UEFAチャンピオンズリーグの第3節。インテルvsバルセロナのジャッジを振り返る。

 

 TODAY'S
 
インテルvsバルセロナ

 

    
Referee:
Slavko Vinčić SVN

Assistant Referees:
Tomaž Klančnik SVN
Andraž Kovačič SVN
 
4th Official:
Rade Obrenovič SVN

Video Assistant Referee:
Pol van Boekel NED
 
Assistant Video Assistant Referee:
Dennis Higler NED

 

ヴィンチッチ主審はスロヴェニア出身の42歳。EURO2020でも決勝トーナメントのイタリアvsベルギーなどを担当しており、カタールワールドカップの審判団にも選ばれている。ここ数年のCLでのジャッジ経験も豊富だ。

 

 最初のファウル、最初のセットプレー。いずれも妥当な判定で立ち上がりは上々。

 

最初のジャッジポイントは6分、ボールを収めようとしたコレアとエリック・ガルシアが折り重なるようにして倒れるがノーファウルのジャッジ。どちらかといえばエリック・ガルシアのファウルには見えたが、アドバンテージシグナルは出していなかったので、ノーファウルということだろう。エリック・ガルシアはややアクシデンタルに転倒しその結果としてコレアを巻き込んだようにも見えたので、ノーファウルという判定は許容できる範疇だ。

 

そのカウンターからインテルが得たセットプレーでは、中央での競り合いで注意を与える。この試合で最初のセットプレーなので、慎重にマネジメントする姿勢が見られる。ラフプレーなどもなくファウルも少ない落ち着いた立ち上がりだったが、要所は引き締めて試合をコントロールしようとしていた。

 

11分、バルセロナのパスワークに巻き込まれかけるがバックステップでなんとか回避。試合全体を通してポジショニングは中央寄りの場面が多かったので、なんとか土壇場で回避はしていたものの、展開に巻き込まれる場面は散見された。

 

 中央寄りのポジションでハンドの見極めに失敗。

 

22分、デフライのロングフィードをクリステンセンがなんとかクリア。こぼれ球をコントロールしたコレアに対して寄せたエリック・ガルシアにボールが当たり、インテル側はハンドをアピール。ここで執拗に抗議をしたバレッラには警告が提示された。

 

リプレイ映像で見ると、エリック・ガルシアの左腕は胴体からやや離れて広がっており、「体を大きくしている」と解釈するのが妥当だろう。結果的にはラウタロがオフサイドだったのでPKはナシとなったが、エリック・ガルシアとしては軽率な対応だったといえよう。

 

ヴィンチッチ主審としては縦の展開に対してついていき距離自体は比較的近い位置をとれていた。ただ外に膨らんで角度を確保することができず、中央寄りでの見極めとなったため、腕とボールの位置関係や接触の有無はやや見極めにくい位置だったか。

 

 PKジャッジ→そのうえでオフサイドジャッジ。難しいVAR運用。

 

なお、結果的にオフサイドを採るに至ったジャッジの流れとしては、以下の通りだ。

  1. ハンドによるPKの可能性があったので、OFR(オン・フィールド・レビュー)を実施
  2. OFRの結果、エリック・ガルシアのプレーがハンドであるとヴィンチッチ主審が判断(←ここは主審の判断が必要なのでOFRが必須)
  3. そのうえで、PKにつながる直前のプレー(APP範囲内)でオフサイドがあったことを確認(←ここはfactなのでVARの映像チェックのみでOK)
  4. オフサイドを採って試合再開

仮に2においてハンドではないという判断に至った場合には、3の手順には進まず、OFRは終了。OFRの前にはバルセロナのコーナーキックの場面だったので、コーナーキックから試合再開となったはずだ。

 

まずはPKであるかどうかのジャッジが必要で、そのうえでPKとなった場合には初めてオフサイドで取り消し…となる。ノーファウルと主審が判断した場合には、オフサイドの場面はVARが介入できない。OFRにおいては先にオフサイドの映像を見せたようだが、本来の手順からすると「PKの場面→オフサイドの場面」の順で見せるのが妥当だろう。

 

ちなみに、このシーンのオフサイドジャッジでは「半自動オフサイドテクノロジー(Semi-automated offside technology)」によりジャッジが下された。かなり際どいジャッジであり、クラニチク副審の見極めを責めるのは酷だろう。

