イングランドプレミアリーグ第37節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

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Referee topics

 

OFR多発。
VARがあってよかった案件多し。

 

 リヴァプール vs アストンヴィラ
(Referee: ジョン・ブルックス VAR: トニー・ハリントン)

 

20分、抜け出したワトキンスとコナテが接触し、ブルックス主審はPKを宣告。メインスタンド側のアングルだとコナテがボールに触れたようにも見えたが、リプレイ映像で見るとワトキンスが先にボールに触ったことで、コナテはボールを触ることができていない。

 

ブルックス主審としては縦に速い攻撃に対してスタートはやや遅れをとったものの、必死のスプリントで追いすがり見極めに成功。バックスタンド側にやや膨らんで見極めの角度を作ったことも奏功した。

 

55分には、ガクポがゴールネットを揺らすもVARが介入。OFR(オン・フィールド・レビュー)を経て、ファン・ダイクのオフサイドを採ってゴール取り消しとなった。ルイス・ディアスがボールに触れた瞬間にファン・ダイクがオフサイドポジションにいたことは間違いないので、判断のポイントとなるのはコンサのボールタッチを「意図的なプレー」とみるか「ディフレクション」とみるか…という主観的な判断なので、オフサイド案件だがOFRが必要となった。

 

今回のケースはボールとの距離が比較的近く、ボールスピードも速かったので、コンサが十分に準備する時間があったとは思えない。昨今の競技規則の運用では、ディフレクションと定義がやや拡大傾向にあるが、今回のケースを「ディフレクション」とみなすことにほとんど異論の余地はない。そして、「ディフレクション」であればオフサイドは成立するのでゴールは取り消しとなる。

 

 ブライトン vs マンチェスター・C
(Referee: サイモン・フーパー A1: アドリアン・ホルメス VAR: クリス・カヴァナー)

 

31分、こぼれ球を三笘が体で押し込むも、少し経ってから笛が鳴り、ハンドを採ってゴールは取り消しに。笛を吹くまでにラグがあったので、おそらくフーパー主審の位置からは事象が確認できず、A1の助言があったものと思われる。

 

三笘は得点者なので、現行の競技規則では「腕に当たっていれば問答無用でハンド」のパターンだ。比較的明瞭な事象ではあった(明らかに腕に当たっていた)が、VARなしで正しい判定を導いたことは非常によかった。

 

一方、79分のハーランドのゴールシーンではVARが介入。フーパー主審がOFR(オン・フィールド・レビュー)を行い、ハーランドのファウルを採ってゴール取り消しとなった。

 

リプレイ映像で見ると、シュート前の駆け引きでコルウィルのユニフォームを明らかに引っ張っており、ファウルの判断は妥当なところだろう。主審はクロスの出所を見ているし、コルウィルはオフサイドラインから少しずれていたので副審の焦点も別の箇所にあるはずなので、現場の審判団で判断を下すのは実はかなり難しい事象だったように思う。

 

 フラム vs クリスタル・パレス
(Referee: ロバート・マドレー VAR: ピーター・バンクス)

 

前半アディショナルタイム、ウィルソンをグエイが倒してPK。切り返しに付いていくことができずにトリップしており、ファウルを採ってPKを与えた判定は比較的容易く下せたはずだ。

 

なお、主審のロバート・マドレーは「ボビー・マドレー」の愛称で知られ、過去の不適切行為で一時解雇されていたが今季よりプレミアの舞台に復帰。今節が2試合目の担当となった。やや「小太り」な体型は変わらないが、トレードマークのスキンヘッドから短髪にヘアチェンジをしたようだ。

 

 マンチェスター・Cvsチェルシー
(Referee: マイケル・オリヴァー VAR: ジョン・ブルックス)

 

72分、アルヴァレスのこの試合2ゴール目は幻に。アシストのマフレズがボールを腕で扱っており、VARレコメンドによるOFR(オン・フィールド・レビュー)の末にゴール取り消しとなった。

 

マフレズは得点者ではないので、腕の位置が自然であればノーハンドもありうる(腕に触れたら自動的にハンドではない)が、今回はボールのほうに腕が動いており、ハンドを採るのが妥当だ。

 

