J1リーグ第1節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

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Referee Topics

 

小屋主審の冷静な判断が光る。
ハンド事象多発も判定は妥当。

 

 鳥栖 vs 新潟
(主審:笠原寛貴 VAR:吉田哲朗)

 

49分、新潟のコーナーキックの場面でVARが介入。OFR(オン・フィールド・レビュー)の末、山崎のハンドを採ってPKとなった。リプレイ映像を見れば、広がった左腕にボールが当たっているのは明白で、すぐ前で谷口が「被った」とはいえ、腕の位置に正当性はない。

 

ハンドであることは誰もが納得であり、論点になるのはなぜ笠原主審が当初ハンドを採らなかったのか。リプレイ映像を見る限り、視線を遮るものはなく、事象の見逃しが起こる要因はないように思える。VARなしで判定したいレベルのジャッジであったように思う。

 

 町田 vs G大阪
(主審:清水勇人 VAR:先立圭吾)

 

14分、町田の速攻のシーンでナ・サンホのクロスが中谷の右腕に直撃。当初はノーファウルだったが、VARレコメンドによるOFRの末にPKとなった。審判団としては、腕が選手自身の体で隠れてしまい見えにくい「泣き所」となるため、見極めはかなり難しい。

 

中谷の腕はことさらに広がっているわけではないが、胴体から多少離れている。クロスやシュートブロックのシーンでは、体の面積が大きくなることが利益につながるため、腕が「バリア」となって多少広がっている以上はハンドを採らざるを得ないだろう。

 

なお、退場処分となった仙頭への2枚の警告はいずれも妥当で議論の余地はほとんどない。前半、後半ともに足裏を上げた状態で遅れてのチャレンジになっており、相手への安全の配慮を欠いている。

 

 湘南 vs 川崎F
(主審:小屋幸栄 VAR:岡部拓人)

 

56分、バックパスを受けた富居にエリソンがプレッシャーをかけてボールを奪取。富居はエリソンを掴んで阻止しようとしたが、エリソンが踏ん張り、そのまま無人のゴールに流し込んだ。

 

小屋主審はホールディングを確認して笛を口元に持っていったが、シュートチャンスと判断して笛を吹かず。シュートが決まったのを確認しながらアドバンテージシグナルをおこない、ゴールを認めた。露骨なホールディングであり、確実にDOGSOで退場となる場面なので、つい笛を吹きがちなところだが、状況を落ち着いて見極めアドバンテージを適用した。見事な判断だ。

 

なお、もしシュートが外れていた場合は、ロールバックしてPK+一発退場とするのが妥当だろう。フロンターレとしては決定的な得点機会であり、受けるべき利益は「ゴール」のみ。シュートを打っただけでは利益を十分に得たとは言えないので、得点につながらなかった場合にはアドバンテージの適用をやめてファウルを採るべきだ。

 

 柏 vs 京都
(主審:飯田淳平 VAR:先立圭吾)

 

86分、ペナルティエリア内に走り込んだ山田が宮本に倒されてPK。接触は軽微だったが、飯田主審は自信をもってPKジャッジを下している。

 

接触としては、宮本の手が山田の背中を押しているように見える点と、足がもつれ合った点の2つが発生しているように思われる。個人的には手を伸ばしている印象が強く、プッシングを採ったのではないかと感じた。

 

ただ、ここで注目すべきは宮本にカードが提示されていない点。状況としては麻田のカバーがあるのでDOGSOではなくSPA(チャンス阻止)なので、本来は警告が提示されるはず。ノーカードだったということは、ボールに対するプレーで懲戒罰が軽減されたことを意味するが、プッシングは軽減対象ではないので、飯田主審は足の接触をファウルと判断したことになる。

 

個人的には足の接触は軽微であり厳しい判定にも思えるが、山田の体が明らかに前に入っており、宮本はボールにチャレンジできない状況だったことをふまえると、軽微な接触も正当化はできない。ファウルという判断は十分に受け入れられるので、VARとしても介入の余地はない。

 

 東京V vs 横浜FM
(主審:木村博之 VAR:中村太)

 

開始早々の3分。飛び出してきたポープ・ウィリアムが処理を誤り、木村にボールが渡りそうになったところでホールディング。ゴールにGK不在ということでシュートチャンスがあるかを探った木村主審だったが、ヴェルディ側のボールキープが難しくなったところで笛を吹き、イエローカードを提示した。

