カタールW杯決勝トーナメント1回戦。初のベスト8を狙う日本がクロアチアに「挑む」一戦を展望する。

 

 TODAY'S
 
日本 vs クロアチア

 

<Referee Topics>
グループステージの2試合では
批判と称賛のどちらも浴びている。

 

 

    
Referee:
Ismail Elfath (United States)

Assistant referees:
Corey Parker (United States)
Kyle Atkins (United States)

Video Assistant:
Nicolás Gallo (Colombia)

 

主審を務めるのは40歳のイスマイル・エルファス。モロッコ系のアメリカ人で、ワールドカップは初めてだが、U-20のワールドカップや東京五輪、FIFAクラブワールドカップなどで決勝トーナメントの主審を務めたこともあり、国際舞台での経験は比較的豊富だ。アメリカ人の審判員としてはロンドン五輪の日本vsスペインで主審を務め、過去2大会のワールドカップ(2014ブラジル、2018ロシア)にも派遣されたマーク・ガイガー氏が有名だが、エルファス氏はその次の世代の代表格と言えるだろう。

 

グループステージでは、ポルトガルvsガーナ、カメルーンvsブラジルの2試合を担当。ポルトガルvsガーナではポルトガルに与えたPK判定がガーナのオッド監督から「審判からの贈り物だ」と批判されたものの、個人的にはファウルでPKという判定は十分に受け入れられる。ロナウドとサリスがボールに触れたタイミングはほぼ同じもしくはロナウドが若干先のように見え、サリスがボールに伸ばした足はボールよりも先にロナウドに接触しているので、ファウルという判定は誤審とは言えないだろう。

 

また、カメルーンvsブラジルではアブバカルを退場処分としているが、得点の喜びでユニフォームを脱いだことによる2枚目の警告であり、最後は笑顔で握手をかわしてレッドカードを提示。このあたりはいわゆる「エンパシー」(共感・感情移入)として非常に好ましい対応であったと世界で称賛されている。

 

主審としての特徴としては、大柄ながらスプリント回数が多く、争点に近寄って判定を下そうという意識を強く感じる。カードの枚数が嵩む試合もあるが、選手とのコミュニケーションを厭わないタイプであり、良好な関係性を築いておくことが重要だ。ファウルの基準は若干ブレることもあるため、対話しながら「本日の判定基準」を見極めたいところだ。

 

 

 TODAY'S
 
試合の展望

 

順応力に優れたクロアチアは難敵。
いくつもの「予想外」を仕掛けることが必要。

 

 手の内が見えた状態での戦いは「順当」に進むことが圧倒的に多い。普通にやれば負ける。

 

まず忘れてはならないのは、クロアチアは「格上」であることだ。前回大会の準優勝チームであり、EUROでも決勝トーナメントの常連。ドイツ、スペインという「THE・強豪」を乗り越えた日本国内では根拠なき楽観モードが漂っているが、言うなれば「順当にいけば負ける」相手であることを認識する必要がある。

 

グループステージでは番狂わせが相次いだ今大会だが、ここまで行われた決勝トーナメント1回戦はすべていわゆる「格上」が勝利している。グループステージの3試合でお互いの手の内は見えており、金星を献上した他国と同じ轍を踏むチームはほとんどいない。それゆえ、決勝トーナメントは「地力(総合力)」と「個の力」そして「蓄積疲労」が勝敗を分けることが多い。

 

 蓄積疲労という点でのアドバンテージはごく僅か。クロアチアの「愛国心」は想像するに余りある。

 

上記3つの観点だと、「蓄積疲労」という面で日本に分があると考える論調は多く、それが一部の日本メディアで蔓延る「楽観ムード」につながっている。確かにクロアチアはグループステージの3試合をほぼ不動のメンバーで臨んでいるのに対し、日本は2試合目でややメンバーを入れ替えたほか、負傷者の発生も相まってメンバーは多少変動している。

 

