EURO2024。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

 TODAY'S
 
Referee topics

 

フェイントありのPK助走では、
我慢しきれないGKが多い。

 

 フランス vs ポーランド
(Referee: Marco Guida VAR: Massimiliano Irrati)

 

55分、デンベレの縦突破に対し、キヴィオルが接触しPK。ボールを突こうとしたところで、一瞬のスピードで勝ったデンベレが前にボールを運び、足に接触。典型的なトリッピングであり、グイダ主審の仕事はペナルティエリアの中か外かの見極めだけだった。43歳ながら高いレベルの走力をキープしているグイダ主審、接触を予期してしっかりバックスタンド側にポジショニングを修正し、正確な見極めに成功した。

 

74分にはシヴィレルスキがエリア内で仕掛け、ウパメカノと接触して倒れるもいったんノーファウル。約1分後にVARが介入し、OFRの結果PK判定に変更となった。

 

グイダ主審のジェスチャーからすると、「ウパメカノがボールに触れた」という判断だったと思われるが、映像で見てみるとボールに触れたのはシヴィレルスキのみで、ウパメカノはシヴィレルスキの踵を蹴る形になっている。接触強度としてはそこまで高くないが、映像を見ればファウルを採らざるを得ないだろう。

 

なお、リアルタイムでの見極めとしては、トリッピングを第一に想定するであろう場面であり、その思考が強い中で、踵の僅かな接触を見極めるのは見かけよりも難度が高い。実際、ボールを触ったかどうかはかなり際どいところで、グイダ主審を責めるのは酷だろう。

 

その後、レヴァンドフスキのPKを1度はメニャンが止めるも、再びVARが介入。キック時にメニャンの両足がゴールラインを離れており、蹴り直しとなった。レヴァンドフスキのように助走のフェイントを繰り返すタイプだと「ありがち」なパターンだ。

 

なお、この場合、メニャンには「注意」が与えられる。競技規則の以下記述のとおりだ。

 

ゴールキーパーが反則を行った結果キックが再び行われた場合、その試合において最初の反則に対しては注意が与えられ、それ以降の反則には警告が与えられる。

 

サッカー競技規則2023/24

第14条 ペナルティーキック 2. 反則と罰則

 

 オランダ vs オーストリア
(Referee: Ivan Kružliak VAR: Marco Fritz)

 

75分、クロスをヴェフホルストがヘディングで繋ぎ、デパイがワントラップの後に流し込んでゴール。いったんはクルジャリアク主審がハンドを採ってゴールを取り消したが、VARレコメンドによるOFR(オン・フィールド・レビュー)の結果、ノーハンドでゴールが認められた。

 

ハンドか否かについては映像を見れば明白にノーハンドだ。ただ肉眼での見極めはそう簡単ではなく、トラップ後のボールがかなり跳ねたこともあり、一見するとデパイの右手にボールが当たったように見えるのは理解できる。(ちなみに、得点者なので「手に少しでも当たったらハンド」になるパターン)

 

議論の余地があるのは、その前のヴェフホルストの競り合いのファウルorノーファウルかもしれない。ヴェフホルストの右腕がオーストリア②の背中に接触しているのは確かで、それによりDFがバランスを崩したのも事実。ただ、明らかなプッシングではなく、制空権を得ていたのはヴェフホルストのほうにも思える。ここはノーマルフットボールコンタクトの範疇として認めたほうがサッカーは面白いと(個人的には)思う。

 

 スロヴァキア vs ルーマニア
(Referee: Daniel Siebert VAR: Bastian Dankert)

 

35分、ハジのドリブルでの仕掛けにスロヴァキア⑯が対応。トリッピングのファウルを採り、いったんは直接フリーキックとなったが、VARチェックの結果、接触がエリア内で起こったことが確認され、OR(オンリー・レビュー)でPKに判定変更となった。

 

副審サイドのエリアの中・外判定は審判団にとって泣き所だ。対角線式審判法を厳格に遂行する審判員は主流派ではなくなってきたが、それでも主審が副審サイドにがっつり寄ることはあまりない。主審・副審双方からエリアの中・外の位置関係が見極めにくい場所であり、今回も見極めは難しかった。

 

ズィーベルト主審にとっては酷だったのは、実際の接触がワンテンポ遅いタイミングで起こっていたことだ。スロヴァキア⑯が足を差し出し、ハジは一歩目では接触を回避したが、次に踏み出した二歩目の時点で接触が起こっている。一歩目時点で接触していればおそらくエリア外だったので、その印象が強く残った可能性はある。審判心理としては「VARがあって助かった」という事象だろう。

 

 チェコ vs トルコ
(Referee: István Kovács VAR: Tomasz Kwiatkowski)

 

20分、チェコのバラクが2枚目の警告を受けて退場に。20分のシーンは相手の足首あたりを踏みつける形になっており、議論の余地なきイエローカードだ。11分の警告は露骨にユニフォームを引っ張ったことによるものだが、敵陣内であることもふまえると注意で収めてもよかったか。やや厳しい判定には思えるが、警告とする判断も許容範囲内。いずれにせよ、1枚警告をもらった状態で20分のプレーは軽率であった。

 

なお、20分のシーンは当初アドバンテージを適用していたが、2枚目の警告で退場となる形であった。本来ならアドバンテージを適用すべきではないが、トルコ側にボールが繋がっており、一人をかわせばゴール前に辿り着きそうなシーンであった。アドバンテージを適用し、トルコがボールを失った時点でロールバックした判断は妥当なところだろう。

 

66分のチェコの得点シーンは、その前のGKとFW(⑲)の接触をどう捉えるか…が難しいところ。GKがキャッチを試みたところで接触しているものの、チェコ⑲はGKの邪魔をしようと体を寄せているわけではなく、ボールに対してプレーしようとしている。もはや死語に近い「キーパーチャージ」が適用されればファウルかもしれないが、現代ではノーファウルとするのが妥当だろう。