 

ゴールキーパーがゴールを空けている状況であり、木村がシュートを打てる状態ならDOGSO(決定機阻止)もありうる場面だった。ただ、ファウル発生時点では木村はゴールに背を向けており、シュートをすぐに打てる状態ではなく、イエローカードという判断で妥当だろう。

 

87分、渡邉の折り返しが河村の腕に当たりPK。顔をかすめたボールではあったが、こちらも若干上に上がった腕が「バリア」を広げる形になっており、ハンド判定は妥当だ。なお、これで得たPKをアンデルソン・ロペスが決めたが、アンデルソン・ロペスのフェイントによりマテウスはキック前にゴールラインを離れており、仮にPKを止めた場合は蹴り直しになったであろう。

 

 広島 vs 浦和
(主審:中村太 VAR:木村博之)

 

開幕節であり、新スタジアムでの初試合という状況で大役を担った中村主審。ベテランらしい振る舞いで落ち着いて試合を裁き、53分のファウルもしっかり見極めてPK。浦和のビルドアップ時のボールロストということで、審判としては逆を取られがちな場面だったが、トランジションの局面でしっかり距離を詰めて見極めた。なお、小泉のプレーがファウルであることはほとんど議論の余地がない。

 

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各試合の講評

 

完成度で圧倒した広島。
セレッソの右サイドに期待感。

 

 広島 vs 浦和

 

新スタジアムの初陣となったサンフレッチェが、大型補強で戦力充実のレッズを撃破。昨季までトップ下が多かった満田をボランチで起用し、ストライカータイプを3枚並べる攻撃的な布陣で挑んだ広島は、敵陣からのハイプレスで浦和の出鼻を挫き、中盤より前でのボール奪取を軸にカウンターを発動。ハイプレス+ショートカウンターというスキッベサッカーのアイデンティティを、重心高めの布陣で貫き、見事な勝利となった。

 

一方のレッズは、前所属のFC東京ではウィングを担うことが多かった渡邉を左サイドバックで起用するなど、「ヘグモ色」をさっそく発揮。ただ、グスタフソンを軸とした自陣からのビルドアップは発展途上で、味方との距離感やポジションバランスが微妙で、やや手詰まりに。中盤でボールを失い、慌てて戻ったところでPKを献上…となったのは個人のミスだけでなく、戦術的な機能性が原因だ。

 

継続のサンフレッチェと変革のレッズ。開幕節は完成度の差が如実に表れる結果となった。

 

 C大阪 vs FC東京

 

大型補強で戦力が充実した両チームの対戦は痛み分け。それぞれ新加入の荒木と田中がゴールを挙げるなど、戦力の上積みがもたらす効果が少なからず見られた開幕戦となった。

 

セレッソは日本代表としても名を挙げた毎熊がJリーグの舞台でも躍動。田中駿汰がアンカーに構えることで、香川や奥野ら2列目の選手も前進しやすくなり、サイドバックも積極的に絡んだ多層的なアタックが可能になっている。引き分けに終わったものの、チャンスの数では圧倒的に上回っており、あとはシュートが決まるかどうか…という印象だ。

 

開幕からキレキレのドリブルを見せたルーカス・フェルナンデスはインサイドでのプレーやタメをつくるキープ力も持ち合わせた器用なタイプ。攻撃面のアイデアが豊富な毎熊との縦関係は早くもチームの武器になっており、右のインサイドハーフ(今節は奥野)との連携が向上すれば、J屈指のサイドアタックが出来上がる期待感がある。

 

一方のFC東京は、松木を軸として中盤の強度を高めるスタイルは変わらず。もともとポゼッション志向だったクラモフスキー監督はFC東京に根付く「速攻」文化を理解したようで、早めに縦パスを入れて個の力に優れた3トップに預ける攻撃も見られた。

 

戦術的には発展途上で、選手同士の距離感やポジションバランスは課題が多いが、結局は前線の助っ人外国人の圧倒的な個人能力で何とかしてしまう…というのも、FC東京にとってはもはや戦術のひとつなのかもしれない。今季もアタッカー陣の出来がチーム成績に直結しそうな印象だ。