いよいよ大会も最終盤。W杯予選敗退から復権を期すイタリア、わずか1失点で安定感が際立つイングランド。大国同士の対戦となったEURO2020決勝を展望する。

 

イタリアvsイングランド

<審判評>
円熟のレフェリングで大崩れの心配はナシ。有終の美を飾れるか。

Referee:Björn Kuipers (NED)
Assistant referees:Hessel Steegstra (NED)、Jan de Vries (NED)
Video Assistant:Pol van Boekel (NED)


カイペルス主審は、2014年CL決勝、2013年と2018年のEL決勝などを経験した48歳。ここ数年のCLでも重要な試合を任されており、UEFAからの信頼も厚い。今大会では走力にやや衰えが見られるものの、経験を活かしたリスクマネジメントが光り、安定感のあるパフォーマンスを見せている。

 

対話を重視するタイプで、選手と積極的にコミュニケーションをとって試合を進める傾向が強いため、大荒れの心配はなさそう。中盤での激しい攻防が予想されるが、秩序が失われるリスクは高くないだろう。

 

年齢を考えると、EURO2020が国際的には最後の大舞台になる可能性もある。同郷の後輩マッケリー主審は、準決勝のPK判定で大批判を浴びているが、オランダ人の先輩は有終の美を飾ることができるか。

 

※個人的には、マッケリー主審の判定は誤審ではなく支持しているのだが…。

 

<総評>
チームとしての成熟度は甲乙つけがたい。鍵となるコンディションはイングランドがやや優位か。

イタリアの強みは中央の守備の固さ。

まさかのW杯予選敗退からの復権を期すイタリアとしては、決勝進出はすでに「出来すぎ」であり、ベルギーやスペインなどの難敵を下しての突破は、大きな自信となっている。

 

今大会序盤で際立っていた中盤の質の高さは、連戦もあってか若干トーンダウンしている印象。スペイン戦では中盤のプレスが機能せず、スペインにボールを支配される展開となった。

 

それに代わって際立つのが中央の守備強度である。キエッリーニとボヌッチの両ベテランがゴール前に鎮座し、中盤の底ではジョルジーニョが睨みをきかせる中央の守備強度は大会屈指。まさしく「カテナチオ」だといえよう。

 

イタリアは攻撃陣の奮起が必要。キーマンはインモービレ?

キーマンとして注目したいのはインモービレ。イングランド守備陣の中心であるマグワイアはスピードに難があるうえに、左サイドバックのショーは攻撃に比重を置きがち。キエーザとうまく連携しながら右サイド(イングランド左サイド)の裏のスペースをうまく突きたいところだ。

 

イタリアのCFは、インモービレが決勝トーナメントで無得点なのに加え、ベロッティにもゴールがない。大一番ではヴィエリ、トーニの系譜を継ぐ点取り屋の活躍が不可欠で、ストライカーの奮起が求められる。

 

イングランドの攻め手は確実に増えている。

一方のイングランドは、グループステージでは試合運びの拙さが目立ったものの、勝ち上がるにつれて結果・内容ともに完成度が高まっている印象だ。

 

攻撃を牽引するのはコンディションの良さが窺えるスターリングだが、中央で巧みにボールを引き出すケインの働きも見逃せない。準々決勝まではサイドを起点とする組み立てが目立ったが、準決勝のデンマーク戦では中央突破もまずまず機能。攻め手は確実に増えてきている。

 

攻撃のカギを握るのはショーの働きだろう。効果的なオーバーラップで攻撃に厚みを加える彼の働きは、イタリアの強固な守備陣を突破するための有効な一手となりそうだ。守備時に対峙するのがキエーザということもふまえると、勝負の後半まで体力を残せるか…という点もカギにはなりそうだ。

 

イングランドにとって中盤でのボールロストは致命傷になりかねない。

準決勝のデンマーク戦でやや気になったのは中盤のボールロストだ。デンマークの連動したプレッシングで追い込まれた末に、インターセプトされてショートカウンターを食らうシーンが散見された。

 

決勝で対戦するイタリアのプレス強度はデンマークを上回る。もちろんボール保持は大切にしたいが、「ボールの失い方」も注意を払う必要があるだろう。前線両サイドのスピードなどを考えると、裏へのロングボールというのも一策にはなるはずだ。

 

イングランドの左サイドvsイタリアの右サイドの攻防は要注目。

試合のカギを握るのは中盤での攻防であろう。プレッシング&ショートパスの交換という同じような特長を持つ3枚が対峙する中で、どちらかが主導権を握れるか…は試合の大勢を左右する。

 

もう1つ注目となるのは、イングランドの左サイドvsイタリアの右サイドの攻防だ。イタリアはキエーザのドリブル突破、イングランドはスターリング(もしくはグリーリッシュ)のドリブル&ショーのオーバーラップ、という攻撃面での強みを抱えるサイドであり、ここでどちらかが優位に立つかは注目だ。

 

とくにキエーザvsショーのマッチアップはこの試合でのナンバーワン注目ポイント。「ショーの攻め上がり」はすなわち「キエーザがドリブルできるスペース増加」を指すが、ショーの攻め上がりに対してキエーザがプレスバックしなければ、ディ・ロレンツォtoしても苦しい。

 

イタリアとしては、守備はバレッラが担って、キエーザはあえて前線に残るという選択肢もある。イングランドとしては、ライスやマウントのカバーが生命線になりそうだ。

 

コンディションはイングランド優位。ホームの大声援を受けて、サッカーの母国が遂に戴冠か?

両チームともに戦術的な完成度は高く、決勝にふさわしい一進一退の攻防が予想される。結果予想は困難を極めるが、強いて言えばイングランドがやや優位か。

 

今大会は短期決戦であるうえに、長距離移動なども絡み、消耗戦になる傾向が強い。そんな中で、イタリアはベスト16と準決勝で延長戦を戦っており、ベスト8のベルギー戦も決して楽な戦いではなかった。

 

一方のイングランドは、ベスト16のドイツ戦、ベスト8のウクライナ戦は90分で勝利。とくにウクライナ戦は大量リードで余力を残して試合を進めることができたのが大きかったといえよう。準決勝で延長戦を戦ったものの、「疲労困憊」という印象はなく、コンディションに大きな問題はなさそうで、その点ではやや優位か。

 

ホームの大歓声を味方につけるという点も考慮してイングランドの勝利を予想するが、イタリアにも十分チャンスはある。観衆も含めて、ハードながらもフェアな試合を期待したい。