イングランドプレミアリーグ。激戦をジャッジする主審のみなさんをご紹介。

 

<更新情報>
2021/01/29:21-22シーズン用に初版作成
2022/08/28:22-23シーズン用に更新
2023/08/26:23-24シーズン用に更新

 

※評価は客観的指標に基づくものではなく、個人の見解を大いに含むことをご容赦願いたい。

※年齢は記事投稿(更新)時点。ただし引退した場合には引退時点での年齢を記載。

 

 

Anthony Taylor/アンソニー・テイラー(44)

thefa.comより

 

オリヴァーに次ぐエース格として、ここ数年は国内・国際舞台問わずに活躍中。前回のEUROでは心臓の問題で倒れたエリクセンに対する迅速かつ的確な対応が世界で称賛された。

 

レフェリングとしては、判断力・コミュニケーションスキル・走力など基礎的なスキルは総じて高いレベルにあるものの、大一番ではやや弱気なジャッジが目立つ印象。エースのオリヴァーと比べると、VARに救われる場面もやや多く、ここぞの場面での決断力がもう1ランク上に進むための課題か。

 

個人的にはそこまでミスジャッジが多いとは思わないのだが、なにかと批判されることは多く、特にOFR(オン・フィールド・レビュー)の短さは「判断が拙速だ」と批判されがち。一部で酷評されているポジショニングも、近年は改善傾向にある。

 

カタールW杯は年齢的に最後のチャンスになりそうだが、現時点ではオリヴァーとの序列は際どいところ。一国一人の原則がある以上、今季のCL決勝トーナメントでのパフォーマンスが鍵を握りそうだ。(2022/12/03追記:アンソニー・テイラーはマイケル・オリヴァーとともに2022年のカタールワールドカップの担当審判員リストに選ばれた。)

 

Michael Oliver/マイケル・オリヴァー(38)

goal.comより

 

押しも押されもせぬ、イングランド審判界のエース。ハワード・ウェブの引退、マーク・クラッテンバーグの「転勤」以降の数年、リーグ戦のビッグマッチをことごとく担当してきた。プレミアリーグデビューは24歳のときだが、年上のスター選手に対しても一歩も引かない強気な姿勢を貫き、レッドカード提示に対しても躊躇は見られない。

 

UEFAカテゴリーでもEUROやCLの重要な試合を担当しているが、ヨーロッパでの評価はやや不安定。今季のUCLでのフンメルスへのレッドカードなど、議論を呼ぶ判定も多く、「ビッグマッチに弱い」というレッテルを貼られかけている。

 

レフェリングの特徴は、なんといっても極端な前傾姿勢だろう。特にペナルティエリア内の事象の見極めの際は、重心を下げつつ視点を固定してフォーカスしてジャッジを下す。また、走り方のフォームはやや独特だが、走力自体は高いレベルにあり、プレミアリーグの高速カウンターにも対応可能だ。

 

最近はガムを噛んでいることもあり、「毅然とした態度」に磨きがかかり、もはや「ふてぶてしさ」すら感じる。とはいえ、選手とのコミュニケーションにはむしろ積極的で、穏やかに談笑する場面も見られるようになった。まだ30代で、ここから順調に成熟していけば、数年以内には世界トップに昇りつめる可能性も十分にある。

 

Paul Tierney/ポール・ティアニー(42)

thefa.comより

 

ここ数年で一気に頭角を現し、Wエース(オリヴァー&テイラー)の座を脅かす存在に成長した注目株だ。数年前はとにかく決断力に欠け、レッドカードやPKなどの大きな判定を避ける傾向が強かったが、その課題を克服し飛躍を遂げた。

 

選手とのコミュニケーションを丁寧にとっていくタイプで、コーナーキックでの競り合いにも積極的に介入。以前はイエローカードを乱発する試合も多かったが、キャリアを重ねるごとに安定感が出てきた。

 

今季はコミュニティシールドを皮切りにビッグマッチを次々と任され、PGMOL(イングランド・プロ審判協会)の期待が感じられる。個人的には、コーナーキックを指す際に軽く飛び跳ねる動きが印象的。

 

Martin Atkinson/マーティン・アトキンソン(51) ※引退当時

 
「困ったときのアトキンソン」として定期的にビッグマッチを任される。過去にはヨーロッパリーグ決勝の主審も務めるなど、国内外で実績を重ねてきたベテランだ。ちなみに審判員以外の職業は警察官で、その意味でハワード・ウェブの系譜を継ぐ存在だ。
 
