プレミアリーグ第22節。リヴァプールとチェルシーの一戦を講評する。

 

 TODAY'S
 
リヴァプール vs チェルシー

 

<Referee Topics>
落ち着きと余裕のある振る舞い。
異議には厳しい。

 

    

Referee:

ポール・ティアニー


Assistant referees:

ジェームス・メインウォーニング, スコット・レジャー

 

4th Official:

アンディ・マドレー


Video Assistant:

ジョン・ブルックス
シアン・マッシー=エリス

 

6分、ギャラガーがエリア内に侵入しファン・ダイクと接触するもノーファウル。接触はあったものの、ファン・ダイクが露骨に足を出したわけではなく、ギャラガーが勢い余って突っ込んだ印象もある。接触自体の強さをふまえてもノーファウルという判定で問題ないだろう。

 

11分にはカイセドに警告。ファウル自体はそこまで悪質ではなかったが、大きなジェスチャーで異議を唱えたことが警告対象になった。ボールに粘り強くチャレンジしただけに悔しさはあっただろうが、ときとしてカウンター阻止などタクティカルファウルが求められる中盤だからこそ、異議でカードをもらったのはもったいない。

 

エンソ・フェルナンデスへの警告については、自分のほうにボールが向かってくる難しい局面だったが、サイドステップをうまく使って回避し、エンソ・フェルナンデスがボールに触れなかったことを冷静に見極めた。やや危険なプレーだったので、アドバンテージを適用せず即座にカードを提示したのも適切な判断だ。

 

35分にはエリア内でチルウェルが倒れるもシミュレーションの判定。リプレイ映像で見ても接触はなく、チルウェル本人も受け入れていたことから妥当な判定だろう。よいポジション・よい角度でしっかりと見極めた。

 

39分のブラッドリーのゴールシーンでは、ジョタとチルウェルが交錯したシーンがVARチェックの対象に。ただ、リプレイ映像を見る限り、最初に手をかけたのはチルウェルで、それに対してジョタが「応戦」したように見えるので、「チルウェルのファウル、アドバンテージ適用」というティアニー主審の判断は妥当で、VARが介入しなかったのも頷ける。

 

この試合のティアニー主審は異議にめっぽう厳しく、41分には判定を異議を唱えたディサシにも即座に警告を提示。判定に不満を示していたポチェッティーノ監督も直接コミュニケーションをとって諫めるなど、判定への不満を抑えるという点では盤石のマネジメントを見せていた。

 

45分にはエリア内でジョタが倒れてPK。ジョタがボールに触れたのち、バディアシルがジョタの足を踏んでおりファウルであることは明白だ。サイドチェンジのパスが入って主審としての立ち位置は難しさもあったが、スムーズなステップワークで視野を確保し、事象を正確に見極めたのは見事だった。

 

73分、縦パスに対してエンクンクとファン・ダイクが接触。ファン・ダイクが後ろからエンクンクの右足を蹴るような形になっており、ファウルを採ってもおかしくないシーンであったが、VARも介入せず。「不用意な」接触には思えたが、そこまで強いものではないという判断か。個人的にはファウルでPKを採るべきだと感じたが、ティアニー主審が「接触はあったがファウルに値しない」と判断したのであれば、それは明白な間違いとは言えず、VAR介入は難しい。

 

73分のシーンはPKを採るべきだと感じたが、それ以外は特に気になる点はなく、ビッグゲームを落ち着いて裁いた。ここ数シーズンは重要な試合の担当も多いティアニー主審、貫禄が出てきた印象で、選手と笑顔でコミュニケーションをとるなど、余裕が感じられる。40代半ばで全盛期を迎えている。

 

 TODAY'S
 
試合の講評

 

あああ

 

 チェルシーのゼロトップには明確な意図が。

 

スタメンとしては、リヴァプールはエースのサラーがアフリカネーションズカップに出場し、そこでの負傷でそのまま離脱。とはいえ前線はタレントが揃っており、今節はジョタ、ルイス・ディアス、ダルウィン・ヌニェスのセットを起用。遠藤航がアジアカップで離脱している中盤は、マクアリスターがアンカー気味に構える形を継続となった。

 

