J1リーグ第9節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

 TODAY'S
 
Referee Topics

 

「PKか否か」は
ゴールチェックとは別に確認。
奥深いVAR運用。

 

 札幌 vs 福岡
(主審:木村博之 VAR:先立圭吾)

 

53分、浅野のロングシュートが鮮やかに決まるも、VARが介入。OFR(オン・フィールド・レビュー)の結果、浅野がシュートを打つよりも前に、エリア内でボールを処理していた青木のハンドがあったことが確認され、浅野のゴールは取り消し&福岡にPKが与えられた。まさに天国から地獄へ…というところで、札幌ドームの大ブーイングも理解できる。

 

まず青木のハンドのシーン自体については、映像で確認するとハンドを採らざるを得ないという印象だ。そこまで大きく広がったわけではないが、広げた腕でボールを扱っているように見える。肩のみに接触していればノーハンドだが、広げた腕と肩でボールを扱ったように見えるので、ハンドというジャッジはやむを得ない…というのが個人的な印象だ。

 

次にVARの介入が妥当だったかという点においては、VARに詳しい方の中には「青木のプレーはAPP(※)範囲外なので介入できないのでは?」と考える方もいるかもしれない。確かに、青木のハンドが疑われる事象の後、1度福岡にボールが渡ったあとで札幌がボールを再度奪取してゴール…となっており、VARがチェックできるのは札幌のボール奪取後のように思える。

 

※APP…「アタッキング・ポゼッション・フェーズ」のこと。「ゴール、PK、得点機会の阻止にあたる反則が起きたとき、レビューができる期間」を指す概念で、ゴールにつながる攻撃が始まった瞬間~ゴールまでを指す。

 

ただ、上記はあくまでも「浅野のゴールに関するVARチェック」の話であり、「青木のプレーがハンドかどうか」はPKか否かという点は、浅野のゴールとは関係なくVARのチェック対象となる。今回は、青木のプレー後、浅野のゴールまでプレーが途切れていないので、ゴール後に再開するまではVARが介入することができるのである。

 

VARが介入できる事象は、①得点・②PK・③退場・④懲戒罰の人違いの4点。今回の青木のプレーへの介入は一見すると①に思えるが、実は②によるものである。①のチェックにおいては札幌の最終的なボール奪取からがチェック対象なので、青木のプレーは範囲外で介入することができない。別の言い方をすると、もし青木のプレーがペナルティエリアの外で起こっていた場合には、②を満たさず、①の範囲からも外れるので介入はできなかったことになる。

 

当該事象のジャッジの難しさがあるのに加え、VARが介入できるのか…という観点でも非常に難しい事象だったが、先立圭吾VARが冷静に対応し、適切なVAR運用を行ったと言えよう。

 

 神戸 vs 横浜FM
(主審:今村義朗 VAR:福島孝一郎)

 

87分、エリア内に侵入した初瀬のクロスが角田の左腕に当たるも、今村主審はノーハンドの判定。VARも結局介入することはなく、そのままジャッジ確定となった。

 

ボールが腕に当たっているのは確かなので、あとはその妥当性をどう判断するか…ということになる。角田の左腕は胴体から多少離れているものの、過度に大きく広がっているわけではなく、スライディングでブロックを試みた「捨て身タックル」の状態でもないので、許容の範囲内という判断だろう。個人的にも受け入れられる判定だ。

 

VARとしては、今村主審が腕に当たったことを確認できていない場合は「重大な事象の見逃し」として介入しうるが、「腕に当たったがハンドではない」という判断であれば主観の問題になるので介入するのは難しい。

 

 京都 vs 鳥栖
(主審:池内明彦 VAR:吉田哲郎)

 

51分、こぼれ球に反応した田代と一美が接触。池内主審は一美にレッドカードを提示した。ボールに挑む意図はあったものの、田代の足首あたりに足裏がヒットしているのは確か。勢いがついているうえに、足裏がかなり高く上がっており、安全への配慮も十分ではない。ラフプレーでのレッドカードはやむを得ない判定だろう。

 

89分には、京都のコーナーキックの場面で原田の右腕にボールが当たるも、当初はノーハンド。結局、VARレコメンドによるOFR(オン・フィールド・レビュー)の末、ハンドでPKという判定になった。原田が右腕を突き出してボールを処理しており、映像を見ればハンドであることの判断は容易い。

 

 川崎F vs 浦和
(主審:谷本涼 VAR:飯田淳平)

 

68分、エリア内の混戦の中で興梠が倒れるも当初はノーファウルの判定。VARチェックが行われたが結局介入はせず、ノーファウルでジャッジ確定となった。高井が興梠の足を蹴っているのは確かだが、高井がクリアしようとしたプレーイングディスタンスに興梠が足を「ねじ込んだ」という見方であればノーファウル判定も頷ける。

 

DAZNのリプレイ映像は様々な角度のものが出ていたが、あるアングルでは接触の延長線上に谷本主審の姿が見えた。やや遠めではあったが、しっかりと角度と視野を確保して接触を見極めることができており、ジャッジにも説得力があった。谷本主審が「接触はあったが興梠側に原因がある」という判断だったからこそ、VARも介入しなかったのだろう。

