ディバラ欠場のユヴェントス、シティに敗れたリーグ戦からの立ち直りを図るチェルシー。グループHの第1節の一戦を講評する。

ユヴェントスvsチェルシー

<総評>
虎の子の1点を守り抜いたユヴェントス。チェルシーはサイド攻撃のメカニズム構築が急務。

キエーザとツィエク。アタッカーの出来が鍵になる。

ディバラとモラタが負傷欠場となったユーヴェは、キエーザとベルナルデスキを2トップで起用。純粋なフォワードは不在で、クロスからの攻撃はさほど期待できない布陣で、キエーザのドリブル突破が鍵となる。

 

一方のチェルシーはカンテが新型コロナウイルス陽性で欠場し、マウントとジェームズが負傷欠場。注目は久々の先発となったツィエクで、引き気味に守りを固めることが想定されるユヴェントスの守備をこじ開ける高速クロスに期待がかかる。

 

序盤は積極性が目立ったツィエク。左サイド起用は殻を破るきっかけに?

立ち上がりはどちらかといえばチェルシーペース。コバチッチとジョルジーニョを軸にショートパスを交換しながら、両ウィングバックが幅をとって攻め手を伺う形となった。

 

その中で積極性が際立っていたのはツィエク。今節は左寄りの位置で起用され、斜めのランニングで裏に抜け出しクロスを供給する場面が目立った。幅広く動きながらボールを引き出す一方で、プレッシングも非常に精力的で、立ち上がりに印象的な働きを見せていた。

 

これまでは右サイドでの起用が多かったが、切り返しからのクロスというパターン一辺倒になりがちな傾向もあった。左サイドで起用することで、シンプルなクロス供給を軸にしながらも、マルコス・アロンソなどとの連携を期待したか。

 

ユヴェントスは「身の丈に合った」戦術選択。「しっかり守ってカウンター」は合理性がある。

チェルシーにかなり押し込まれる展開となったユヴェントスだったが、ある程度は想定内だろう。その中でも前半7分、相手陣内でボールを奪ってショートカウンターを打ったシーンはまさに狙っていた形だ。この場面はベルナルデスキの判断が遅れてコバチッチに止められてしまったが、得点の可能性を最も感じるプレーの1つであった。

 

その後も前半18分、20分とラビオやキエーザがパスカットからカウンターに出るシーンが続いた。純粋なセンターフォワードがいないこと、そしてボヌッチ&デリフトというルカクに太刀打ちできうる強度の高いセンターバックがいることをふまえると、「自陣でブロックを作って辛抱強く守り、カウンターに活路を見出す」という戦い方は非常に合理的だ。

 

ユヴェントスとして最も避けたかったのは自陣でのボールロストであり、その点でロングボールをうまく使ったリスク回避のビルドアップも妥当。スピードに弱みがある両センターバックがルカクと競走になることを避ける意味でも、ライン設定を低くした選択も妥当。アッレグリ監督の選択は非常に「身の丈に合った」戦い方だったといえよう。

 

ボランチが封殺されるチェルシー。マウントとカンテの不在が痛い。

チェルシーとしては前半の中盤以降は攻撃が停滞気味に。ユヴェントスの中央守備が固く、ハヴァーツがバイタルエリアでボールを受けても孤立してしまいボールを失うシーンが目立った。

 

苦戦の要因となったのは、ジョルジーニョとコバチッチの両ボランチが厳しくマークされたことだろう。キエーザやベルナルデスキは、守備時はボランチ2名をマンマーク気味に監視し、ジョルジーニョの組み立てとコバチッチの攻め上がりに蓋をしていた。攻守に貢献度が高い両ボランチが、ボールを散らすことができなかったため、攻撃が同サイドに偏りがちでダイナミックな展開が鳴りを潜めた。

 

ボランチが封じられる展開になると、組み立てを助けながら崩しにも関与できるマウントの不在が痛い。また、ダイナミックな持ち上がりや飛び出しができるうえに、カウンターを止めるフィルター能力も併せ持つカンテも、欠場が嘆かれる選手の一人だ。

 

ユーヴェは一瞬のスキをついて先制。トゥヘル監督の交代策も的確だったが…。

後半開始直後のユヴェントスの先制点はまさしく「一瞬のスキ」といえよう。チェルシーがメンバー交代で「さぁ、攻撃へ」というマインドの中で、守備のマークが完全に後手後手になり、最後はリュディガーがキエーザに走り負けた。チェルシーの「緩さ」はあったが、ワンチャンスを決めきるキエーザのクオリティを褒めるべきだろう。

