イングランドプレミアリーグ第30節。リヴァプール vs アーセナルの一戦を講評する。

 

 TODAY'S
 
リヴァプール vs アーセナル

 

<Referee Topics>
肘打ちはさておき、
拒絶対応自体に問題あり。

 

    

Referee:

ポール・ティアニー


Assistant referees:

コンスタンチン・ハツィダキス
スコット・レジャー

Video Assistant:

クリス・カヴァナー

 

チャンピオンズリーグでも重要な試合を任されるようになってきたオリヴァー、テイラーに次ぐ3番手集団に位置するティアニー主審。ほぼ同列にいるアットウェル主審がトッテナムvsブライトンで「やらかした」状況で、序列を覆すチャンスがある一戦であった。

 

全体としては「なかなかファウルを採らない」という印象を受けるレフェリングであった。22分にガクポが倒れたシーンは後ろからチャージされているのでファウルでもおかしくないが吹かず。一方で、23分にカニばさみ気味のスライディングを見せたベン・ホワイトには躊躇なく警告を提示する等、要所は締めていく。

 

32分のファン・ダイクへの警告は典型的なSPA(チャンス阻止)であり、ファン・ダイク本人含めてサッカー関係者全員が納得の判定だろう。カードを既に準備しているのになぜか詰め寄ってきたアーセナル側の選手をあしらいつつ、スムーズにカードを提示したのも◎だ。

 

36分、ジェズスのボールキープの際にロバートソンがファウル。ファウルサポートを行ったハツィダキス副審に対して不満を露わにしたロバートソンは、ティアニー主審がきっちり呼びつけて注意を与えた。このあたりのマネジメントも抜かりない。(とはいえ、このファウルサポートのシーンがハーフタイムのイザコザの伏線にはなってしまったようだが)

 

40分にはジャカのファウルをきっかけに両チームが小競り合いに。時系列としては、以下のような流れとして整理できる。

①ジャカがコナテのチャージを受けて倒れるもノーファウル

②起き上がったジャカがアレキサンダー・アーノルドにアフターチャージ

③怒ったアレキサンダー・アーノルドがジャカに報復気味に手を出す

④アレキサンダー・アーノルドとジャカが小競り合いに発展

 

発端となったのは間違いなくジャカだが、それに応戦してしまったアレキサンダー・アーノルドにも非はあり、喧嘩両成敗の形で両者にイエローカードを提示したのは妥当な落としどころだろう。

 

そして、問題のシーンは前半終了のホイッスル直後。ティアニー主審のもとへ向かうハツィダキス副審を引き留めたロバートソンに対してハツィダキス副審が肘を振り上げるような仕草を見せ、ロバートソンが激高。結局イエローカードを提示されることになった。

 

ハツィダキス副審はおそらくロバートソンの腕を払いのけようとしただけだとは思うが、後半もゲームが続く中で選手とのコミュニケーションを一切拒絶するような姿勢自体がそもそも好ましくないと感じた。ロバートソン側も執拗に抗議を続けた点は反省すべきだが、審判団としてロバートソンへの「ガス抜き」の対応は十分とは言えず、コミュニケーションの課題はあったと言えよう。

 

追記:当該シーンについて、PGMOLが調査を開始したとのこと。

 

後半については、49分のジャカに対するコナテのタックルはボールに触れていたもののジャカの足も掬い上げる形となっており、ラフプレーでファウルという選択肢もあったが、今節のタフな基準に則ればノーファウルという判定は頷ける。ジャカもそこまで不満は示さなかったので、ファウルの判定基準は選手にもしっかり理解されていたようだ。

 

そして52分、コーナーキックのこぼれ球に対してジョタとホールディングが接触してPK。ボールとホールディングの間に足を「晒す」ことによって、ジョタ側が接触を誘発した印象はあったものの、足だけでなく体もしっかりと入れているので正当性はあり、ファウルでPKという判定は妥当なところだろう。

 

その後サラーのPK失敗もあって俄かに荒れ始めたが、ラフプレー気味にサカを止めたファビーニョに警告を提示し、その後にリスタートまで少し時間を置くことで鎮静化を図った。このあたりのマネジメント術はここ数年でティアニー主審が明らかに成長した部分であろう。

 

84分にはコーナーキックでたっぷり時間をっかけたサカに警告を提示。ややタイミングが早いようには感じたが、逃げ切りを図りたいアウェーチームが時間稼ぎに勤しむことは想定できるので、早めに抑止力を働かせておくのは有効だった。

 

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試合の講評

 

戦術修正&大歓声で
後半はリヴァプールが巻き返し。

 

 アーセナルは「いつもどおり」のメンツが並ぶ。

 

負傷明けのチアゴがベンチスタートとなったリヴァプールは、カーティス・ジョーンズを先発起用。前線にはジョタとガクポを起用し、ダルウィン・ヌニェスはベンチで切り札的に控えることになった。爆発的なスピードと個での打開力が際立つヌニェスは現時点ではジョーカー的な起用のほうがメリットが大きく、ベンチスタートは妥当な判断だろう。

 

一方のアーセナルは負傷を抱えるサリバの代わりにホールディングを起用した以外は「いつものメンツ」が並んだ。エンケティアが負傷離脱したことでセンターフォワードは代役不在となっているが、ネルソンが調子を上げスミス・ロウも徐々にコンディションが整ってきている。優勝に向けて上り調子と言える中で、鬼門となっているアンフィールドに乗り込む形となった。

 

 「右で組み立てて左で仕留める」は今季のアーセナルの鉄板。

 

