EURO2024。デンマーク vs イングランドの一戦を講評する。

 

 TODAY'S
 
デンマーク vs イングランド

 

<Referee Topics>
バイタルエリアに「滞留」
いつもどおりのディアス主審。

 

    

Referee:

    Artur Soares Dias


Assistant referees:

Paulo Soares
Pedro Ribeiro


Video Assistant:

    Tiago Martins
Alejandro Hernández Hernández
Juan Martínez Munuera

 

ここ数年はポルトガルのトップレフェリーとして不動の地位を築き、EUROには2大会連続の派遣となるディアス主審。前回のカタールワールドカップの割当からは漏れており、UEFAの評価とFIFAの評価には若干の差がありそうだ。44歳ということでメジャー大会は最後になる可能性もあるタイミング。個人的にはいわゆる「見逃し」が多く、あまりよい印象がないのだが、ベテランならではの落ち着きを活かしたレフェリングを期待したい今大会だ。

 

最初のファウルは8分とやや遅め。11分にはベリンガムがファウルを「誘う」プレーを見せるが、デンマーク側がボールに触れたことを見極めてノーファウル。ここからしばらくは不満を漏らすベリンガムのガス抜きをしつつ…ということで、持ち前のコミュニケーションスキルが活きる場面となった。

 

14分、サカに対してやや後方からタイトにぶつかったプレーもノーファウル。ここまでの判定をもって、この試合の基準は比較的タフ(フィジカルコンタクトに対して寛容)であることが窺える。基準としてはブレていないので、両チームの選手もタフな基準を受け入れ、大きな不満が現れることもなく試合が進んでいく。31分に同じくサカが倒れたシーンも、今日の基準からすれば当然ノーファウルだ。

 

17分にはドリブル中のフォーデンが明らかなトリッピングを受けるが、ボールをそのままキープしたのでファウルはとらず。アドバンテージシグナルをすべき場面だと思うが、特にアクションはナシ。このあたりの「緩さ」もいつもどおり…という印象だ。

 

21分には五分五分のボールに対してライスとホイビュアがチャレンジ。最終的には激しい接触にはなったが、両者ともにスリップ気味ということもあってかノーファウル。両選手ともにすぐに立ち上がってプレーを再開しており、タフな基準は選手に十分受け入れられている。

 

27分には、サカの前進を阻止したヴェスタゴーアに警告を提示。チャンスにつながるシーンだったので、このあたりは躊躇なくカードを提示。その前にホイビュアとフォーデンの接触でデンマーク側がファウルを主張したものの、そことのバランスを…などという小細工はなく、粛々と事象を処理していく。

 

この警告のシーンでは、カウンター気味の展開でありながら、接触を目と鼻の先で見極めることに成功した。早めに縦方向に移動するディアス流のポジショニングだからこその「近さ」なのだが、バイタルエリアに「滞留」するタイプの位置取りなので、パス回しに巻き込まれることもしばしば。パスコースを塞いだり、自分のほうにボールが寄ってきて慌ててよけたり…というのも「いつものディアス主審」感がある。

 

33分、この試合最初のセットプレーでは、競り合いにおけるホールディングを警戒し、事前に注意を与えたうえで結局デンマーク側のファウルを採用。「お前のファウルだ」と言わんばかりのジェスチャーで、選手に意図を伝えていく。

 

37分には、ファウルを採ったもののデンマークの攻撃が前進しており、ここはアドバンテージを適用すべきだったように思われる。はっきり言えば「ミス」に近いものだが、毅然とした(開き直った)態度で選手の抗議を受け流していくのも、長年の経験で培った術なのかもしれない。

 

タフな基準は選手に受け入れられ、決して良いとは言えないポジショニングも大事には至らず。及第点は付くはずだが、颯爽とピッチを駆ける他の審判員と比べると物足りなさは残る。

 

 TODAY'S
 
試合の講評

 

個のポテンシャルを発揮しきれない
アレキサンダー・アーノルド。

 

 ウォーカーの圧倒的な走力が試合を動かす。

 

序盤は両者ともに安全なパス回しの場面が目立ち、リスク回避の穏やかな立ち上がりに。どちらかと言えばデンマークペースであり、攻撃時はホイビュアがアンカー気味の位置でボールを引き出し、2トップは比較的ワイドに動いてスペースを活用。大柄ながら機動力もあるホイルンドの存在もあり、可能性を感じられるのはデンマークのほうであった。