感情の起伏が見えにくく、淡々と振る舞う印象が強いが、PKやレッドカードなどの判定を容赦なく下すなど、ジャッジ自体はけっこう辛口。堅物な印象と大胆なジャッジのギャップゆえか、とにかくアンチが多い。
 
なお、個人的には、2011年にキリンカップのために来日した際に直接お会いし、サインをいただいた思い出深い審判の一人だ。そのときのメンツは、ハワード・ウェブ、マイケル・ムラーキー、ダレン・カン、マーティン・アトキンソンの4名。アトキンソン主審の印象は「寡黙」だった。
 

2022/08/28追記:

マーティン・アトキンソンは21-22シーズン限りでプレミアリーグの主審を引退。プレミアリーグでは2004年からのキャリアで462試合を担当し、67枚のレッドカードと1,491枚のイエローカードを提示した。W杯出場歴はなかったものの、国際主審としてELなどのヨーロッパコンペティションでは多くの重要な試合を担当した。

今後は「Select Group 1」のコーチに就任するとのこと。同じく引退組のモスは「マネージャー」だそうなので、より技術的な指導がメインになるのかもしれない。

 

Stuart Attwell/スチュアート・アットウェル(40)

 

当時のプレミアリーグ最年少審判としてデビューしたアットウェル主審も、40歳目前に。ゴーストゴール事件など様々な経験を経て、堅実なレフェリングをウリとする「イギリスっぽい」主審に仕上がった。

 

特筆すべきは走力の高さ。瞬間的なスプリント、終盤でも衰えない持久力などフィジカル的な要素はプレミアリーグのみならず、世界でも指折りのレベルだ。しかし、特に国際レベルでは、走力を全く必要としないVAR要員として重宝されている印象。

 

Mike Dean/マイク・ディーン(54)※引退当時

telegraph.co.ukより

 

2000年に「Select Group 1」入りしてから20年、500試合を以上を担当し、PL最多主審担当記録を更新し続けている。昨季はVAR絡みでのミスジャッジが続き、殺害予告を受けるなど難しいシーズンを過ごした。

 

心機一転、今季は第10節時点でまさかのレッドカード提示がゼロ。選手を落ち着かせるレフェリングが目立ち、カード乱発の時代はもはや過去の姿か。走力に依存するタイプではないので、加齢による衰えはそこまで影響しない可能性が高い。円熟のレフェリングに期待。

 

2022/08/28追記:

マイク・ディーンは21-22シーズン限りでプレミアリーグの主審を引退。プレミアリーグでの担当試合数は560で歴代最多。レッドカードは大台の100を超えて114、イエローカードも2,046で歴代トップを総なめにしている。物議を醸す判定を含め、プレミアリーグの歴史で最も話題性が大きかった審判の一人であるといえる。

同じく引退したモスやアトキンソン、フレンドが指導職に就く中で、ディーンはVAR専任として現場に残る。直近でもDaily Mailへの寄稿でVARを務めた試合での「後悔」を綴って話題に。彼をピッチで見ることはなくなったが、これからもイングランドフットボール界では影響力を保ちそうなようすだ。
 

Jonathan Moss/ジョナサン・モス(51)※引退当時

 
ディーン主審とともにプレミアリーグの名物審判の一人。「Select Group 1」として10年目を迎えるベテランで、以前は誤審連発でトンデモ審判の一人とみなされていたが、ここ数年のパフォーマンスは決して悪くない。
 
走力に劣る彼にとっては、VARは安心材料と言えるのかもしれない。また、50代に突入し、展開を予測した早めの動き出しができるようになり、絶対的な走力不足をうまく補えている印象だ。
 

2022/08/28追記:

ジョナサン・モスは21-22シーズン限りでプレミアリーグの主審を引退。プレミアリーグでは2011年からのキャリアで275試合を担当し、39枚のレッドカードと893枚のイエローカードを提示した。

今後は「Select Group 1」のマネージャーに就任し、1部リーグ担当審判員の指導を行うとのこと。

Craig Pawson/クレイグ・ポーソン(44)

 
年齢的には中堅の域だが、ここ数年の課題である決断力の不足は全く改善される気配がない。比較的ゆっくりとジャッジを下す振る舞いが、「決断力に欠ける」「煮え切らない」とみなされがちだ。
 
ビッグマッチを度々任されるが、煮え切らないレフェリングで選手に詰め寄られるシーンが目立つ。比較的高いレベルにある走力を判定に活かしきれておらず、年齢的には頭打ち。ティアニー主審をはじめとする下の世代の突き上げを受けており、いよいよ立場が苦しくなってきた。
 