また、FA杯を中心に溌剌としたプレーを見せるブラッドリーが右サイドバックで先発継続。アレキサンダー・アーノルドとは異なり「純粋な右サイドバック」というプレースタイルだが、中央に流れることも多いジョタとの縦関係は良好で、効果的な攻め上がりを見せている。

 

一方のチェルシーはジャクソンが不在で、アタッカーを3枚並べる「ゼロトップ」気味の布陣となった。リヴァプールがハイラインで守備をおこなうことが予想される中で、基準点型のブロヤではなく、流動性と突破力に優れたマドゥエケ、スターリング、パーマーのトリオをチョイスしたのは、一定の妥当性がある。

 

中盤はカイセド、ギャラガー、エンソ・フェルナンデスがそろい踏みとなり、攻守に強度とクオリティを保てるユニットに。中盤より後ろの強度を保ちつつ、単独でも仕掛けられるマドゥエケとスターリングを活かす…という狙いが十分に感じられるスタメンとなった。

 

 押し広げつつ縦を狙う。共通意識・連動性を感じるリヴァプールの戦術。

 

序盤は大方の予想通り、リヴァプールがボールを保持する展開に。ジョタがインサイドに入り、空いたスペースにショボスライやブラッドリーが出ていく形でチェルシーの守備陣を押し広げようとしていた。

 

ボール回しの際には、インサイドハーフのショボスライとジョーンズが幅広く動いて潤滑油となり、マクアリスターは少ないタッチでボールを捌くことで攻撃のテンポを作っていた。ダルウィン・ヌニェスへ直線的なスルーパスが通るシーンも多く、チームとしてゴールをめざす共通意識が感じられた。

 

守備面では、ボールを奪われた際には前線からのプレッシングに加え、コナテとファン・ダイクが押し上げることでマクアリスターの両脇のスペースをカバー。背後にスペースは空いていたが、前向きの守備でそれより前にカウンターの芽を摘んでいた。プレスバックを遂行する中盤の運動量とプレー強度ありきの戦術ではあったが、ホームでの前半ということを考えるとフルスロットルで攻勢をかける戦術選択は妥当だろう。

 

 サラーとアーノルド不在で戦術を的確に調整。柔軟性が備わったリヴァプールの強さ。

 

リヴァプール側で特徴的だったのはビルドアップ時の立ち位置だ。基本布陣は4バックだが、右肩上がりにブラッドリーを前に押し出し、逆サイドのゴメスはやや低めの位置で3バック気味に構えるな並びになっていた。

 

サラーが右ウィングにいる場合には彼が右のスペースに「鎮座」する形になるが、ジョタは中央に入っていくタイプであり、右のスペースは走力に長けたブラッドリーに「任せた」形になっていた。

 

アレキサンダー・アーノルドとサラーという近年のリヴァプールの戦術の肝となっていた二人が不在となったが、それに応じて戦術バランスを柔軟に変更できており、機能性は非常に高い。アグレッシブなスタイルを基本としつつ、戦術的な柔軟性も備わったリヴァプールはさらに強さを増した印象だ。

 

 チェルシーのプレスをリヴァプールが回避。個で上回ったリヴァプールが一枚上手。

 

チェルシーとしては、ボールを奪ってショートカウンターという狙いはあったものの、そもそもパスの出し手のところでリヴァプールのプレッシングに晒され、前進すらままならない状況に。ギャラガーが前目のポジションでプレッシングを試みたものの、ギャップでボールを引き出すジョタとルイス・ディアス、ワイドに動くショボスライとジョーンズ、的確にボールを散らすマクアリスターのほうが一枚上手だった印象だ。

 

チェルシーとしては、前掛かりにプレスをかけにいったところでシンプルなロングボールで回避されたのも消耗に繋がったかもしれない。サイドに追い込んだもののサイドチェンジを許したり、追い込んだところで裏抜けするダルウィン・ヌニェスへの縦パスが通ってしまったり…など、プレスを回避される場面が目立った。

 

ギャラガーがプレッシングの口火を切ろうとする場面は多かったが、コースを限定する方向や連動性という点で甘さがあり、リヴァプールのビルドアップスキルが上回っていた印象だ。連動した形でボールを奪えないので、個の局面で違いを出せるマドゥエケやスターリングも、前向きでボールを持つ場面が少なく、ゴールに迫る場面は作れなかった。

 