 

 走力不足は早めのポジショニングでカバー。

 

前半の中盤以降は、ペドリなどに厳しく寄せたインテル側のファウルを粛々と採りつつ、選手の抗議は程よく「受け流して」試合をコントロールしようと試みた。トランジションの局面では一気に縦方向にスプリントをかけ、「先回り」する位置取りが目立った。自身の走力がそこまで高くないことをふまえた妥当な対応ではあるか。

 

個人的にはバルサのカウンターを阻止にかかったインテル側のファウルをもう少し厳しく注意してもよかったようには思うが、「好み」のレベルでありヴィンチッチ主審になにか不手際があったとまでは言えない。

 

後半は粛々と。カウンターを阻止するSPA(チャンス阻止)系のファウルは流しがちだったが、59分にブスケッツに警告。ディ・マルコのボール奪取からカウンターにつながりうる展開であり、妥当な警告であったといえよう。

 

 アンス・ファティのハンドは「直後に得点」に該当するか。

 

67分、バルセロナがデンベレの突破からペドリのゴールで同点となるが、VARが介入。ヴィンチッチ主審が本日2度目のOFRを行い、ゴール直前にアンス・ファティの手にボールが当たったことを確認し、ハンドでゴールを取り消した。

 

アンス・ファティにボールを手で扱おうという意図があったとは考えにくく、ことさら不自然な位置にあるとも思えない。ただ、サッカー競技規則には以下の記載があり、偶発的であってもハンドを採られる可能性がある。

 

第12条 ファウルと不正行為「ボールを手や腕で扱う」項目内

 

競技者が次のことを行った場合、反則となる。

(中略)

相手チームのゴールに次のように得点する。
 ・偶発的であっても、ゴールキーパーを含め、自分の手や腕から直接。
 ・偶発的であっても、ボールが自分の手や腕に触れた直後に。

 

 

 

とはいえ、サッカー競技規則に添えられている「2021/22 年競技規則改正の概要と詳細」では以下のような記載もあり、今回の事例は以下に該当するようにも思われる。

手や腕に当たって直接ゴールに入ったり、ボールが競技者自身の手や腕に触れた「直後に」得点したとなった場合のみハンドの反則となる。
(中略)
・ 偶発的にボールが手や腕に触れた後、味方競技者が得点した場合、ハンドの反則にはならず、得点が認められる。

2021/22 年競技規則改正の概要と詳細

 

個人的には、アンス・ファティの腕に当たった直後にペドリがゴールを決めており、これは「直後」と判断すべきと思うが、競技規則の解釈という点ではやや微妙にも思える。(これが「直後」に該当しないのであれば、「直後」ではなく「得点者本人が」と条文に明示すべきだろう)

 

 ドゥームフリースのハンド疑惑は、確固たる映像が見つからず?

 

69分、ブスケッツに対して足裏を見せてタックルしたチャルハノールに警告。足裏がヒットしているが、接触強度はそれほど高くない。警告で留めた判断は妥当だろう。

 

後半終了間際には、セルジ・ロベルトのクロスをクリアしたドゥームフリースのプレーがVARチェックの対象になったがOFRは行われずノーハンドでジャッジ確定となった。WOWOWの中継ではよい角度の映像が放送されなかったので真偽はわからないが、腕に当たっていればOFRになった可能性が高く、確実に当たったという映像証拠が見つからなかった…ということか。

 

なお、ヴィンチッチ主審が腕に当たったことを確認しており「それは意図的ではない」と判断したのであれば、VARが介入しないケースはありうる。ただ、そのパターンにしてはVARチェックの時間がかかりすぎであり、おそらくは「腕に当たった映像証拠が見つからず」だったと考えられる。

 

その後は大きな出来事は特になし。ペドリのゴールを取り消した判定は特にバルセロナ側からすると不満が残るだろうが、個人的には許容しうる判定だったようには思える。(むしろ競技規則の記述自体に疑問を抱かざるを得ない)

 

全体としては中央寄りの位置取りが裏目に出たシーンが目立った印象だ。パスワークに巻き込まれたり、ゴール前での攻防をよい角度で見られなかったり。PK絡みの重要な事象は難しい見極めだったとはいえ、ことごとく見逃したのは悔やまれるところだ。