 

スペースを消されて攻撃に苦慮した前半の展開を考えると、狭い局面でのボールタッチに長けたチルウェルの投入は非常に合理的だ。独力で仕掛けられるハドソン・オドイ、ミドルシュートやエリア内での強さもあるロフタス・チークの投入も妥当。スペースがない状況で持ち味を出せないヴェルナーを起用しなかった点を含め、トゥヘル監督の交代策は適切であった。

 

チェルシーはサイド攻撃の厚みに課題。中央突破を封じられたときの攻撃オプションの構築が必要だ。

交代策自体は妥当だったが、肝心の選手個々人のパフォーマンスはいまひとつ。今季出場が少ないハドソン・オドイは明らかに動きにキレがなく、チャロバーはボランチとしては攻撃面でのクオリティが足りない(それを実感してか、バークリーを投入してチャロバーを最終ラインに下げたが)。返す返すも、マウントやカンテの不在が痛い。

 

また、攻め方としては試合を通じて中央突破にかなりこだわった印象だが、ユヴェントスの中央の守備はかなり強度が高いので、サイドをもう少し使いたかった。立ち上がりにツィエクがサイドに流れるシーンはあったものの、2シャドーやボランチがなかなかサイドに顔を出さないので、ウィングバックがサイドで孤立していた印象だ。

 

今まではルカクがフィジカルで優位に立つことで中央突破を成り立たせていたが、今節のように中央を封じられた状況では攻め手が一気に減った印象だ。2シャドーの立ち振る舞いを含めて、サイド攻撃の構築はチェルシーの大きな課題として露見した。

 

<審判評>
抗議への厳しさはいつも通り。走力は文句なし。及第点は付けられる。

Referee:Jesús Gil Manzano (ESP)
Assistant referees:Diego Barbero (ESP)、Ángel Nevado (ESP)
Video Assistant:Juan Martínez Munuera (ESP)


リーグ戦ではジョアン・フェリックスとひと悶着あったマンサーノ主審だが、審判界隈からの信頼は揺るがず。CLでも大一番を任された。

 

前半18分、笛が鳴った後にクアドラードの頭を叩いたマルコス・アロンソに警告を提示。まったくもって不必要なプレーで、攻撃が停滞するフラストレーションが発露した振る舞いであり、警告は妥当。小競り合いを予測してか、球際にしっかり近寄ったポジショニングは見事であった。

 

前半40分、ユヴェントスのシュートが外れたのを見て、直前のファールにロールバックしてFKを与えた。ここはアドバンテージの適用範囲をどう捉えるかで賛否が分かれるところだろうが、個人的には「シュートを打った」ことで充分に利益を得たと判断するほうがよかったようには思う。とはいえ、FKはユヴェントスにとって大きなチャンスとなるし、ロールバックした気持ちはわかるし、許容できない判定ではない。

 

先制点直後、ベルナルデスキが倒れたシーンは間近で見極めノーファールのジャッジ。ジョルジーニョは確かに遅れてはいるが、ベルナルデスキ側が飛び込んだ印象が強く、ノーファールが妥当だろう。

 

54分、デリフトに対してハヴァーツがアフターでチャージしたがプレーオン。副審1の目の前だったはずだが、主審ともどもボールの行方に目を移して、「目を切って」しまったか。ノーファールという判定は大きな疑問が残る。

 

61分、ハヴァーツがペナルティエリア内で倒れるがノーファール。背後から追走する中で接触はあったものの、軽微であり「ノーマル・フットボール・コンタクト」だとう。それに続くプレーでツィエクに警告を提示。ボールに対するスライディングではあったが、キエーザの足にクリティカルヒットしており、この判定も妥当だ。

 

65分にはマンサーノ主審に詰め寄ったリュディガーに速やかに警告を提示。抗議に厳しいのはスペイン人審判の特長の1つだが、マンサーノ主審はその中でも急進派。「あれをやったらそりゃ出るよね」という印象だ。

 

試合全体を通じては、高い走力に裏打ちされたポジショニングの良さが光った。PKかと思われるシーンはいくつかあったが、非常に近い位置で見極めており、醸し出す納得感は高い。後半まで衰えなかった点も含め、フィジカル的な部分は文句なしだ。

 

オーバー気味のジェスチャーと選手を煽るような場面もあるコミュニケーションは好みが分かれるかもしれないが、個人的にはわかりやすくてよいと思う。判定自体はいくつか「あれ?」と思うシーンはあったものの、少なくとも及第点は付くであろう。