イングランドプレミアリーグ第18節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

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レヴェッカ・ウェルチ、デビュー。
他試合はVAR祭り。

 

 フルアム vs バーンリー
(Referee: レヴェッカ・ウェルチ VAR: ジャレット・ジレット)

 

40歳のレヴェッカ・ウェルチ(Rebecca Welch)がプレミアリーグ史上初となる女性主審として笛を吹いた歴史的な一戦となった。2023のFIFA女子ワールドカップなど女子サッカーでの実績は十分で、FAカップでは2022年に主審を経験済み。着実にキャリアを積み重ねてきた。

 

試合前にはアルテタ監督やポチェッティーノ監督が歓迎のコメントを発し、かなり好意的に受け止められている。試合後にバーンリーのコンパニ監督が称賛の言葉を送るなど、審判にとって褒め言葉である「特に問題なく」試合を終えたと言える。お隣フランスのフラパール氏が欧州コンペティションや男子W杯を担当したのに続き、ここから実績を積み上げていかれることを期待したい。

 

 

 アストンヴィラ vs シェフィールド・U
(Referee: アンソニー・テイラー VAR: ジョン・ブルックス)

 

59分、ヴィラのゴールシーンにVARが介入。得点の前のコーナーキックの場面で、ラムジーがシェフィールドGKのフォデリンガムの手を掴んでおり、OFR(オン・フィールド・レビュー)の末にゴール取り消しとなった。

 

ゴールから遡ると、「ゴール←ヴィラがボール奪取←シェフィールドがボール回収←★ここでファウルが疑われる事象発生←ヴィラのコーナーキック」という順に事象が起こっている。VARがチェックできるAPP(アタッキング・ポゼッション・フェーズ)は、私の理解だとヴィラのボール奪取以降になり、該当事象はVARチェックの範囲外にも思えるが、このあたりはAPPの考え方が多少異なるのかもしれない(イングランドと日本で異なるのかもしれないし、私の認識が誤りなのかもしれない)。

 

ただ、映像を確認すれば、手を掴んで動きを妨げているのは明らかであり、ゴール取り消しという判断は妥当である。また、ゴール前の混戦の中で見極めるのは事実上困難で、テイラー主審の見逃しを責めるも酷だろう。やや疑問が残るのは「VARが介入できる事象だったのか」という点だが、厳密な運用原則はさておき、映像を見れば明らかにファウルなので、シェフィールド側が泣き寝入りせずに済んだのはよかったようには思う。

 

 

 トッテナム vs エヴァートン
(Referee: スチュアート・アットウェル VAR: マイケル・オリヴァー)

 

51分、アンドレ・ゴメスがエメルソンからボールを奪うと、最後はカルヴァート・ルーウィンが決めて1点差…となるも、VARが介入。OFRの末、アンドレ・ゴメスのファウルを採ってゴール取り消しとなった。

 

リプレイ映像で見れば、アンドレ・ゴメスはボールに触れておらず、ブロックを試みたエメルソンの足のみに接触しているので、ファウルであることは明らかだ。アットウェル主審としては、スパーズのビルドアップに対してエヴァートンがハイプレス気味に食いついた場面であり、ポジション修正を「サボって」しまい、遠い位置からの見極めとなってしまった。

 

A1のリチャード・ウェスト副審は比較的近い位置で見えやすい角度にも思えたが、オフサイドラインの監視に重きを置いており間接視野での確認になったか。いずれにせよ、VARに頼らず審判団として判定したいシーンであった。

 

 ノッティンガム・フォレスト vs AFCボーンマス
(Referee: ロバート・ジョーンズ VAR: マイケル・サリスバリー)

 

23分、ボリーが2枚目の警告を受けて退場処分に。1枚目の警告はソランケの突破をイエロー覚悟で止めたものであり、自他ともに認める文句なしのイエローカード。2枚目に関しては、ボリー本人としては「ボールにチャレンジした」という感覚だろうが、ボールには触れているものの、そのままの勢いで相手の足首あたりに足裏がヒットしており、最低でもイエローには値するプレーであった。ボールに触れたからと言って相手を傷つける可能性があるプレーは正当化されない。ジョーンズ主審の判定は妥当だ。

 