 

 名古屋 vs 湘南
(主審:岡部拓人 VAR:清水勇人)

 

30分、ゴール前のこぼれ球を阿部が押し込むも副審のフラッグが上がり、結局はオフサイドでゴール取り消しとなった。

 

阿部がオフサイドポジションにいたことは間違いなく、阿部がボールを受ける前の最終のボールタッチが名古屋の米本であったことも間違いないので、論点は米本のボールタッチが「意図的なプレー」なのか「ディフレクション」なのかという点だ。前者であればオフサイドは成立せず、後者であればオフサイドとなる。

 

このあたりのオフサイドの解釈は、22/23の競技規則の改正において変更があった部分だ。22/23の競技規則の改正に合わせてJFA経由で出されたIFABからの通達においては、「意図的なプレー」の判断基準として以下が挙げられている。

 

• ボールが長く移動したので、競技者はボールをはっきりと見えた
• ボールが速く動いていなかった
• ボールが動いた方向が予想外ではなかった
• 競技者が体の動きを整える時間があった、つまり、反射的に体を伸ばしたりジャンプせざるを得なかったということでもなく、または、かろうじてボールに触れたりコントロールできたとい
うことではなかった
• グランド上を動いているボールは、空中にあるボールに比べてプレーすることが容易である

 

「オフサイドの判定に関わる「意図的なプレー」と「ディフレクション」との違いに関するガイドラインの明確化」

 

上記に照らして考えると、米本の前には選手がおり、特にすぐ前の湘南の選手がボールをスルーしたことで、反射的に足を出したようには見える。「ボールをはっきりと見えた」と断言しがたい部分があるので、審判団は米本のプレーを「ディフレクション」として判断し、オフサイドを採ったのだろう。

 

個人の意見としては、眼前でスルーされたとしても自分のもとにボールが来ることは予想できる範疇であり、意図的なプレーとみなしてゴールを認めてもよかったようには思う。ただ、VARとしては本件は主観の判断(意図的かどうか)になるので、なんらかの事象を主審・副審・第4審が見逃していない限りは介入は難しい。

 

後半には、札幌vs福岡と同じく「VAR介入の結果、ゴールが取り消しになり一転して逆チームのPK」というジャッジが起こった。マテウスのシュートがゴールネットを揺らすも、1分ほど前にエリア内に突進した山田を阻んだ中谷のプレーがファウルと判断された。

 

中谷のプレーに関しては、個人的には間違いなくファウルだと思うが、そもそもなぜ当初判定で岡部主審がノーファウルと判断したのかがよくわからない。山田のほうが勢い余って突っ込んだという見方はありうるだろうが、それならばその主観的な判断は映像証拠で覆すことはできないはずで、VARがOFRをレコメンドすることもなかったはずだ。

 

結果的に中谷のファウルを採った判定に異論はないが、「岡部主審が当初なぜノーファウルと判断したのか」「その判断に対してVARが介入したのは妥当だったのか」についてはやや疑問が残る。

 

 TODAY'S
 
各試合の講評

 

ロングボール主体の攻撃は
マリノス対策の鉄板になりそう。

 

 神戸 vs 横浜FM

 

上位同士の直接対決は昨季王者に軍配。2点を先行されるも、前半の終盤から後半にかけてはボールを支配して押し込んで同点に追いつき、終盤にアンデルソン・ロペスのゴールで勝ち越した。後半開始早々の失点がVARで取り消されたのは幸運だったが、途中出場のヤン・マテウスや西村が攻撃のギアを上げたことは勝因の一つであり、前線のアタッカー陣の選手層の厚さがモノを言った形だ。

 

ヴィッセルは3トップをシンプルに活かした攻撃でリードする展開になったが、ラインがずるずると下がってしまい3失点。とはいえ、マリノスのハイプレスを逆手にとり、大きなサイドチェンジや裏へのロングフィードを軸にゴールに迫る戦術はある程度機能していた。マリノス対策として他クラブも参考になりそうだ。

 

 新潟 vs 鹿島

 

リーグ戦は4連敗中で試合内容も伴わずに苦しんだアントラーズは、前線のアタッカーを鈴木以外ほぼ総入れ替え。鈴木に加え、キープ力と空中戦に優れた垣田を先発起用し、高さと強さを活かして攻撃を組み立てようという狙いが見えるスタメンであった。

 

ピトゥカや樋口の展開力を活かしてサイドに大きく揺さぶりながら、最後はエリア内で2トップが強さを見せたゴールシーンは、まさに今節の狙いが結実した形であった。狙い通りのゴールののちは、集中力を切らさずに新潟攻撃陣を零封。内容を伴った久しぶりの勝利で捲土重来となるか。

 

一方のアルビレックスとしては、2失点の原因となった中央守備の綻びよりも、無得点に終わった攻撃陣のほうが課題は根深い印象。ゴール前でブロックを敷く鹿島守備陣に対して突破口が見つからず、バイタルエリア手前で攻めあぐねるシーンが目立った。エリア内の厚みをもたせる2トップの採用などを含め、引いた相手の崩し方は対策の構築が急務だ。