イングランドプレミアリーグ第23節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

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レベッカ・ウェルチの2試合目。
堂々たるパフォーマンス。

 

 エヴァートン vs トッテナム
(Referee: マイケル・オリヴァー VAR: スチュアート・アットウェル)

 

30分、エヴァートンがコーナーキックから同点弾をゲット。この場面ではパンチングを試みたヴィカーリオがハリソンと接触し、バランスを若干崩してボールに触れず…という事象が発生した。

 

接触自体は確かにあり、ヴィカーリオの動きの影響があったのは間違いないが、体を多少寄せた程度であり、ホールディングなどがあったわけでもない。ノーファウルとしたジャッジは妥当なところだろう。オリヴァー主審が「接触はあったがファウルではない」と判断したなら、VARの出る幕はない。

 

終了間際のエヴァートンの同点弾については、オフサイドとファウルの可能性があったが、どちらもナシでよいだろう。

 

オフサイドに関しては、プレースキックをロメロが触ってブランスウェイトが押し込んだ形なので、オフサイドジャッジのタイミングはプレースキックの蹴られた瞬間になる。その時点でオンサイドポジションであれば問題ない。

 

ファウルに関してはヴィカーリオと「衝突」したものの、ボールに対して正当に飛び込んだあと勢い余って…というやむを得ない衝突だ。例えば膝が顔に入ったり踏み付けがあったりするならファウルもありうるが、ブランスウェイトの飛び込みは正当性がないとは言えず、ノーファウルで問題ないだろう。

 

 ニューカッスル vs ルートン・タウン
(Referee: トム・ブラモール A2: マーク・スコールズ VAR: マイケル・サリスバリー)

 

54分、オグベネがドリブルでバーンを振り切って進むも、バーンの手が肩にかかって転倒。ブラモール主審はすぐには笛を吹かなかったが、A2のスコールズ副審のフラッグアップの後、ファウルを採った。さらに、当初はエリア外からのフリーキックという判定だったが、VARのOR(オンリー・レビュー)によりPKに判定変更となった。

 

ファウルか否かについては、後れを取ったバーンがオグベネの肩に手をかけており、ホールディングでファウルを採るのが妥当だろう。そこまで強い力は加わっていないようにも感じるが、スピードに乗った状態だと僅かな力でもバランスを崩しうるので、オグベネの倒れ方は明らかに大袈裟とは言えない。

 

ファウルの位置については、エリア外でホールディングが始まり(手が肩にかかり)、そのままエリア内にオグベネが侵入し、エリア内で手を離している…という状況なので、エリア内まで反則が及んでおり、PKとするのが適切だ。ファウルか否かの主観的な判断は既に下されており、誤っているのはエリアの中・外の判断(=ファクト)だけなので、OFR(オン・フィールド・レビュー)はなくVARのORによる判定変更となった。

 

ブラモール主審としては悪くない位置・角度で見ていたように思えるが、手前の選手と被ってしまい事象を明らかに確認できなかったように見える。直線的に走るだけでなく、膨らんだりサイドにずれたりしながら視野を確保する動きが必要だったように思われる。

 

エリアの中・外については、スコールズ副審の位置だと奥行きの空間認知は難しく、この場面ではブラモール主審が判断すべきであった。ただ、ブラモール主審はファウルをおそらく確認できていないので位置がわかるわけもなく、スコールズ副審の判断を頼るほかない。判断を迫られたスコールズ副審が位置を「見誤った」のは致し方ない部分があり、責任があるとすればファウルを確認できなかったブラモール主審にある。

 

 チェルシー vs ウォルヴァーハンプトン
(Referee: ティム・ロビンソン VAR: サイモン・フーパー)

 

80分、ドリブルでエリア内に侵入したクーニャをギュストが倒してしまいPK。ドリブルに対して後れを取り、やや無理やり試みたスライディングだったが、ボールに届かず。クーニャの足のみを巻き込んでおり、ファウルであることは火を見るよりも明らかだ。

 

ロビンソン主審としては、終盤だったがしっかりと回り込み、角度をつくってジャッジを下そうとしていた。事象発生から数秒の間が空いての笛となったが、オフサイドの可能性もなかっただけに、速やかに判定を下したほうが説得力は高まるので、ややもったいない振る舞いだったように感じる。

 

