女子ワールドカップ2023のグループステージ。注目の判定をピックアップし、簡単に講評する。
Referee Topics
フランスvsジャマイカ
Referee:
María Carvajal (Chile)
Assistant referees:
Leslie Vásquez (Chile)
Loreto Toloza (Chile)
Video Assistant:
Nicolás Gallo (Colombia)
ジャマイカ⑪が2枚の警告を受けて退場処分に。37分の1枚目の警告は、ボールには触れていたものの、そのまま足裏で相手の足首あたりを踏みつける形となっており、ラフプレーとしてイエローカードは妥当なところ。90+2分のイエローカードも、勢いをもったスライディングタックルで相手の軸足を払う形になっているので、「無謀」なプレーだと言えよう。本人は2枚とも不満そうであったが、一定以上の妥当性はあった。
コロンビアvs韓国
Referee:
Rebecca Welch (England)
Assistant referees:
Natalie Aspinall (England)
Anita Vad (Hungary)
Video Assistant:
Drew Fischer (Canada)
前半10分、コロンビア②に警告。弾んだボールのクリアを試みたものの、韓国⑦が頭から突っ込んで先にボールに触れ、遅れて顔面付近に足が接触する形となった。顔にクリティカルヒットしていれば一発退場もありえたが、かすった程度に見えたので、イエローカードは妥当な落としどころだろう。笛を吹くまでやや間があったことから推察すると、A1のアスピノール副審と交信したうえでの判断だったのかもしれない。
続いて29分には、韓国④の腕にシュートが当たりPK判定。韓国④の腕は胴体から離れて広がっており、ハンド判定に異論の余地はほとんどない。シュートがよいコースに飛んでいたのでDOGSO(決定機阻止)に該当する可能性もあったが、あくまでもシュートブロックなので警告止まりとするのが妥当なところだろう。
スペインvsザンビア
Referee:
Oh Hyeon-jeong (South Korea)
Assistant referees:
Lee Seul-gi (South Korea)
Park Mi-suk (South Korea)
Video Assistant:
Muhammad Taqi (Singapore)
73分、スペイン⑩のゴールがオフサイドで取り消されるも、VARレビューの結果オンサイドであることが確認され、ゴールを認める判定となった。
オ・ヒョンジョン主審はこの判定を伝える場内アナウンスにおいて「No Offside」と言うべきところを誤って「No Goal」と言ってしまい、「No,no,no」と慌てて訂正する羽目に。ワールドカップデビュー戦ということで緊張もあったかもしれないが、最も肝心なところで逆の意味の発言をしてしまったのは痛恨。該当のジャッジ自体は非常に際どく、副審を責めるのは酷なレベルだったが、主審の英語力という点で課題を残した。
アルゼンチンvs南アフリカ
Referee:
Anna-Marie Keighley (New Zealand)
Assistant referees:
Sarah Jones (New Zealand)
Maria Salamasina (Samoa)
Video Assistant:
Abdulla Al-Marri (Qatar)
30分、南アフリカFWが裏に抜け出し、最後は⑩が決めるも副審がフラッグアップしてゴールが取り消しに。しかし、VARレビューの結果オンサイドであることが確認され、OR(オンリー・レビュー)でゴールが認められた。
該当シーンは、裏に抜け出そうとするFWとラインを上げてオフサイドを取りに行ったDFが入れ替わる場面であり、副審としては見極めの難度が最も高い部類のジャッジとなる。とはいえ、A2のサラマシナ副審はアルゼンチンDFの動きに付いていけず、ポジションが大きくズレてしまっていた。正しいポジションにいても際どい判断にはなっただろうに、そもそもポジショニングが良くなかったので見極めは困難を極めた。
中国vsハイチ
Referee:
Marta Huerta de Aza (Spain)
Assistant referees:
Guadalupe Porras Ayuso (Spain)
Sanja Rođak-Karšić (Croatia)
Video Assistant:
Alejandro Hernández Hernández (Spain)
28分、ルーズボールの競り合いの際に、中国⑩の足がハイチ⑨にヒット。マルタ・ウエルタ・デ・アサ主審は当初イエローカードを提示したが、VARレコメンドによるOFR(オン・フィールド・レビュー)の末、レッドカードで一発退場というジャッジに至った。
中国⑩が遅れてチャレンジしたこと、激しく衝突したことは明白であり、レビューするまでもなくマルタ・ウエルタ主審も認識していただろう。判断のポイントとなったのは接触部位。リプレイ映像で見ると、高く上がった足裏が膝の内側に入っており、膝の内側靭帯の大怪我にもつながる非常に危険なプレーであることがわかる。映像で確認すれば、10人中10人の審判がレッドカードという判定を選ぶだろう。
マルタ・ウエルタ主審としては、串刺し気味のポジションになってしまい、接触部位や強度を見極めきれなかったか。全体としては高いスプリント能力を活かして幅広く動けていたが、当該シーンでは若干「サボって」しまった印象だ。
続いて72分には、中国⑲がハイチ㉑と接触してエリア内で倒れるも、いったんはその前の時点でのオフサイドを採ってPKは与えず。しかし、VARレビューにより当該シーンがオンサイドであることが確認されたのち、OFRなしでPKにジャッジを変更した。
ポイントになるのは、PKか否かのOFRを行わなかった点だ。判定プロセスを整理すると、以下の通りになる。
------
1.最後の接触はファウルであると確認。(主審の判断)
2.その前にオフサイドがあったと判断。(副審の判断)
3.VARが2の判断が誤りであることを確認(=オフサイドポジションか否かは「ファクト」なのでOFRは不要)
4.2のオフサイド判定がなければ採っていたはずのPKとジャッジ(主審の判断)
5.1の主審の判断は十分に受け入れられるので、介入なし。
------
接触シーンについては、切り返しについていけずに出した足に相手が引っ掛かるという、典型的なトリッピングであった。対角線式審判法セオリーからは外れるが、中国の右からの攻撃に対して副審サイドに入り込み、非常に近い距離&よい角度で見ていたマルタ・ウエルタ主審としては、ファウル自体の見極めは「Easy Decision」だったことだろう。
試合終盤には、中国⑮とハイチ⑪がエリア内で接触し、一時はPK判定を下すも、本日2度目のOFRの末にPKを取り消した。
ハイチ⑪が大袈裟に倒れた感はあるものの、中国⑮の腕がかかっていることは確かであり、ファウルという判定が「明白な間違い」と言えるかどうかは微妙に思える。それでもVARが介入したということは、例えば「肘が当たった」などの明らかな事実誤認があったのかもしれない。個人的には「やや厳しい判定ではあるがあながち間違いではない」と思ったが、あのくらいの接触はノーファウルにする審判のほうが多いかもしれず、ノーファウルという最終ジャッジに強い異論はない。