オリヴァー主審はロングボールに出遅れてしまい見極められる角度・距離にいることができず。A2のベッツ副審であれば比較的見やすかったようにも思えたが、こちらもボールに対してやや遅れをとっており、マフレズの体と被って見えなかったか。

 

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各試合の講評

 

キーマン負傷のエヴァートン。
手負いで運命の最終節へ。

 

 リヴァプール vs アストンヴィラ

 

ホームのアンフィールドでの最終戦は両者にとって手痛い引き分け。前半は素早くサイドバックの裏を突くヴィラのカウンターがハマってヴィラペースだったが、後半の中盤以降はリヴァプールが一方的に攻め立てる展開に。最終盤にフィルミーノがアクロバティックなゴールを決めて引き分けに持ち込んだものの、リヴァプールの連勝はストップとなった。
 
試合前に今季限りでの退団が発表されたミルナーとフィルミーノには最大級の敬意を表したい。フィルミーノは利他的なセンターフォワードとして、ミルナーはフォア・ザ・チームを体現するファイター&チームリーダーとして、近年のリヴァプールを強く牽引してきた。前者なくしてサラーの活躍はなしえず、後者の存在はヘンダーソンのリーダーシップを力強く支えた。復活途上であった時期に加入し、CL優勝やプレミアリーグ優勝を成し遂げた功績は色あせることはなく、新天地での活躍と未来のアンフィールド帰還を心から祈りたい。
 
今節の終盤には、ガクポやエリオットがロングレンジのシュートを放つシーンが散見された。もちろん彼らのシュートスキルは決して低くないが、押し込んだ展開の中で考えた場合、ゴール前までボールを運んでのフィニッシュのほうが確度が高いのは間違いない。このあたりの状況判断力は若い彼らにまだ足りないものであり、フィルミーノ先輩やミルナー先輩から残り僅かの期間でぜひとも学んでほしいところだ。
 

 ウルブス vs エヴァートン

 

ダイシ監督就任後、健闘を見せるものの波に乗り切れず下位をうろつくエバートン。マクニールを左サイドバック起用する「攻めの」スタメンを組み、カルヴァート・ルーウィンにボールを集めるもシュートが枠に飛ばず。そんな中でトラオレに単独突破を許して先制点を献上すると、前半のうちにパターソンとカルヴァート・ルーウィンが負傷退場…という踏んだり蹴ったりの前半となった。
 
その後も拙攻が続くも、後半アディショナルタイムになりふり構わぬパワープレーで同点ゴールをゲット。残留に向けてなんとか勝ち点1を積み上げたものの、そもそもは勝ち点3が欲しい一戦であり、勝ち点2を落としたという印象の方が強い。19本のシュートのうち枠内は4本と、攻撃面の課題は依然として解決できていない。
 
最終節の相手はボーンマス。残留は決まっているが直近のリーグ戦は3連敗中でチーム状態はあまり良くない。純粋な戦力値で言えば勝てない相手ではないはずだが、負傷したカルヴァート・ルーウィンには欠場の可能性がある。
 
代わりが務まる基準点型のフォワードはいないので、「屈強なセンターフォワードへのクロス供給」というダイシ監督の王道パターンは諦めざるを得ないだろう。引き分けると降格の可能性がある最終節では、グレイやモペイなどのアタッカー陣にゴールが求められる。
 

 ノッティンガム・フォレスト vs アーセナル

 

ここにきて失速気味で優勝の可能性が遠のいたアーセナルは0-1での敗戦となり優勝の可能性が消滅。シティvsチェルシーの結果を待たずしてシティの3連覇が決まった。
 
引き続き欠場のサリバとジンチェンコに加えて今節はマルティネッリとネルソンも不在で、野戦病院状態に。出ずっぱりのサカとウーデゴールもいわゆる「キレ」はくすぶり気味で、特にフィニッシュは精度を欠いた。キーマンの下降線に重なっての攻撃面での停滞は否めず、勝てば残留が決まるノッティンガムに金星を献上した。
 
負傷者の続出もふまえて、今節は両サイドバックにトーマスとキヴィオルを起用。ベン・ホワイトを久々にセンターバックで起用する大胆な采配を行ったが、自陣でのボールロストが散見されるなど機能性は高まらず。本職ではない二人をサイドバック起用した狙いはほとんど見えず、最初から本職のティアニーを起用しておけば事足りた印象もある。