母を背おいて そのあまり

軽さに泣きて 三歩あゆまず

          石川啄木


 昔うちにいた犬が老衰で、よたよた散歩していたら動かなくなった。


 寒い日で、雪がちらついていた。


「はな、帰ろ」


 それでも応えず小刻みに震えるばかり。


 茶色い冬毛に雪がからむ。


 風邪をひいてはいけないと思い、どれくらい振りかで彼女を抱き上げた。


 かるくて……余りにかるくて、視界がぼやけた。


 ――――それからしばらくして、春を待たずに彼女は召された。


 冷たい雨の日だった。火葬場へ向かう道中涙が止まらず、ハンドルを持つ手は震えていた。


 何時までも忘れない、その雪の日と冷たい雨の日のシーン。
 ……最近よく思い出す。


 気が付けば隣りには薄い身体が寝息をたてている。いや……うなされている。苦し気な呼吸の浅い睡眠。


 そっと枕を高くする。少し安らいだ声で

「ありがとう……」

 ……わたしをあやした腕はいつの間にこんなに細くなったのだろう……。


 それを思うと堪らない。


 それでもいざとなれば背おう、その覚悟はある。


 今日も晴れますように。


 大切な人が少しでも楽に過ごせますように。


       2011.0802.AM4:00
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