ただし、クロアチアは前回大会も不動のメンバーで決勝まで勝ち上がった。決勝は文字通り「ヘロヘロ」でフランスに苦汁をなめたが、チームのために全員が身を粉にして走る姿はまさしく「獅子奮迅」という表現がぴったりだ。チームを牽引したモドリッチは翌シーズンにレアルでフォームを崩したが、それはワールドカップで「出し切った」ことが大きく影響している。

 

クロアチアは旧ユーゴスラビア構成国の1つであり、バルカン半島に位置する。独立運動や紛争が絶えない地域における「母国」に対する想いは、平和ボケした日本人が想像するには余りある。劣勢であっても決してあきらめない不屈の精神は試合終了まで侮ってはならない。

 

 相手に合わせて振る舞い、一撃で仕留める。クロアチアのスタイルは今大会の日本と重なる。

 

さて、概念的な話が続いてしまったが、サッカー自体にも目を向けてみよう。クロアチアの特長としては「ボールテクニックに優れている」「守備に精力的で運動量豊富」という傾向はあるものの、志向するサッカーはなかなか一義には捉えにくい。ポゼッション率は比較的低いものの、毎試合ボールを持つ時間帯は一定以上存在するし、ハイプレスを仕掛けることもあれば自陣にブロックを敷いて守ることもある。

 

クロアチアの戦い方を規定するのは彼ら自身ではなく、相手チームだ。相手チームのプレースタイルに合わせて膠着した試合展開に持ち込み、相手がややトーンダウンしたところで一気呵成に攻撃を仕掛けるというパターンが多い。多くの試合では相手に主導権を握らせたうえで、屈強な守備陣を中心に粘り強く守りながら、個の能力に優れた攻撃陣が一瞬の隙を突く…といういわば「暗殺者」のようなスタイルが彼らのアイデンティティだ。

 

したがって、実は志向する戦術は今大会の日本代表と近しいものがある。前半は守備重視で落ち着いて試合を進め、後半頭からギアを上げて仕留めるというのはまさしくドイツやスペイン相手に日本が実践したサッカーだ。そのように考えると、特に序盤の試合展開がどのようなものになるか…は予想するのが非常に難しい。序盤に関してはともすれば「主導権を握ったほうが負け」というような化かし合いになる可能性すらある。

 

 立ち上がりからの「特攻」は一考に値。森保監督にこれ以上の「予想外」の手札はあるのか。

 

個人的には前半開始早々から相手守備陣にハイプレスを仕掛けて混乱に陥れる…という「特攻」作戦はアリだと思っている。クロアチアはもちろん、世界各国がグループステージの日本代表の戦いを分析する中で、負けたら終わりの決勝トーナメントで序盤からチャレンジングに臨んでくるという予想は立ちにくい。もちろんギャンブルではあるものの、今大会の日本の勝因が「予想外」にある以上、グループステージの3試合で見せたことがないアプローチを見せないと勝利は遠のく。

 

「そうは言っても結局は同じアプローチでしょ」というのが私が大会前に抱いていた森保監督へのイメージだったが、そのイメージはことごとく裏切られてきた。ベスト8入りを懸けた大一番で森保監督が勝負師としてどのような手腕を見せるか…は一人のサッカーファンとして非常に楽しみでもある。

 

 今大会で採用していない4-3-3は最後の隠し玉になっている可能性あり。

 

ということで予想が難しい試合ではあるが、いちおうメンバー予想をするとしたら、以下の通りだ。

 

システムは今大会で手ごたえを掴んだ3-4-2-1を予想。GKの権田はほぼ不動で、3バックを採用するならメンツは冨安、吉田、谷口で決まりだ。中盤ボランチには守田と田中碧の継続起用が予想され、両ウィングは伊東純也と長友。前線には鎌田と堂安が並び、最前線には前田大然。堂安のところは久保の可能性もあるが、久保は体調不良であるとの報道が出ており、少なくとも先発は回避しそうだ。これがいわゆる「鉄板」のメンツである。