Peter Bankes/ピーター・バンクス(41)

 
堅実でとにかく「目立たない」印象。一昨季から「Select Group 1」に昇格したが、いわゆるビッグマッチでの主審割当はなく、全幅の信頼を得るには至っていない。
 
選手とのコミュニケーションも必要最低限、リスクマネジメントよりは対症療法という傾向が強く、古典的な審判像を体現している。VAR担当としては着実にキャリアを積み上げているが、主審としては接触の見極めを誤るシーンも散見され、伸び悩みの印象が否めない。
 

David Coote/デイヴィット・クーテ(41)

skysports.comより

 

ファン・ダイクの大怪我につながったピックフォードのプレーをVAR担当して「黙認」するなど、VAR担当としての失態が続いたクーテ主審。ここぞの場面での決断力のなさが批判の的だが、痩身で不安げな表情という外見がマイナスに作用しているのも否めない。

 

40歳を手前にして正念場を迎えており、本人も危機感があるのか、今季は懸命なスプリントで争点に近寄るシーンが目立つ。今季はここまで大きなミスはないが、裏を返せばプラス査定につながる「余裕」もない。

 

Andre Marriner/アンドレ・マリナー(52)※引退当時

thefa.comより

 

人違いでギブスを退場させた事件はあまりにも有名で、アーセナルファンのみならず記憶がある方も多いだろう。ここ数年で一気に走力が衰え、争点から遠い位置で判定を下す場面が目立つ。高圧的な態度(&威圧的な目力)は世論では不評だが、ここ最近は選手と和やかにコミュニケーションをとる場面も見られる。

 

中堅の突き上げで尻に火がついたか、今季は懸命なスプリントで展開に付いていこうとするシーンが目立つ。ディーン、モス、フレンドなど同年代の審判の引退が相次ぐ中で、キャリア晩年にして進化を遂げようとしているが、果たして。

 

2023/08/26追記:

アンドレ・マリナーは22-23シーズン限りでプレミアリーグの主審を引退。プレミアリーグでは2004年からのキャリアで391試合を担当し、レッドカードは61枚、イエローカードは1,236枚であった。

23-24シーズンはVAR専任として現場に残るとのことだ。

 

Chris Kavanagh/クリス・カヴァナー(37)

sportingnews.comより

 

個人的には高く評価している審判の一人。コミュニケーション、走力などバランスがとれた審判であり、ダービーマッチを任されるなど着実にキャリアを築いている。

 

ジャッジ自体は悪くないのだが、弱気にも見える振る舞いゆえか、評価は決して高くない。今季はVARのお世話になる機会も多く、主審としてのパフォーマンスはやや低下気味。ティアニー主審と完全に序列が逆転したか。

 

ここ最近では大一番でのVAR担当としての割当が目立つ。イングランド主審ともども、スペインのムヌエラやイタリアのイッラーティのようなVARのスペシャリストと化していくのか。

 

Andy Madley/アンディ・マドレー(39)

nufc.co.ukより

 

昨季から「Select Group 1」に昇格。障害者に対する差別動画投稿によりPGMOLを解雇された元PL主審ボビー・マドレーの実兄で、ややぽっちゃり気味の風貌は兄弟そっくりだ。

 

審判としてのパフォーマンスは可もなく不可もなく。中央寄りのポジショニングが目立つが、細かい見逃しもあり、なかなか説得力のあるレフェリングは見せられていない。若く見えるがもう40歳目前で、ここから飛躍を遂げるのは正直難しいか。

 

Graham Scott/グラハム・スコット(55)

twitter.comより

 

今季のプレミア最年長主審。50代としては走力は高いレベルにあるが、肝心のジャッジのレベルはここ数年は低下気味。争点の見極めを誤ってVARに救われる場面が目立ち、そろそろ潮時か…という印象もある。

 

選手とのコミュニケーションに積極的なタイプではなく、選手の抗議は大半の場面で「無視」している。今では少数派になったいわゆる「古典的」な審判の一人。

 

Darren England/ダレン・イングランド(38)

telegraph.co.ukより

 

副審としてプレミアリーグやFA杯で活躍したのち主審に転身し、昨季に「Select Group 1」に昇格を果たした。個人的な印象としては「悪くはないが際立って良いわけでもない」という感じで、ここぞの場面での決断力には欠け、VARにジャッジを修正されるシーンがとにかく多い。

 

副審として培った走力の高さは買えるが、角度がよくない状況で見極める場面が目立ち、ポジショニングに大きな課題が見られる。副審としての活躍を上回るパフォーマンスは見せられておらず、このままだと「主審と副審の視点を兼ね備えたVARのスペシャリスト」になっていく可能性も。

