イングランドプレミアリーグ第3節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

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Referee topics

 

VARに頼らず、自力で正解を導く。
的確な判定が目立った第3節。

 

 ニューカッスル vs リヴァプール
(Referee: ジョン・ブルックス VAR: スチュアート・アットウェル)

 

28分、裏に抜け出しかけたイサクを倒したファン・ダイクがDOGSOで一発退場となった。前半の早い時間帯だったこともあり、試合に大きな影響を与えるジャッジとなった。

 

まずファウルかどうか…という点では、ファン・ダイクは結果的にボールに触れてはいるものの、ボールに触れる前にイサクに接触している。ボールに対してはイサクのほうが優位な位置におり、そこに無理やり足を出した…ということで、正当なチャージとは認められない。もちろん、ボールに触れたことを重視してノーファウルにする判断もありうるが、個人的な見解としてはファウル判定は妥当だと考える。

 

そのうえでファウルが起こったときの状況を見て見ると、ゴールとの距離、プレーの方向は問題なく、守備側のカバーも間に合っていない。ボールをコントロールできる可能性については、ファン・ダイクのチャージがあったのでボールタッチが乱れているだけで、ファウルがなければすぐにシュートに持っていけるレベルであり、DOGSOの要件は満たすと考えるべきだろう。

 

ファウル自体が際どかったのでリヴァプール側としては厳しい判定にはなるが、「ファウルを採るならDOGSO」となる状況であった。ブルックス主審の判定は一定の妥当性があり、VARとしても明白な間違いはないので介入はなしえない。

 

 アーセナル vs フラム
(Referee: ポール・ティアニー VAR: ダレン・イングランド)

 

67分、エリア内に侵入したファビオ・ヴィエイラに対して、テテがスライディング。これがファウルとなり、アーセナルにPKが与えられた。ファビオ・ヴィエイラの動き出しに対して後手を踏み、慌てて対応したがスライディングはボールに届かず。タックルを見越したファビオ・ヴィエイラに完全に見切られ、誘いにまんまと乗ってしまった形だ。ファウルであることは火を見るよりも明らかである。

 

なお、73分のアーセナルのゴールシーンでは、その前のプレーでバッシーが倒れており、バッシーがいない所を突かれての失点となった。リプレイ映像で見ると、バッシーはエンケティアのホールディングを受けておりファウルを採ってもよい場面ではあったが、ノーファウル判定が誤りと言えるレベルではない。また、バッシーが倒れていた位置はピッチの端であり、緊急処置が必要な頭の負傷などでもなかったので、アーセナルの攻撃を続けさせたティアニー主審の判断は十分に受け入れられる。

 

そして、83分にはバッシーが2枚目の警告を受けて退場に。エンケティアの突破を阻止した2枚目はともかく、遅延行為による1枚目がもったいなかった。両行為がイエローカードに値することはほとんどの議論の余地がない。

 

 マンチェスター・Uvsノッティンガム・フォレスト
(Referee: スチュアート・アットウェル VAR: ロバート・ジョーンズ)

 

67分、ウォーロルがブルーノ・フェルナンデスを倒して一発退場に。裏を取られそうになり、もつれ合うようにして倒れたが、ウォーロルのほうが位置関係で後れをとっており、ホールディングでファウルを採るのは自然な判定だろう。

 

あとは状況をどう捉えるか。DOGSO(決定機阻止)の要件に照らすと、位置とプレーの方向は要件を満たすので、論点になりうるのは「ボールをコントロールできる可能性」および「守備側競技者の位置と数」だ。前者はボールがやや弾んでいる点をどう捉えるか、後者は奥で並走しているDFをどう捉えるか。個人的には、どちらも要件を満たすかどうかは微妙なところであり、微妙な部分が残るとすればDOGSOではなくSPA(チャンス阻止)と判断すべきだったと考えるので、個人としての見解はイエローカードだ。

 

ただ、DOGSO判定が「明らかな間違い」とまでは言えないので、アットウェル主審の判定にVARが介入することは難しい。もっと言えば、もしアットウェル主審がイエローカードを出したとしても、レッドカードへの変更を促す介入はなかっただろう。

 

75分には、ドリブルで仕掛けたラッシュフォードをダニーロが倒してPK。ラッシュフォード側が「誘った」印象はあるものの、ドリブルに対して後れをとり、進路に足を突き出してしまった時点でダニーロの負け。守備対応としては淡泊かつ軽率であり、ファウルでPKとしたアットウェル主審の判断は妥当だと考える。

 

 シェフィールド・U vs マンチェスター・C
(Referee: ジャレット・ジレット VAR: サイモン・フーパー)

 

35分、フリアン・アルヴァレスのクロスがイーガンの左腕に当たりPK。クロスブロックの場面であり、バランスをとるための腕とはいえ、胴体から離れてバリアを広げる形になっているので、ボールが当たればハンドになってしまうだろう。当たった瞬間に本人も悔しさを見せていたので、本人としても「やってしまった」という感じだろう。