 

サプライズがあるとすれば、ここにきて4-3-3というアジア最終予選の中盤でチームを救った布陣を採用する可能性はある。あらゆるものを試してきた今大会において明らかに「持ち駒」であるのにまだやっていないのが4-3-3。クロアチアも4-3-3なのでがっぷり四つの形になるが、選手個々の成長を誰よりも期待し実感してきた森保監督なら、1対1で対峙させることに躊躇はないだろう。

 

4-3-3の場合には、4バックは冨安、吉田、谷口、長友で、中盤は守田と田中碧に鎌田を加えた3名、前線は伊東純也と相馬が両ワイドに入ってワントップが前田となることが予想される。右サイドバックはさまざまな可能性があるが、クロアチアの崩しの中心であるペリシッチと対峙することをふまえると、守備面で不安がある山根や怪我明けの酒井宏樹の起用は避けると考える。スペイン戦でアンス・ファティを封殺した冨安に託す…というのが最も賢明だろう。前線については久保が万全ではないことをふまえると左サイドが務まるのは相馬や南野ということになり、個人的には独力での突破ができる前者を推したい。

 

 保守的なダリッチ監督が奇策に出るとは考えにくい。注目はペリシッチとグヴァルディオル。

 

一方のクロアチアは十中八九で予想通りのメンバー起用となるはずだ。代わる余地があるとすれば前線の右とセンターフォワードくらいで、クラマリッチ、マイェル、リバヤの中から二人を選ぶ…というくらいだろう。フル稼働のベテランCBロブレンを若手のエルリッチなどに代える…という可能性もなくはないが、新鋭のグヴァルディオルをはじめ若手が多い守備陣においてリーダーシップを発揮していること、前回大会もヴィーダとロブレンのCBコンビにこだわったことをふまえると、結局は「いつもの11人」が並びそうだ。保守的な采配がたびたびやり玉にあがってきたダリッチ監督が日本相手に奇策に出るとは考えにくい。

 

個人の注目はペリシッチ。左サイドでの先発が濃厚だが、ほとんどの決定機は彼から生まれると言っても過言ではない。縦に抜けるスピードが魅力だったが、30代に突入して中央へのカットインからのシュートというレパートリーも獲得し、より柔軟性のあるアタッカーに進化した。対峙するであろう冨安との1対1は見物だ。

 

また、センターバックのグヴァルディオルは対人守備が水準以上であることに加え、ドリブルでの持ち上がりや鋭い縦パスなど、攻撃面でも貢献度が高い。日本での知名度はモドリッチなどに劣るだろうが、今大会で最注目の若手と言ってもよい。そして中盤3枚(モドリッチ、コヴァチッチ、ブロゾビッチ)のとりわけ攻撃面でのクオリティの高さは私が言うまでもない。

 

 スピードタイプを並べた2トップは一考の価値あり。日本に必要なのは「二の矢」「三の矢」だ。

 

日本が勝利するために必要なのはやはり「予想外」の展開であろう。順応力に優れたクロアチアが相手なので、例えばハイプレスが不発に終わり、プレス回避されてカウンターを食らう…というのも十分に考えられる。「一の矢」が通じなかったときに手詰まりにならないよう「二の矢」「三の矢」を用意しておきたい。例えば、3-4-2-1から4-3-3への変更だったり、浅野と前田の2トップだったり、前半途中からの三笘の起用だったり。

 

個人的にはもし先制を許す展開になった場合には、早いタイミングで鎌田を削って浅野を投入し、3-5-2に移行する策を推したい。クロアチアの両サイドバックのユラノビッチとソサは攻撃面に持ち味があるタイプで帰陣がそこまで早いわけではない。地上戦にも耐えうるスピードを備えたグヴァルディオル相手だと勝ち目は薄いが、スピードに難を抱えるロブレンを狙えばスピード勝負でチャンスが生まれる可能性は決して低くない。