立ち上がりは両チームともにインテンシティが高く、特にネガティブ・トランジション(攻→守の切り替え)の局面でのカウンタープレスの強度が目立った。プレスを受けたためにカウンターが打てずに自陣でのボール回しとなり、結局はロングボールを当てるしかない場面が多かった。

 

その中で、アーセナルの先制点はサカが内側に入ってボールを引き出したことでプレッシングの網を回避することに成功。マークが後追いになったことで逆サイドからマルティネッリが中央に侵入して仕留めた。ビルドアップでのプレス回避から縦方向への加速まで「右で組み立てて左で仕留める」は今季のアーセナルの鉄板となっている。

 

 リヴァプールの戦術は圧倒的な個ありき。個に陰りが見られる今季の不調は必然。

 

リヴァプールとしては、前線からの積極的なハイプレスを志向してきたが、前掛かりゆえに自陣での守備では数的同数や数的不利に陥る場面も多い。これらはもともと抱えていたリスクだったが、今季はそれらをあっさり露呈してのあっけない失点が目立つ。

 

昨季以前にこれらのリスクを「なんとかしていた」のは圧倒的な個の能力だった。特にヘンダーソンの上下動(特に自陣深くに戻ってのアレキサンダー・アーノルドのサポート)、ファン・ダイクやマティプのカバー能力は凄まじかったが、今季はファビーニョを含むセンターラインのパフォーマンスが軒並み低下しており、それを若手が埋めきれないことが不調の大きな原因となっている。

 

2失点目にしても、アレキサンダー・アーノルドのポジショニングは褒められたものではなかったが、アーセナル側のボール展開に対してヘンダーソンのスライドが全盛期よりも遅れている面は否めない。(もちろん、以前のレベルが水準以上だっただけで現状が落第…というわけではないが)

 

 左サイドからの崩しを強化し、後半のリヴァプールは反撃を開始。

 

とはいえ前半の終盤からは2点ビハインドで火が点いたリヴァプールが巻き返しを開始。なかなか組み立てがうまくいかない右サイドからの構築を諦め、アンカーのファビーニョも左寄りの位置をとらせ、ジョーンズのキープ力とロバートソンの攻め上がりを織り交ぜながら、左サイドから崩す狙いを強めた。

 

それが結実し、前半終了間際にサラーが1点を返すことに成功。後半も勢いそのままにインテンシティを高めて攻勢をかけ、早々に獲得したPKはサラーが外してしまうも、その後も攻勢を継続。前述のように左サイドからの厚みのある攻撃が奏功し始めたほか、何よりアンフィールドの大歓声がホームチームを後押しし、若きアーセナルを飲み込む勢いを見せた。

 

 左サイドアタックを加速させたチアゴ&ヌニェス投入。クロップ采配が同点弾を生んだ。

 

クロップ監督の采配としては、ここで左サイドからの崩しを得意とするチアゴとダルウィン・ヌニェスをセットで投入したのは好判断であった。チアゴは長短のパスでリズムを作りつつ巧みな先読みでセカンドボールを回収し、ヌニェスはドリブルでの仕掛けと高さを活かしたクロスへの飛び込みで存在感を見せた。

 

カーティス・ジョーンズとジョタの出来は決して悪くなかったが、ここでより直線的にゴールに迫ることができる選手を投入したことで、アーセナルに息つく暇を与えず攻勢を続けることができた。この交代がなければサラーのPK失敗とともにトーンダウンしていた可能性もあり、この2枚同時交代が同点ゴールを生み出したと言っても過言ではないだろう。

 

 サラーは精彩を欠くも、コナテが堂々たるパフォーマンス。ファン・ダイクの後を継ぐ守備の柱に。

 

また、リヴァプールにおいてはコナテの対人守備の強さに触れないわけにはいかないだろう。高さを活かしたヘディングの強さやタックル自体の強度はもちろん、リーチの長さを活かしたボール奪取の能力が凄まじく、チームやスタジアムの士気を上げる意味でも効果が絶大であった。

 

エースのサラーはPK失敗以外にもボールタッチが乱れるなど調子を崩していた印象もあるが、それを補った余りある活躍をコナテが見せ、アンフィールドの希望の星となった。ファン・ダイクに衰えの兆しが見える中で、彼にはリヴァプールの守備の柱になってほしいところだ。

 

 消耗が激しい両サイドバックの交代の遅れが致命傷に。アルテタを悩ませたサリバ&冨安の不在。

 

一方のアルテタ監督としては、残り10分でウーデゴーに代えてキビオルを投入。キビオルを中央に据えた5バック気味の守備固めを行って逃げ切りを図ったが終了間際にクロスで痛恨の失点を喫した。

 

個人にすべての責任を押し付けるわけにはいかないが、失点シーンではジンチェンコがアレキサンダー・アーノルドにかわされたこと、そしてベン・ホワイトのポジション修正が遅れて競り負けたことが主因になっている。

 

彼ら二人は上下動を求められることもあり消耗が激しく、特に終盤はプレー強度がガクッと落ちる場面が多い。それを見越してそれぞれティアニーと冨安にスイッチすることが多いが、今節は後者が不在。かつ5バック要員のホールディングが既に先発だった(サリバ負傷欠場により)ので新加入のキビオルを入れざるを得なかった。

 

結果として、ベン・ホワイトを代えられず、ジンチェンコを下げるタイミングも遅れたことが終了間際の失点を招いたという見方ができる。サリバと冨安の負傷欠場により、交代策が「いつもどおり」にできなかったことが痛恨であった。