カタールW杯決勝トーナメント1回戦。フランス vs ポーランドの一戦を裁いたヴァレンズエラ主審率いる審判団について講評する。

 

 TODAY'S
 
フランス vs ポーランド

 

    

Referee:

Jesús Valenzuela (Venezuela)


Assistant referees:

Jorge Urrego (Venezuela)
Tulio Moreno (Venezuela)

Video Assistant:

Juan Soto (Venezuela)

 

 ファウル・警告ともに判定にはやや揺れが見られた印象。走力は高かったが…。

 

26分、カウンターの局面でエムバペが突破を図ったシーンはフランコフスキの腕がエムバペにかかったように見えたがノーファウル。持ち前の走力を活かして比較的近い位置にはいたので手がかかったのは見えたはずだが、エムバペの前進には影響しなかった(ボールロストが別要因)と判断したか。個人的にはファウルを採るべきだったと思う。

 

31分にはフランコフスキのドリブルを阻止したチュアメニにイエローカードを提示。ボールに先に触れたのはチュアメニだったが、そのままの勢いでフランコフスキの足にも強く接触していた。ボールへのプレーではあるのでノーファウルという選択肢もあったが、相手の足首のあたりに足裏あたりが強く接触していることをふまえると、相手選手の安全への配慮が欠けたという観点でファウルという判断は十分に受け入れられる。足裏ががっつり入ったわけではないので警告はやや厳しかったかなという印象だ。

 

ただ、いずれのシーンも事象を間近で見極めることができたのは、ヴァレンズエラ主審の高い走力ゆえである。終盤になっても衰えない走力は彼の最大の魅力であろうが、肝心の事象の見極め自体はいまひとつ…という印象だ。

 

 ネックレス着用という珍しい違反。審判・選手ともに安全への意識を高めてほしい。

 

審判団として最大の失策が発覚したのは前半42分。フランスのクンデが競技規則でプレー中の着用が禁止されているネックレスを付けていたことをA1のウレゴ副審が(いまさら)発見し、クンデ自身が取り外すことになった。

 

スタメン出場の選手はおおむね入場前に審判(多くの場合は副審)が用具のチェックを行う。この試合でのフランスはホーム扱いなので、おそらくA1のウレゴ副審がクンデの点検を担当した可能性が高い(A1がホーム側、A2がアウェイ側のチェックをするのが通常)ので、自らのミスを自らで発見…という形か。

 

チェック項目は下半身(スパイク、ソックス、レガースなど)がメインになるため、上半身は見逃されやすいという面はあるが、欧米では日頃ネックレスやピアスを着用している選手は多いため、念入りにチェックすべきであった。接触時に首などにからまる危険性もあるので、クンデ自身も含めてもう1度用具への意識を高めてほしい。

 

後半開始早々のベレシンスキへの警告は際どいところ。後方からのタックルではあったがボールには僅かに触っており、デンベレの足に接触したのはボールとほぼ同時にも見える。ファウルに見えがちなシーンではあるが、ノーファウルの可能性もあるシーンだった(私が主審でもおそらくファウルを採っていただろう)。なお、ファウルを採った場合には、ラフプレーかどうかは関係なくSPA(チャンス阻止)で警告となるのはやむを得ない。

 

 ジルーのバイシクルシュートはゴールを認めてもよかったが、VARは介入できない。

 

後半13分にジルーが鮮やかなバイシクルシュートでゴールネットを揺らしたシーンでは、直前のヴァランのファウルを採った。可能性としては「ディフェンダーに対するホールディング」と「GKに対するレイトチャージ」のどちらかだが、主審の角度から前者が明確に見えたとは思えず、おそらく後者のファウルを採ったようには思える。

 

ただし、結果的にボールをパンチングした後のシュチェスニーと接触する形にはなっているが、ヴァランの振る舞いはそこまで不当なものには思えない。個人的にはノーファウルに思える。

 

しかし、このシーンではジルーのシュートがゴールネットを揺らす前に笛が鳴っているため、VARが介入できる「得点に関する事象」には厳密に言うと該当しないのではないかと考えられる。よって、VARが主審の判定を誤りだと考えたとしてもVARの介入はなしえない。

 

 PKの蹴り直しは妥当。ゴールライン上の判定はVARに一任されている可能性も。

 

後半終了間際にはVARレコメンドによるOFR(オン・フィールド・レビュー)の末、ウパメカノのハンドを採ってPK。クロスに対して右手が胴体から明らかに離れており、ハンドという判定は妥当だ。議論の余地があるとすればその後のPKの蹴り直しについてだろう。

 

レヴァンドフスキのシュートを一旦はロリスが阻止したが、主審のジャッジにより蹴り直しとなった。主審のジェスチャーを見る限り、キック前にゴールラインを離れたロリスではなく、フランスの守備者のエリア内への侵入を反則と判定したようだ。ロリスのほうの反則を採っていれば警告が提示されるべきだったが、いずれにせよPKの蹴り直しという判定は問題ない。

 

なお、2回目のキックにおいても両チームがエリア内に明らかに侵入していたし、ロリスは明らかにゴールラインから離れていたが、キックが決まったのでお咎めなし。もしキックが決まっていなければ、再び蹴り直しとなったであろう。レヴァンドフスキのPKがフェイントを含むのでタイミングがとりづらいとはいえ、VARのチェックもある中でエリア内に侵入する行為は何のメリットもない(メリットを得たとしてもVARチェックで確実に罰せられるので)。

 

ちなみに、興味深いのはいずれのキックの場面においても副審がフラッグアップしなかったことだ。副審はゴールイン/アウトの判定およびキック時のGKの位置を監視しているはずで、1回目のロリスの前進具合の大きさからすると副審がロリスの反則を見逃したとは考えにくい。もしかすると今大会では「キック時にGKがゴールライン上にいたかどうか」の判定はVARに一任されているのかもしれない。ただ、もしそうであるなら、ゴールイン/アウトもゴールラインテクノロジーで確認できるわけで、副審がPK時にあの位置にいる意味がほぼ皆無になるが…。