カタールW杯グループステージ第3節。注目の判定・注目の試合をピックアップし、簡単に講評する。

 

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Referee topics

 

オン・フィールド・レビューは必要か。
悩ましいVAR運用ルール。

 

 ガーナ vs ウルグアイ
(Referee: Daniel Siebert VAR: Bastian Dankert)

 

前半15分、シュートのこぼれ球に対してウルグアイGKロチェトとガーナのクドゥスが交錯。ズィーベルト主審およびA1のフォルティン副審は当初はオフサイドとジャッジしたが、ここでVARが介入。OFR(オン・フィールド・レビュー)の末にPKを宣告した。

 

VARの最初のチェック項目はオフサイド。当初判定では、シュートコース上でGKの視線を遮ったアンドレ・アユーのオフサイドを採っていたので、そのチェックからになる。映像を目視すると際どいところに思えるが、「半自動オフサイドテクノロジー(semi-automated offside technology)」で判定しているはずなので、オンサイドであったということなのだろう。そこを確認したうえで、該当の接触シーンをチェックし、ファウルの可能性が高いということでOFRをレコメンド…という流れになった。オフサイド判定についてはVARのみの判断(オンリー・レビュー)で取り消しにできるが、ファウルか否かは主観の判断になるので、OFRが必要になる。

 

当該の接触シーンについては、接触直前にクドゥスがボールをすくい上げたことで、ロチェトはボールに触れず。クドゥス側が「誘った」という印象は否めないが、ボールに触れられなかった以上、ファウルを採ってPKという判定が妥当だろう。すくい上げたボールはゴールライン方向に流れていたのでシュートを打てる状況ではなくなっていたので、DOGSO(決定機阻止)ではなくSPA(チャンス阻止)と判断して、懲戒罰はナシとするのが妥当だろう。

 

後半12分には、裏に抜け出したヌニェスとアマーティが接触するも、ズィーベルト主審はノーファウルとジャッジ。これに対してVARが本日2度目のOFRをレコメンドしたが、結局判定は変わらずノーファウルとなった。

 

当初判定はノーファウルだったので、一見すると「別にOFRをしなくても…」という印象はある。ズィーベルト主審は「アマーティはボールに触れている」というジェスチャーを見せており、映像で見ても僅かにボールの軌道が変わったようには見えたので、ここで「明白な間違い」はない。可能性があるとすれば、「アマーティがボールに触れる前にヌニェスに接触している」もしくは「アマーティの右手がヌニェスの背中を押している」という点を気にしたのかもしれないが、いずれにしてもノーファウルという当初判定が「明白な間違い」や「重大な事象の見逃し」を含んでいたとは思えない。

 

個人的には「非常に重要な事象なので念のため確認しておく」という意味でのOFRはアリだと思っているが、現行のVARの運用原則としては「ジャッジが誤りである可能性が高い」場合にOFRがレコメンドされるべきという考え方のはず。個人的には支持したいが、現行のVAR運用ルールからはやや逸脱していた印象だ。

 

最終盤の後半48分には、エリア内に走りこんだカバーニとセイドゥが交錯して倒れるもノーファウル。カバーニがボールに対して優位な位置にいたのは確かだが、接触直前にセイドゥの進路に右足を晒して接触を誘発したようには見える。もちろんファウルを採る選択肢もあったが、接触を「イニシエート」したという判断でノーファウルというジャッジも十分に受け入れられる。

 

ただし、VARの運用としては、後半12分のシーンでOFRをレコメンドするならば、このシーンも見せたほうがよかったのではないかとは思う。VARのチェックが一瞬で終了しOFRが行われなかったことがウルグアイの怒りに拍車をかけた印象はあるので、これこそ「非常に重要な事象なので念のため確認しておく」をやったほうがよかったようには思う。

 

 カメルーン vs ブラジル
(Referee: Ismail Elfath VAR: Alejandro Hernández Hernández)

 

穏やかな試合で唯一のイベントはアブバカルの退場。イエローカードを1枚もらった状態で、得点後にユニフォームを脱いでしまいイエローカード2枚で退場に。エルファス主審とにこやかに握手を交わし、潔くピッチを去っていった。

 

 韓国 vs ポルトガル
(Referee: Facundo Tello VAR: Nicolás Gallo)

 

後半25分、ソン・フンミンのダイレクトボレーシュートがカンセロに当たるもノーハンド。カンセロの右腕に僅かに当たっているようには見えるが、しっかりと折り畳んで胴体につけており、ノーハンドという判定で問題ない。

 

なお、テーロ主審は2022年11月上旬に開催されたアルゼンチンカップ(トロフェオ・デ・カンペオネス)の決勝で、ボカ・ジュニオルズに7枚、ラシン・クラブに3枚のレッドカードを提示したことが大きな話題となった。

 

とはいえ、クラブ同士の敵対関係や観衆を含めたスタジアムの熱量、ラフプレーや過度なゴールセレブレーションなど、秩序が壊れる要因は多く、審判一人で収めることができるような試合でもなかった。より穏便に収める術はあったかもしれないが、テーロ主審個人にそこまで問題があったとは言いきれない。

 

既に発表されていたカタールワールドカップへの派遣は予定通り行われ、グループステージでも既に2試合を担当している。FIFAの審判委員会としても「審判としての資質に問題なし」という認識のようだ。