今季から「Select Group 1」に入り、本格的にプレミアリーグ主審の仲間入りを果たしたロビンソン主審。同じく今季昇格組のボンド主審が2試合の担当に留まる一方で、既に15試合を担当…とPGMOLの期待は感じるが、今節のように「悪くはないが詰めが甘い」場面が目立ち、もう一皮剥けてほしい…というのが率直な印象だ。

 

なお、91分にジャクソンがエリア内で倒れたシーンは、多少の接触はあったのかもしれないが、ノーマルフットボールコンタクトの範疇に思える。ファウルを採ったならDOGSO…という重要局面ではあったが、ノーファウルの判定を個人的には支持したい。

 

 ボーンマス vs ノッティンガム・フォレスト
(Referee: レベッカ・ウェルチ VAR: ピーター・バンクス)

 

プレミア初の女性主審のレベッカ・ウェルチが2試合目の担当。84分、ハドソン・オドイに後ろから接触して倒したビリングのレッドカードを提示した。初見の印象では厳しいかな…と感じたが、リプレイ映像を見るとアキレス腱のあたりを足裏で踏む形になっており、大怪我の危険があるラフプレー。間近で見ていたウェルチ主審の判定は妥当で、的確な見極めであった。

 

そのほか、アドバンテージの適用や選手・監督の抗議への対応もスムーズで、走力に関しても瞬間的なスピードでは若干の物足りなさがあるものの、終盤までプレーに付いていけており、ポジショニングも含めると確実に及第点以上は付く。他の主審と比べても引けを取らないパフォーマンスであり、もはや「女性副審」として扱う必要はないだろう。

 

 アーセナル vs リヴァプール
(Referee: アンソニー・テイラー VAR: デーヴィッド・クーテ)

 

コナテが2枚の警告をもらって退場となった。以下でいちおう検証するが、どちらのイエローカードも妥当性があり、テイラー主審の判定は十分に受け入れられる。

 

最初のイエローカードは54分。ロングボールに対して体を預けたハヴァーツを引き倒してしまい警告。ボールキープに成功していればチャンスにつながったシーンなので、SPA(チャンス阻止)での警告は妥当なところだ。

 

88分の2枚目の警告についても、ハヴァーツにドリブルでかわされてしまい、一気にカウンター…という場面で、腕を広げて阻止。敵陣だったとはいえ、リヴァプールは前掛かりになっており、アーセナルが一気にカウンターで前進するスペースは広がっていた。こちらもSPAでの警告はやむを得ない。

 

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各試合の講評

 

エメリらしいチームに
仕上がったアストンヴィラ。

 

 シェフィールド・ユナイテッド vs アストンヴィラ

 

アストンヴィラが前半の4得点、後半開始早々の追加点で5-0快勝。エメリ監督のもとで着実に進化を遂げているチームは、堂々の4位で、リヴァプール・マンチェスターシティ・アーセナルというメガクラブに次ぐ位置につけている。
 
チームを牽引するのは多彩なタレントが揃うアタッカー陣。快足のベイリー、無尽蔵のスタミナと堅実なプレーを見せるマッギン、敏捷性を活かした切れ味鋭いドリブルを見せるディアビ、連動性と推進力に長けたラムジーと異なる特徴を持ったアタッカーが揃う。試合展開に応じた用兵術に長けたエメリ監督としては、異なるタイプの選手が揃っているのは好都合で、スタメンだけでなく交代策もしっかり機能している。
 
緻密な戦術を組み立てるエメリ監督らしさが見えるのは、カウンターとセットプレーだ。サイドアタッカーを軸にしながら、サイドバックも猛スピードで駆け上がるカウンターはチームの最大の武器。連動したプレスでボールを奪い、チーム全員が縦への意識を強く持って前進…というのは、戦術の落とし込みの賜物だ。
 
セットプレーに関しては、ドゥグラス・ルイスという優秀なプレースキッカーを擁し、マッギンやティーレマンスのキックも高精度…という中で、トリックプレーに近いものも多く「仕込んで」おり、パスの受け手の動きも緻密に計算されていることが窺える。
 
懸念があるとすればセンターラインの負傷くらいか。ワトキンス、ドゥグラス・ルイス、エミリアーノ・マルティネスという中央部を支える3名は実質的に代役不在。攻撃と守備のクオリティを大きく左右する中心人物であるだけに、彼らの誰かが離脱することで屋台骨が崩れる可能性は否定できない。