 

Kevin Friend/ケヴィン・フレンド(50) ※引退当時

thefa.comより

 

09-10シーズンからプレミアリーグの主審を務めるベテラン。おおむね安定感があるものの、VAR導入前には1シーズンに何度か物議を呼ぶジャッジを下すことがあった。どちらかと言えばフィジカルコンタクトには寛容で、ファールをとってもらえなかった選手に詰め寄られるのは日常茶飯事だ。

 

堅い表情を崩さずに仏頂面で対応するのが常だったが、ここ数年は笑顔を見せる場面も。プレシーズンマッチでは、自陣を揶揄するチャントを歌うサポーターに警告を提示する茶目っ気も見せ、堅物のイメージが軟化しつつあるか。

 

2022/08/28追記:

ケヴィン・フレンドは21-22シーズン限りでプレミアリーグの主審を引退。プレミアリーグでは2009年からのキャリアで273試合を担当し、33枚のレッドカードと931枚のイエローカードを提示した。

今後は「Select Group 2」(イングランド2部リーグを主に担当する審判グループ)の指導を行うとのこと。

 

Robert Jones/ロバート・ジョーンズ(36)

mirror.co.ukより

 

おそらくプレミアリーグの主審の中で最長身。端正な顔立ち含めて女性ファンは多いと思われるが、まだ割当試合数が少なく、審判としての実力は未知数。

 

落ち着いた振る舞いが目立つが、争点からやや遠い位置での判定が目立つ印象。長身ながらに頑張って走ってはいるが、展開に置いていかれるシーンも散見される。

 

Simon Hooper/サイモン・フーパー(41)

skysports.comより

 

2018年から「Select Group 1」に入っているが、担当試合数はなかなか増えず。ビッグマッチをほとんど任されることなく、目立たない存在に成り下がりつつある。

 

昨季限りで主審を引退したリー・メイソン氏を彷彿とさせる明らかなオーバーウェイトで、縦に速い展開には大きく遅れる場面も散見される。VARの恩恵を最も享受する一人だが、40代手前で決して若くはない。若手の突き上げを前に、カップ戦要員・VAR要員に成り下がっていくのか。

 

 
なお、以下の4名は21-22シーズンから「Select Group 1」のリストに入った。今後の活躍に期待だ。
  • Jarred Gillett/ジャレット・ジレット(36)

  • Michael Salisbury/マイケル・サリスバリー(38)

  • John Brooks/ジョン・ブルックス(33)

  • Tony Harrington/トニー・ハリントン(?)

このうち、ジレット主審はオーストラリア出身で、プレミアリーグ初の外国籍の主審として話題となった。第6節のワトフォード vs ニューカッスルでデビュー。ソツなくこなし及第点のデビュー戦となった。まだ審判としての特徴は見えないが、今後の活躍に期待。

 

ちなみに、ブルックス氏、ハリントン氏は副審からの転身組。昨季に昇格したダレン・イングランド主審含め、このところ副審からの転身が目立つ印象だ。

 


 

2022/08/28追記:

22-23シーズンから「Select Group 1」のリストに入った主審は以下の1名のみ。30代前半での昇格ということで、地味だが着実に高齢化が進んでいるイングランドの審判界に新たな風を吹き込んでほしいところだ。

 

  • Tom Bramall/トム・ブラモール(33)


 

2023/08/26追記:

23-24シーズンから「Select Group 1」のリストに入った主審は以下の2名。いずれも昨季以前にプレミアリーグデビュー済みであり、年齢を考えても即戦力としてみなされていると思われる。昨年にモス、ディーン、アトキンソンが引退し、今年はマリナーが引退。過渡期を迎えたプレミアリーグ審判界においてフル稼働が求められる。

なお、ティム・ロビンソンはEFLで副審を務めた経験があり、ダレン・イングランド、ジョン・ブルックス、トニー・ハリントンなどの系譜に連なる「副審出身の主審」である。このような転身は近年増加傾向にあるようだ。

 

  • Tim Robinson/ティム・ロビンソン(39)

  • Darren Bond/ダレン・ボンド(44)
ちなみに、同じく23-24シーズンから「Select Group 1」に入った審判員としては、副審のAkil Howson/アキル・ホーソンの名前も挙げておきたい。ホーソンは黒人であり、黒人がプレミアリーグの審判員を務めるのは史上二人目となる。まだ32歳と若いので将来性も十分であり、今後の活躍に期待が高まる。

(以下、参照ページ)