 

ジレット主審としては角度的に接触自体の見極めは難しかったかもしれないが、ボールの跳ね返り具合や選手のようすでハンドである旨は明らかであり、自信を持って判定を下したことだろう。

 

85分のボーグルのゴールシーンでは、オフサイドポジションにいたマクバーニーをどう捉えるかが論点に。最終的にエデルソンと接触してはいるものの、その接触のころには既にシュートがゴールに吸い込まれており、マクバーニーが「相手競技者に影響を与えた」「相手競技者の動きを妨げた」わけではないだろう。シュート時に視界を遮ったわけでもないので、オフサイドを採らずに得点を認めた判断は受け入れられる。

 

 バーンリー vs アストンヴィラ
(Referee: マイケル・サリスバリー VAR: ダレン・ボンド)

 

61分のヴィラのゴールシーンでは、マッギンへの露骨なホールディングをグッとこらえてアドバンテージを適用。結果的にヴィラのカウンターを成立させ、ゴールを下支えした。昨季は「あれれ」という判定も多い印象があったサリスバリー主審だが、今季プレミア初主審となった今節は上々の出だしだと言えよう。

 

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各試合の講評

 

数的優位に甘んじたエディ・ハウ。
カウンターに懸けたクロップに沈む。

 

 マンチェスター・Uvsノッティンガム・フォレスト

 

前節スパーズに初勝利を献上したユナイテッドは、開幕2戦で存在感が希薄だったマウントに代わってエリクセンを先発起用。そのエリクセンは、持ち味の展開力やボールスキルに加え、マウント顔負けのエリア内への飛び出しでゴールもゲット。先発起用の機会を活かし、テン・ハーグ監督にこのうえないアピールに成功した。
 
守備面では開始4分で2失点と序盤の集中力に大きな課題が残った。オナナは歯に衣着せぬ物言いで喝を入れているものの、的確なコーチングができているか…という点では疑問符が付く。ヴァランもリサンドロ・マルティネスもDFリーダーというよりは自らの持ち場を粛々とこなすタイプなので、マグワイア不在時の守備統率は今のユナイテッドが抱える課題の一つかもしれない。(セットプレーの守備はベテランのカゼミーロにも期待したいところだが、今節では自らがマークを外して失点に寄与する始末。。。)
 

 ニューカッスル vs リヴァプール

 

序盤から両チームともに積極性が際立ち、強度の高いプレッシングの応酬となるエキサイティングな試合となった。ホームのセント・ジェームズ・パークの大声援を受けたニューカッスルの出足がやや上回る中で、28分にファン・ダイクが一発退場。これでニューカッスルの攻勢が一層高まったが、後半に途中出場のダルウィン・ヌニェスが値千金の2ゴール。数的不利で60分余りを戦ったリヴァプールが劇的な逆転勝利を飾った。
 
リヴァプールとしては、25分に先制され3分後に守備の要が退場…という最悪に近い展開だったが、守護神のアリソンを中心に粘り強く守り、追加点を許さなかったのが終盤になって活きたと言えよう。アリソンに関しては、36分のアルミロンの強烈なシュートを阻止したのはまさに超人的。守護神の名にふさわしい活躍で、2ゴールのヌニェスと並んで逆転勝利の立役者となった。
 
両チームの明暗を分けたのは選手交代だろう。数的不利の中でカウンターに勝機を見出し、守備的な遠藤を削ってジョタを投入することでやや盛り返したうえで、切り札のダルウィン・ヌニェスを投入して仕留めたクロップ采配は見事の一言だ。
 
一方のエディ・ハウとしては、数的優位もあってか選手交代が遅く、追加点をとれずに試合が停滞。試合を決めきる攻めの交代も守備を固める采配もなく…というところで、選手のプレー強度が落ちるとともにリヴァプールのカウンターを食らう場面が増えていった。
 
70分過ぎに3枚替えを行ったが、それまでの時間は数的優位に「甘んじて」しまった印象もあり、追加点が奪えなかったことが命取りに。いわゆる「イケイケ」のときの威力はリーグ屈指のレベルに来ただけに、リードした展開で試合を落ち着かせたり、相手をあえて引き出してカウンターで仕留めたりなどの戦術バリエーションも身につけたいところだ。
 
なお、今節が初先発となった遠藤航は及第点と言ったところか。狭いエリアでも恐れずにボールを受ける姿勢や、反転の巧さやショートパスの正確さなどは十分に評価できる一方で、対カウンターの守備で入れ替わられる場面が散見され、アンカーとして肝心なところで物足りなさが出た印象だ。「奪いきる」守備は遠藤の良さだが、強靭なフィジカルと繊細なテクニックを併せ持つ選手が多いプレミアでは「ぐっと堪えて時間をかけさせる」守備が必要な場面も増えてきそうだ。