つづいて36分、クロスがスミスの左腕に当たったシーンがVARチェックの対象に。腕に当たっているのは間違いないので、VARが介入しなかったということは、ジョーンズ主審が「腕には当たっていたが、正当な位置にあった」と判断したのだろう。

 

個人的には左腕が胴体からそれなりに離れており、クロスブロックで明らかに利益を享受しているように思えるので、ハンドでPKとすべきだったと考える。ただ、「腕に当たっていたがハンドではない」という判断は明らかな誤りとは言えず、VARの出る幕はない。

 

 ウォルヴァーハンプトン vs チェルシー
(Referee: デーヴィッド・クーテ VAR: ジョン・ブルックス)

 

47分、ジョアン・ゴメスのシュートがウゴチュクウの手に当たるも、ノーハンド。こちらもフォレストvsボーンマスの事例とほぼ同様で、「腕に当たっていたがハンドではない」というのがオリジナルジャッジだったとすれば、それを明らかな誤りとは言えず、VARが介入するのは難しい。個人的には、ウゴチュクウの右手は胴体からそれなりに離れており、シュートコースを塞ぐ面積を広げる形になっているので、ハンドを採るのが妥当だと思うが。

 

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各試合の講評

 

ガブリエウとコナテの奮闘。
サイドバックの脆さをカバー。

 

 リヴァプール vs アーセナル

 

実力拮抗の首位攻防戦は痛み分け。アーセナルがセットプレー、リヴァプールがカウンターとそれぞれの強みを活かして1点をもぎ取ったが、それ以外の場面では守備陣が踏ん張り、決定的なシュートは数えるほどだった。
 
試合前から注目されたのは、両チームのサイドの攻防だ。特に、両軍エースのサラーとマルティネッリに対し、守備面が盤石とは言いがたいジンチェンコとアレキサンダー・アーノルドが対応することになる状況はチャンスの起点になる可能性が高いと考えられており、実際そうなった。
 
共通するのは、これまでサイドバックの脆さをカバーしていたインサイドハーフが今季不在…という点だ。リヴァプールのヘンダーソン、アーセナルのジャカは、豊富な運動量で上下動を繰り返し、特に守備面でサイドバックの守備を助けていたが、ともに退団。いずれも新加入のショボスライとハヴァーツは攻撃的なタイプで、1対1に脆いサイドバックのサポートは新たな仕組みづくりが必要になっている。
 
結果的には、アーセナル側はジンチェンコがサラーにぶち抜かれてゴールを献上し不安が的中。しかし、それ以降は左センターバックのガブリエウのスライドとカバーが早くなり、中央を多少空けてでも対サラーに出ていったことで、ウィークポイントに蓋をすることに成功した印象だ。
 
一方のリヴァプールのアキレス腱であるアレキサンダー・アーノルドについては、こちらも隣のセンターバックのコナテが素晴らしいカバーを見せた。圧巻の1対1対応でマルティネッリの突破を阻止した51分のプレーはその象徴で、もともと持っているスピードに加え、ここ数年で状況判断が成長した(無闇にチャレンジしない)ことを如実に示した。
 
サイドバックの守備サポートという点では、①センターバックがカバー ②アンカーがカバー ③インサイドハーフがカバー の3つが現実的な選択肢であり、今節では両者ともに①を選択した形だ。機動力に優れたセンターバックがおり、アンカー(遠藤とライス)はどっしり構えるよりは動き回るタイプ…ということをふまえると、妥当な選択だろう。
 
最後に遠藤航について。このところはマクアリスターの負傷離脱もあって先発出場が続いている。アンカーながら前に出てウーデゴールからボールを奪うなど、定点型のファビーニョよりも流動的なアンカーとして特長を徐々に発揮しつつある印象だ。攻撃面でも、プレミアのプレス強度・スピードに順応しつつあり、プレスを受けながらも縦パスやサイドへの展開ができるようになってきている。
 
ポイントになるのはマクアリスター復帰後だろう。ショボスライやフラーフェンベルク、ジョーンズはインサイドハーフタイプだが、マクアリスターは本職のアンカーではないとはいえ、ポジションバランスがうまく流動的に立ち位置を変えることができる。遠藤とマクアリスターがアンカーの位置を分け合いつつ、もうひとりのインサイドハーフとともに前進してプレーできれば、機能性の高い中盤が生まれそうな予感がする。