J1リーグ第2節。2度のVAR介入、3度のPKと審判団が大忙しとなった一戦の判定を振り返る。

 

 TODAY'S
 
川崎F vs 磐田

 

    

主審:

飯田淳平


副審:

武部陽介、長谷川雅
 

第4の審判員:

大橋侑祐


VAR:

木村博之
堀越雅弘

 

 1度目のPKは、「角度」が悪く見極めに失敗。

 

76分、裏に抜け出したジャーメインがチョン・ソンリョンの交錯して転倒するも、当初判定はノーファウル。ここでVARが介入し、OFR(オン・フィールド・レビュー)の末にPK判定となった。前に出てきたチョン・ソンリョンだったが、ジャーメインに先にボールを触られ、ボールにプレーできず。間に合わないと判断して手を出すのは止めたものの、止まりきれずに体ごと突っ込んでしまった。ファウル判定は誰もが認めるところだろう。

飯田主審としては、ポジショニングがややメインスタンド寄りになっており、ジャーメインの体と被ってボールをめぐる争点を確認しきれなかったと思われる。バックスタンド方向にポジション修正を図っているものの、ズバッと通った縦パスに対するポジショニング調整が間に合わず。距離としては近いものの、角度がうまく確保できず、見極めきれなかった。

なお、チョン・ソンリョンにはイエローカード。状況としては守備側競技者のカバーは間に合うかどうかギリギリ…というところで、GKが飛び出しておりゴールが無人…と言うところも含め、DOGSO(決定機阻止)と捉える判断も十分に受け入れられる。ただ、ペナルティエリア内でのボールに対するプレーなので、懲戒罰は一段階下がって警告となる。
 

 2度目のPKは、ポジショニングをきっちり修正。

 

一方、83分のシーンでは山田がリカルド・グラッサのスライディングを受けて転倒し、ここはVARなしでPK判定を下した。こちらもボールに対するプレーを試みたものの、FW側が先にボールに触れたことで、タックルだけが取り残された形。リカルド・グラッサがボールにプレーできておらず、山田の進路を阻む形で足が残っている以上は、ファウル判定はやむを得ない。

76分のシーンではポジショニングがうまくいかなかった飯田主審だったが、今回はきっちり修正。余裕をもって縦方向のスプリントで距離を詰め、よい角度で視野を確保して見極めに成功した。

 

審判としては試合中の修正力は重要な要素だ。ミスを引きずることなく、できる範囲で修正し、その後のジャッジに活かすことが求められる。このあたりの柔軟性は飯田主審の特長のひとつと言えよう。

 

 ゴール取り消し→PK判定。アドバンテージは適用できないケース。


そして終了間際には、ジャーメインがゴールネットを揺らしたシーンでVARが介入。攻撃側のハンドを採ってゴールを取り消したうえで、その前に起こった瀬川のハンドを採ってPKを与える…という珍しいジャッジ変更となった。

ゴールチェックはゴールから逆算して出来事を辿っていくことになるので、まずVARが確認したのはジャーメインのハンドの有無になる。意図的ではないように見えるが、ゴール直前に得点者(ジャーメイン)の腕に当たっているのは間違いないので、現行の競技規則では、意図に関わらずハンドが採られるケースだ。ここでゴール取り消しは確定となる。

そのうえで「PKかどうか」という点のチェックがおこなわれ、瀬川のハンドの有無が検証される。ジャーメインとの競り合いの中ではあるものの、瀬川の腕は大きく広がっているうえに、左腕がボールに向かって動いているように見えるので、これもハンドであることは多くの人が納得するだろう。したがって、ハンドでPKを与える判定に辿り着く。

なお、磐田側としては「ゴールが決まったのだからアドバンテージを適用してほしい」と思うだろうが、守備側の反則だけでなく、その後に攻撃側の反則が起こっているので、アドバンテージを適用してゴールを認めることはできない。換言すれば、ジャーメインのハンドがなければ、アドバンテージを適用してゴールを認める判断が妥当だったと言える。

 

さきほどのチョン・ソンリョンと同様、瀬川にも警告。ただ、今回は状況としてはSPA(チャンス阻止)であり、ハンドはボールに対するプレーではないので懲戒罰は軽減されず…という形でのイエローカードだ。本来はレッドカード相当のものが軽減されたチョン・ソンリョンのケースとは、結果は同じだが内実は微妙に異なる。

 

 随所で光った飯田主審の「コミュニケーション」


事象自体の見極めという点では、1本目のPKはVARなしで見極めたかったところだが、見極め失敗の課題を改善して2本目のPKをしっかりジャッジした修正力は素晴らしい。また、終了間際のゴール取り消し→PK判定については、「腕に当たったかな…」という印象はあったかもしれないが、実際に肉眼で見極めるのは相当難しく、見逃しとして責めるのは酷に思える。

 

飯田主審としては、VARチェックを待つ間や判定を下した後などに選手と丁寧にコミュニケーションをとり、判定を納得させたうえで試合を進めようとしていた印象だ。この「コミュ力」は飯田主審の最大の特長のひとつであるように思う。また、その姿勢を受け入れ、キャプテンとしてチームメイトを宥めた上原選手も称賛に値するだろう。