 

しかし、今大会でも随所で見られる「個としての質的優位性」が試合を動かす。イングランドが右サイドのスペースにボールを運ぶと、クリスティアンセンがバックパスを試みたところでウォーカーがボールを回収。そのまま持ち込み、クロスボールがこぼれたところをケインが押し込んで先制となった。

 

クリスティアンセンとしては余裕をもってボールを処理できると判断していたところに、ウォーカーが突っ込んできて入れ替わってしまった形だ。一瞬の加速という点では世界屈指の切れ味をもつウォーカーの個の力が試合を動かしたと言えよう。

 

 失点シーンで露呈したアレキサンダー・アーノルドの守備面での「緩さ」

 

一方で34分のデンマークの同点ゴールについては、もちろんヒュルマンドのシュートは激賞に値するのだが、イングランドの右ボランチのアレキサンダー・アーノルドの位置が低すぎるのが問題であった。

 

攻撃時は若干引いた位置で組み立てに参加することが多いアーノルドだが、失点シーンのように自陣でボールを奪われた際には、素早くスペースを埋めてリスク管理をする必要がある。アーノルドが「サボって」しまったことで、サカとライスが慌てて絞ったものの間に合わず。

 

本職のボランチではないからこそなのかもしれないが、守備の面ではアーノルドのアンバランスさは泣き所になっている印象だ。失点シーンに関しては自陣で横パスを奪われたケインの軽率さも原因ではあるが、ボランチの守備力の低さが露呈されたという見方もできる。

 

 キレキレのフォーデン。あとはフィニッシュ精度だけ。

 

イングランドの攻撃に目を向けると、停滞感もあった第1節に比べると、フォーデンの動きに如実な変化が見られた。前節は左サイドに常駐していたフォーデンだが、今節はときによっては右サイドまで顔を出すなど、幅広く動いているように見えた。

 

前節は中央に鎮座するベリンガムとプレーエリアが被って窮屈そうな印象があったが、今節はベリンガムの立ち位置が2トップ気味になり、組み立てのところは他の中盤に任せてフィニッシュに専念…という感じもある。ベリンガムの立ち位置の変化の狙いはわからないが、その影響を受けて輝きを増したのはフォーデンであった。

 

ドリブルの切れ味は抜群でコンディション自体は良さそうなので、あとはフィニッシュの精度だけだ。決定機は前半に少なくとも2回あり、後半にはポスと直撃のシュートもあった。崩しの局面での存在感は抜群だが、フォーデンのプレークオリティを考えると、どれか1本でも決めてほしいところ。1ゴール決まれば爆発しそうな気配はある。

 

 不足している中盤のダイナミズム。ギャラガーやメイヌーの待望論は必然。

 

イングランドとしては、守備がある程度計算が立つ一方で、攻撃面は閉塞感が漂い始めた印象だ。要因となっているのはダイナミズムだろう。サカとフォーデンの両翼は個での打開ができるし、ケインとベリンガムが君臨するセンターラインも強さと巧さがある。それにもかかわらず行き詰まり感があるのは、やはり中盤より後ろの押し上げが足りないことが原因だ。

 

悩ましい存在になっているのがアレキサンダー・アーノルド。配球力はあるものの、ゴール前に飛び込んだりフリーランニングで躍動感を与えるタイプではなく、現状では「そつなくこなす」程度に留まっている。

 

相棒のライスは元々の武器である守備に加え、今季のアーセナルで前線への意識が高まり、ミドルシュートやクロスへの飛び込みも見せてきた。しかし、球際の攻防に不安が残るアレキサンダー・アーノルドをアンカー気味に残して攻撃参加するのがリスクなのも確かで、攻め上がりは自嘲気味に思える。ロイ・キーンが「ライスがベビーシッターになっている」と評したのはあながち間違いではない。

 

アレキサンダー・アーノルドに全てを押し付けるのは酷だが、彼のポテンシャルが十分に発揮されていないこと、そして攻撃を活性化させるダイナミズムが足りないことは確かだ。全体がフレッシュな状態でギャラガーやメイヌーがどこまでできるか…という点は試す価値が十分にあるはずで、第3節は彼らの先発起用に期待したい。