彼の今後の方向性に関して、ケア会議が開かれた。
参加者は、俺、指導医、病棟師長、ソーシャルワーカー二名、
市役所保護課職員二名、保健所職員一名。
午前中、二時間ほど議論を重ねた。

彼の生活能力のなさが問題だった。
まずは一人暮らしをできると認められなければ、
単身生活のためのアパートの手配はできないと保護課は言う。
それは当然だ。

そこで、まず一人暮らしの能力を身につけるために、
更生保護施設を行くべきであろうという結論に達した。
その施設が入所を拒否するようなら、それからまた別の道を模索する。
とにかく、まずはその施設入所にトライすべきである。
一人暮らしの能力があると認められたら、
生活保護もアパートの手配もできるということであった。
その後、本人を呼んで、俺、保健所職員、保護課職員それぞれから、
今後の方針に関して一つ一つ説明し、彼は同意した。

午後。
彼が「退院する」と言い出した。
もともと、医療的には入院の必要のない人である。
止める理由は一つもない。
とはいえ、理由は聞いておきたい。
彼を面談室へ呼び出した。
俺以外に、指導医、病棟師長、ソーシャルワーカーが同席。

退院したい理由を問うと、彼はこう答えた。
「最初に聞いていた話と違う。納得がいかない」
彼の言っている意味が分からなかった。
午前中、二時間もかけて彼の今後を話し合い、彼に結論を伝え、
それに彼は同意したはずではなかったのか。
そこで、何が納得いかないのかを聞いた。彼は、
「生活保護課の職員からは、病院に入院したら生活保護ももらえて、
アパートも手配してもらえるという風に聞いていた」
と答えた。
俺は、その件に関しては午前中に説明したように、
まずは更生保護施設で一人暮らしの能力を身につけてからということを説明した。
すると、彼はこう言った。
「更生保護施設には行きたくない。顔見知りに会いたくない」
なんというワガママ。
結局、自分では何一つ努力したり我慢したりしたくないのだ。

そして、彼が最後に放った一言が、俺の怒りに火をつけた。


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