに決定的なシュートをなかなか打てない展開になったが、その要因の一つが中盤の戻りの速さだ。ウィングやサイドバックがサイドを攻略したり、中盤がハーフスペースを取ったりする場面は少なくなかったが、その先のクロスやラストパスが合わないことが多く、最終的にフィニッシュに持ち込めないシーンが目立った。

 

両チームともにサイドからのクロスが引っ掛かり中に合わない…という場面が目立ったが、これはジョアン・パリーニャやカンテ、場合によってはブルーノ・フェルナンデスやグリーズマンなどのプレスバックが速く、しっかりと帰陣してスペースを埋めていることが影響している。サボらず献身的でああり続けた両チームの中盤が、「堅い」試合展開の主要因であった。

 

91分、テュラムのドリブルに粘り強く追いすがり、最終的に食いとめた41歳ペペの対応がこの試合を象徴していた。かつて蛮行を繰り返した悪童が、熱いプレーでチームを引っ張る頼れるベテランになったことに感慨を覚えつつ、試合は延長戦へ。

 

 ロナウドにもジョアン・フェリックスにも罪はない。

 

両チームと

そこからは講評が必要な事象は特にないだろう。消耗戦のすえ、PK決着。ジョアン・フェリックスのPK失敗には特に論理がなく、「監督と不和があったので失敗した」は暴論だろう。ロベルト・バッジョ曰く「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ」である。

 

ロナウドを最後まで引っ張ったことについては、クロスを決めきる能力はあるわけで、一概に采配ミスとは言えない。もちろん、事実としてほぼ「走れていなかった」わけだが、PK戦を含め、今のポルトガル代表での彼の影響力を考えると「ロナウドとともに心中」以外の選択肢は考えにくい。