 ブロヤの起用も一手だったか。攻撃の軸のパーマーはほとんどプレー機会がなく…。

 

結果論ではあるが、リヴァプールのプレッシングを前にビルドアップでの逃げ道がない状況を打開するためには、カイセドやエンソを最終ラインの位置まで下げてビルドアップで数的優位を作るのも一手だったか。

 

あるいは、基準点型のブロヤを入れてロングボールを逃げ道にしてもよかったかもしれない。ただ、ブロヤは大柄でありながら裏抜けもできるので、一定の機動力は確保できたはず。

 

今季のチェルシーにとって最大のストロングはパーマーのチャンスメイクであり、彼が前を向いてプレーする機会の多さはチャンスに比例している。裏抜けが得意とは言いがたいパーマーの特徴を考えると、ポストプレーができるタイプと組ませたほうが活きたはず。結果論ではあるが、ゼロトップはあまり機能しなかったので、早めに見切りを付けてもよかったのかもしれない。

 

 チェルシーの交代策は妥当だが、個人の出来が伴わないと…。

 

前半はほとんどよいところがなかったチェルシーはハーフタイムに3枚替え。裏抜けをしつつもある程度キープができるエンクンクをトップに入れ、ゴメスに封殺されたマドゥエケをムドリクにスイッチ。プレー精度を欠いたチルウェルをギュストに代えて活性化を図った。交代策としては妥当なところで、ポチェッティーノ監督としては「やるべきことをやった」形だ。

 

ただ、前半も課題であった「プレスの開始位置」「コース限定の方向」で連動性が乏しく、プレッシングでは相変わらず回避される場面が目立った。攻撃面では、パーマーが位置を下げて組み立てに寄与し、ギュストが縦への推進力を発揮したことで多少好転したが、エンクンクはパスの出し手との呼吸が合わず、効果的なボールがなかなか入らなかった。

 

ポチェッティーノ監督としてどうしようもない点は、個の出来の差だ。リヴァプールのジョタが個での突破で幾度も違いを作り出した一方で、スターリングとムドリクは仕掛けの場面が限定的で、ファウルを求めて簡単に倒れるシーンも散見された。個人としてのプレー強度は監督にはどうすることもできないので、選手の奮起を促すほかない。

 

後半途中投入となったチュクエメカは持ち前の推進力を見せていたし、エンクンクはボールスキルの高さを活かしてゴールをゲットするなど、才能の片鱗を見せる場面はあった。ただ、シティやリヴァプールと比べるとチームとしてのプレービジョンや連動性という点で脆さがあるのは確かだろう。

 

 リヴァプールはブラッドリーとジョタが出色の出来。

 

リヴァプールとしては球際での強さを発揮しつつ、スペースへの飛び出しと攻撃参加で1ゴール1アシストを記録したブラッドリーが出色の出来。彼と他縦関係となったジョタも、右に留まらずバイタルエリアを幅広く動くことで、ボールを引き出しドリブルで前進。献身的かつクレバーなプレッシング含め、MVP級の活躍を見せた。ブラッドリーが外のレーンをカバーし、ジョタがインサイドで流動的に動く…という形はポジションバランスとしても抜群で、Win-Winの関係を築くことができていた。

 

攻守で効いていた彼ら二人が交代したのち、若干チェルシーペースになったのは偶然ではない。特にビルドアップでも潤滑油になっていたジョタがいなくなったことで、パスの出しどころが少なくなり、ビルドアップでの手詰まり感が出た印象だ。

 

 チェルシーは守備の連携構築が課題。メンバーを固定できていない影響が出ている。

 

チェルシー側が選手交代で攻勢をかけてきたこともあり、守勢に回る時間帯もあったが、79分の4点目が両チームにとって大きかった。シュートを決めることを除けば満点に近い出来だったダルウィン・ヌニェスのお膳立てでルイス・ディアスが飛び込んだゴールはチェルシーの勢いを削ぐのに充分であった。

 

チェルシーとしては、後半から左サイドにポジションを移したバディアシルがラインを上げ損ねてしまい、最後はルイス・ディアスの飛び込みに遅れをとる…という「ミス」が重なって痛恨の失点。65分のショボスライのゴールも中央のマークがずれており、メンバーもポジションも固定できていない最終ラインは連携構築に苦慮している印象だ。